持続可能な児童委員、主任児童委員活動に向けて
主任児童委員による座談会
- 分野 こども /
- エリア全県 /
- 推進主体 民生委員・児童委員 /
- キーワード地域での支えあい活動 /

令和6年度福祉タイムズの連載「キラリ輝く!児童委員活動」の総括として、2月号および3月号では執筆にご協力をいただいた県内の主任児童委員4名と学識者による座談会を開催し、児童委員、主任児童委員活動の現状や課題、持続可能な児童委員、主任児童委員活動に向けた思いなどを語っていただきました。
参加者
- 目代 由美子 さん(川崎市宮前区宮前第三地区民児協)
- 豊田 里美 さん(相模原市中央区星が丘地区民児協)
- 小林 美幸 さん(藤沢市明治地区民児協)
- 長原 桂 さん(鎌倉市第一地区民児協)
- いずれも主任児童委員
聞き手
- 泉谷 朋子 さん(聖隷クリストファー大学准教授)
以降は敬称略
各地の活動の様子や課題について
(泉谷)まず、主任児童委員として現在どのような活動をされているのか、課題等を含めてお伺いします。
(目代)私が新人だった20年ほど前は関係機関と情報交換を行うことが多く、PRチラシ等を配布しながら地道に今の活動につなげてきた印象があります。今では赤ちゃんサロン等、当然のように活動していますが、主任児童委員を取り巻く状況の変化を感じます。一方、新任の主任児童委員が仕事のため定例会を休みがちになり、民児協内で孤立している等の話も聞かれたため、単位民児協会長の集まる会議で主任児童委員ともコミュニケーションをとっていただくようお願いしています。
目代さん(川崎市宮前区)
(小林)最近、藤沢市の人口増加に伴い若いお母さん達も増えています。子どもの様子を常に把握する必要性を感じていたので、子どもの居場所をサポートする、市の「地域子どもの家」の運営にも参加しています。藤沢市では年4、5回開催する主任児童委員連絡会で児童相談所や市職員と事例検討や情報交換を行っていますが、他地区の主任児童委員とも機会のあるごとに励まし合い、情報交換するよう努めています。
小林さん(藤沢市)
(長原)鎌倉市には10地区の民児協があり、1地区2名の主任児童委員が配置され、月に一度の10地区が揃う連絡会で情報交換を行っています。子育てサロンでは、各地区それぞれの特色を活かし「本の読み聞かせ」や「公園遊び」「コンサート」等を行い、地区を問わず子どもや親のニーズに合った活動に参加できるよう配慮しています。午前中に乳幼児の居場所として利用できる「放課後かまくらっ子(学童保育・アフタースクール)」は、運営が民間委託となり、意思疎通が難しい地域もあるのが現状です。しかし、実際に行事に参加した小学生と乳幼児との関わりや楽しそうな姿を見ると、年齢を超えた交流の大切さを感じ、主任児童委員が間に立ってよい関係を築いていきたいと思いました。
長原さん(鎌倉市)
(豊田)相模原市では主任児童委員の集まる機会が年4、5回あり、その際に教育委員会や児童相談所等の協力によりセミナーや情報交換等を行っています。活動には市が行う「子育て広場(育児相談等)」への参加や地区での子育てサロンの実施等がありますが、参加する子どもの数は減少傾向にあります。学校との連携は活動上とても重要ですが、先生の異動等で子どもの情報が十分に得られなくなることがあります。そのため学校をはじめとする関係機関と主任児童委員との関わり方について共通した指標のようなものがあれば良いと考えています。一方、主任児童委員自身もその役割や活動の仕方について悩みを抱えている方も多く、現在、ハンドブックを作成しているところです。
豊田さん(相模原市中央区)
委員活動のサポートについて
(泉谷)藤沢市で作成されたハンドブックについてお聞かせください。
(小林)藤沢市では令和6年3月、福島県版を参考に主任児童委員ハンドブックを作成しました。内容は主任児童委員の歴史から始まり、実際の活動、実施した研修の概要等を掲載していて、市内の主任児童委員、民生委員・児童委員に一人一冊配布しています。
