【第3回】農福連携で、地域の元気と利用者の豊かな暮らし
社会福祉法人光友会
- 分野 障害 /
- エリア藤沢市 /
- 推進主体 社会福祉法人・事業所 /

農福連携は、障害者等が農業分野で活躍することで、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みです。昨今、急速に着目された背景には、障害者の社会参加に加えて、人口減少社会の中で農業分野の担い手不足や高齢化に対する新たな解決策への期待があります。そして、地域共生社会の実現に向けて、高齢者や生活困窮者、ひきこもりの状態にある方、刑余者の社会参加の一つとしても着目されています。
今回は、法人の重点事業として農福連携に取り組む、社会福祉法人光友会(藤沢市)に取材に伺いました。
ワイン造りをスタート
光友会は、生活介護、障害者支援施設、グループホーム、就労支援事業所、児童発達支援センターなどを運営しています。
光友会の本部がある藤沢市獺郷(おそごう)の周辺は田畑が広がる自然豊かな地域です。法人では10年ほど前に隣地の農地を取得し、利用者サービスの一環として野菜作りを始めました。また、近隣の大規模農園での生花づくり、青果市場内の畑作業の業務委託を受けて、施設外就労の場を作り、複数の事業所で農業分野での活動を行ってきました。
理事長の五十嵐紀子さんは2年ほど前に藤沢由来の新種のワイン用ブドウがあることを知りました。そこで将来、ワイナリーを作ることを目指して、今では二つの圃場で植樹を行っています。
ブドウづくりに向けては、耕作放棄地であった農地の賃貸借契約を行い、法人が農業を実施するための定款変更、農地の土づくり、農業やブドウづくりに知見のある職員配置等、多くの課題を一つずつ解決して取り組みを進めてきました。
就労福祉部統括で農福連携を推進している一杉好一さんは「法人に10年以上の農作業経験があったこと、高齢者の集いの場づくりや法人の行事を通じて地元農家さんともつながりがあり、耕作放棄地の相談を聞いていたことが耕作放棄地解消に向けて動くきっかけにもなりました。それからは農協や、田に水を引くための水利組合への加入など、地域と一緒に活動を進めてきたことが法人としての大きな財産です。また、地域とつながることで、農家をしている職員を採用できるなど人材にも恵まれました」と振り返ります。
さらに関東農政局を通じて、県内のワイナリーの紹介を受けることができました。これから秋の醸造を目指して、ブドウの栽培を進めています。

ブドウの実りが待ち遠しい
農福推進室の設置
こうした農福連携を重点事業として位置付け、令和5年度からは法人内に「農福推進室」を設置しました。
一杉さんは「一事業所で推進するのではなく、法人として農福連携を発展させ、利用者の工賃向上と地域活性化をしていきたい思いがありました。職員には、農業に関わる就労支援部門や収益部門事業をマネジメントする力、住民との対話、制度の利活用に向けた行政との調整力などが求められます。推進室が主となって、計画的に進めていきたい」と言います。
法人では「農福連関図」(9面・図参照)をはじめ、10カ年構想とアクションプランを作り、自前の醸造施設やレストランの建設など、障害のある人の就労の場、地域住民が集う場を広げていく予定です。

光友会の農福連関図(光友会提供資料を基に本会作成)
農作業を通じた喜び
杉さんは「農業は種まきや収穫だけではなく、野菜、果物の成長を見守ることができます。田んぼの稲刈りでは、利用者の方に車イスで入ってもらい、稲穂の匂いを直に感じ、大自然の中で四季の移り変わりを体験する機会になっています」と話します。お米や野菜づくりを通じて、普段の活動とは違う表情で、喜びを表現してくれる様子が多く見られるそうです。
また、地元の方々と畑に出て収穫したり、その作物で一緒に料理を作って食べるなど、交流ができることも喜びの一つのようです。

稲穂の香りを身体いっぱいに感じる収穫期
官民・地域と一体的に推進
県(共生社会推進室)は「農福連携マッチング等支援事業」を実施し、出会いの場づくり、農福連携コーディネーター育成等の事業を行っています。光友会の職員も、県の研修を受講し、農福連携コーディネーターとして活動しています。
一杉さんは「単なる労働力ではなく、福祉と農業がそれぞれの持ち味を生かした取り組みが必要で、福祉の立場からは、工賃向上も含め、利用者の生活が豊かになるための『福農連携』であることを常に意識しています。行政には農業分野の支援に留まらず、福祉と農業の連携が進む支援策を期待したい」と言います。
光友会の農福推進室では、行政や農協・農園だけでなく、近隣の大学ともつながり、学生と障害のある人たちとの交流や生産物の販売促進への協力等、さらに連携の輪を広げる予定です。
今回の取材では、それぞれの分野が持つ「課題を解決したい」という思いを基に、計画的に進めることで、行政を含め様々な主体との関係が広がり、深まる様子をうかがい知ることができました。農福連携を通じて、更なる地域づくりが進むことが期待されます。(企画課)

10カ年計画への想いを語る一杉さん