(泉谷)福島県版のハンドブックをもとに、地域の実情に合わせて作成している地域はいくつもあります。
福島県版は当初、主任児童委員間の引き継ぎを目的に作成されたようですが、民生委員さん等にも配布されたと聞いています。引き継ぎについて、鎌倉市はどうですか。
(長原)10年ほど経験のある主任児童委員の先輩から引き継ぎました。「地元で顔を覚えてもらうことが一番の役割」と助言をいただき、登下校時の子どもへの挨拶や子育てサロンでのお母さん同士の交流、地域活動のお手伝いなど、できる範囲で取り組んでいましたが、着任後数ヶ月でコロナにより活動が中断しました。サロン再開の頃、転居のため主任児童委員が私1人になった時は民生委員にご協力いただきました。また、知り合いの看護師さんがご家族の介護で休職すると聞き、介護の気分転換にもなるかと、子育てサロンの活動にお誘いしたところ、快く参加してくださいました。我々も参加者も、とても心強く感じたことを覚えています。
(泉谷)子ども達は名前が分からずとも、活動を通してこの人は信頼できると認識します。そうなると主任児童委員も前向きな気持ちになる。しかし何をしたらよいか分からないと悩み、1期で辞める方が多いのも事実です。
学校との関わりについて
(目代)自身はPTA活動をしていたこともあり、小学校に配置される児童支援コーディネーターや中学校の先生との交流会等を通じ、子どもの様々な情報をいただいています。また、保健師との情報交換では主任児童委員の活動紹介もしています。これらの機会で得られた情報をもとに、不登校の中学生の所在を確認したケースもあります。一方、先生の異動等により学校とのつながりが希薄となった地区もあることから、活動の継続性という点からも課題といえると思います。
(泉谷)学校と主任児童委員の関係はそれぞれ異なりますが、交流会等を通して、新任の主任児童委員でも学校とつながることができると思います。学校との関係性は全国的な課題で、全民児連では教育機関と行政機関向けに活動紹介チラシ『知ってください!児童委員、主任児童委員』(※)を作成していますのでご活用ください。学校との関係について藤沢市はどうですか。
(小林)藤沢市では、主任児童委員が小学校へ出向き、主任児童委員の紹介パンフレットを新1年生の保護者に配布してもらうよう校長先生にお願いしています。また小中学校の校長先生等との懇談会やコミュニティースクール(学校運営協議会)、授業支援等のボランティア活動への参加・協力等に努めていますが、これにより学校の様子を知ることができ、互いの距離が近づいている実感があります。
- 活動紹介チラシ「知ってください!児童委員、主任児童委員」は全民児連HPよりダウンロードできます
継続した活動とするために
(小林)介護や子育てのために辞めるのはやむを得ないと思いますが、つまらない・やりがいがないからと辞めてしまうのはもったいない。様々な場面で主任児童委員の発言する機会が少ない等のお話も聞くので、できれば他の地区の様子も見たいと思っています。私の地区では役割の区別なく、催し物を手伝うようにしていて、そこが楽しかったりします。活動が楽しければ1期3年で辞めることはないと思います。
(豊田)最近、主任児童委員と民生委員・児童委員の役割の違いが理解されるようになったと感じます。私は関係機関からの子どもの情報をできる範囲で地区を担当する民生委員・児童委員と共有するようになりました。以前、ケース会議で私は子どものために何ができるのか悩んでいましたが、主任児童委員活動にも活かすことができると平成30年に子どもの居場所「こども広場ウェルカム」を立ち上げ、6年が経ちました。私の任期は残り1年ですが、主任児童委員が少しでも長く活動を続けられるよう前述のハンドブックづくりにも取り組んでいます。
「世代を超える」がキーワード
(泉谷)主任児童委員の年齢要件は自治体ごとに設定が異なり、なり手の問題にも関係します。先程、仕事をしながらの活動についてお話がありました。鎌倉ではいかがですか。
(長原)鎌倉市の主任児童委員の定年は65歳で、私が2期目に入る前に半分以上が新人になりました。このため活動の仕方や仕事との両立について話し合い、会議には1地区2名の主任児童委員のうち、いずれかが参加すれば良いことにしました。月一回の連絡会では各地区の活動内容を積極的に情報交換して、サロン講師(子どものヘアカット教室、リトミック等)の紹介や親子工作のやり方等を教え合いました。また、定年で退任された方には、引き継ぎ3カ月後頃に主任児童委員のあり方やケース対応の心得について教えていただきました。私の地区のパートナーも定年で退任されますが、年齢で括らない方が良いのではないかと思います。
(泉谷)なり手の問題もあり、年齢で括って良いか検討が必要と思います。また、長原さんからは「放課後かまくらっこ」の小学生と子育てサロンの小さな子どもが一緒になると、小さな子どもがとても喜ぶとのお話をいただきました。活動においては「世代を超える」が一つのキーワードと言えるのではないでしょうか。
(長原)そのように思います。近隣の大学の学園祭で、大学生主催の親子イベントのお手伝いをしていますが、そこでは大学生が手作りゲームや枯葉のプール等で遊んでくれます。子どもにとって少し年の離れたお姉さんとの遊びは楽しいようで、とても喜んでいます。また、民生委員や地域の方と合同で行う、小学校での昔遊びも互いに楽しんでいました。
(泉谷)以前「子どもとの関わり方が分からない」と言っていた年配の民生委員さんが、子どもたちから話しかけられ、とても嬉しそうにしていました。藤沢市の小林さん、例えば障がいのある子どもとの関わりなどはありますか。
(小林)地区社協主催の障がい者向けスポーツイベントのお手伝いをする中で、障がい児や保護者の方と接することがあります。保育園の園児と近隣にお住まいのお年寄りの交流会にも参加しています。それらに参加することで気づくことはたくさんあります。
中学生の福祉体験、子育て中のお母さんにとっても貴重な経験に
(目代)自身の地区では小学校で一緒に花壇を作ったり、中学校では福祉体験(高齢者や妊婦の疑似体験等)のお手伝いもしています。福祉体験に子育てサロンの親子に参加してもらうことがありますが、小さな子どもを見ると中学生の表情がパッと明るくなり、とても喜んでくれます。それがすごく楽しい。また、区の「ひろばマルシェ」(区民活動団体による出店等)に来ているお母さんと手形・足形スタンプ等で交流しながら子育て支援情報を伝えたり、悩みごとを聞いたりしています。小学校の先生方との交流については、現在、コミュニティ・スクール(学校運営協議会)に地区民児協の会長が参加していますし、小学生の登下校時の見守りには引き続き目を配っています。
(泉谷)コミュニティ・スクールのガイドラインでは構成員に民生委員・児童委員の代表が挙げられており、民児協会長が参加するケースも多いと思います。目代さんから中学校での福祉体験のお話がありましたが、普段はサロンで支えられている立場のお母さんたちが中学生と交流し子育ての話をすることは、中学生だけでなくお母さんたちにとっても貴重な経験になっていると聞きます。また、主任児童委員が中学校と協力して赤ちゃん教室を開催した際、事前に「赤ちゃんが来るよ」と生徒たちに伝えていたら、不登校だった生徒が赤ちゃんに会いたくて登校してきたと聞いたこともあります。
(目代)中学校の福祉体験で、あるお母さんは、自身の悲しい経験をもとに「皆さんが生きているのは奇跡です」と、命の大切さについて話をしてくれたこともありました。
泉谷准教授(聖隷クリストファー大学)
主任児童委員だからできること
(泉谷)中学校での福祉体験は、主任児童委員だからこそ、お母さんたちに協力をお願いできたと言えます。また、長原さんからは、知り合いの看護師さんをサロン活動にお誘いしたとのお話がありましたが、こちらも主任児童委員だからできたことで、相談機関では難しい。看護師さんにとってもご家族の介護の気分転換ができ、自分ができることに参加する。その方にとっての地域参加。すごくいいなと思いながら聞いていました。
読者の皆様へのメッセージ
(泉谷)最後に、児童委員や主任児童委員として活動されている方、また活動に関心のある方に対してメッセージをいただけますか。
(豊田)定年のため今期で主任児童委員の活動は終わりますが、前述のとおり、これまでの経験を活かし地域に対して何ができるのかを考えて、子どもの居場所「こども広場ウェルカム」の活動を続けています。障害や家庭環境により勉強ができない等の問題を抱える子どもは多く、自治会館を会場に大学生や学校の先生と一緒に勉強を教えたり、遊んだりしています。立ち上げから6年が経ち、以前ウェルカムに来ていた小学生が中学生になり、お祭りや勉強のお手伝いをしてくれるようにもなりました。これらの活動を通して感じたことは、小さい子どもに比べ、中学、高校、大学生等、若い世代へのサポートが少ないということです。このため、彼らを支える居場所を自治会ごとに作りたいと考えています。また、それにより自治会の活性化にもつなげたいとの思いもあります。主任児童委員としても、本日皆さんから伺った活動に対する思い、関係者への働きかけ等を参考にしながら、楽しく負担のない形で活動していきたいです。
(小林)主任児童委員の方には活動を楽しみ、1期3年で終わることなく、6年、9年と活動を続けていただきたいです。特に働きながら活動する方は仕事との両立が大変なときもあると思いますが、活動の中でちょっとした楽しみややりがいを見出してほしいです。子どもは本当に可愛くて、子どもが幸せに育つためのお手伝いができるのは、主任児童委員の特権ですよね。自分の地区がとにかく楽しく、安全な地区になるように見守っていきたいし、皆さんもそういう思いでやってくれたら嬉しいです。
(長原)私は鎌倉市に引っ越してから子どもが生まれ、子どもは地域に育ててもらったようなところがあるので、その恩返しの思いから主任児童委員を引き受けました。近所の工務店の方から活動で使用する木材をいただいたり、子どものヘアカット教室をしてくれる美容師を紹介していただいたり、かかりつけ医にサロンのセミナー講師を引き受けていただいたりと、多くの方に支えられています。
一方、私自身はラジオ体操やお祭り、小学校、学童保育のイベントのお手伝い等を通して様々な子ども達と関わることの喜びを感じています。できる人ができることをできる時にやれば無理なく活動できると、周りにも伝えたいと思います。
(目代)主任児童委員の方は無理せず、楽しみながら活動していただきたいです。
子どもたちからパワーをもらい、楽しみながら活動を
(泉谷)負担なく仕事をしながら活動するため、最近ではLINE等を活用する方が増えています。また、これからは仕事をしながら活動することが珍しいことではなくなると思います。本日、皆様のお話を伺う中で、子どもたちがいるだけで和やかな雰囲気になり、新任の主任児童委員も子どもたちが可愛いから続けようという気持ちになる。私たちは子どもたちからパワーをもらっていると考えています。
地域のつながりの希薄化と言われていますが、皆様からのお話を聞く限り、希薄化を感じることはありませんでした。色々なつながりを築かれていて、豊田さんのように主任児童委員の活動から団体の立ち上げに発展させている方も増えています。私の大学がある市でも主任児童委員が主体となり、こども食堂や学習支援に取り組んでいます。主任児童委員は子どものために様々な活動をされていますが、何より楽しみながら活動することが大切です。私は、主任児童委員の1期目は、何かを達成しなくてもいいのかなとも思います。先輩と一緒に活動に参加し、地域には何があるのかを把握する。そのようなことで良いと考えています。そして2期目、3期くらいから自分の地区の中に知り合いを増やし、新しい活動につなげていくイメージを持ちながら活動されてはどうかと思っています。
座談会当日の様子