【第5回】孤立している人を地域につなぐ
逗子市社会福祉協議会の取り組み
- 分野 生活困窮 /
- エリア逗子市 /
- 推進主体 社会福祉協議会 /
- キーワード地域での支えあい活動 /
現代社会の貧困は、ひきこもり、ごみ屋敷・孤独死などに象徴されますが、初めのうちは、支援が必要というより、困りごとのある人、課題のある世帯といった形で認識されることがあります。
今回は、孤立している人を、連携・協働の力で地域社会につなぎ、地域との関係作りを支える、逗子市社協の生活困窮者自立相談支援事業の取り組みを取材しました。
- 事例は一部加工しています
逗子市社協が受託している生活困窮者自立相談支援事業では、令和4年度の新規相談件数が65件、加えて、継続した相談が104件、合計169件となっています。相談の中では、負債等の経済的な問題をはじめ、複合的な課題を抱える世帯が多くあります。
ひきこもりの人への支援
事務局長の木村さんは言います。「困窮の相談では、世帯への支援も多いです。ある事例では、70代の本人から『お金がない。貸してほしい』と連絡がありました。『出向くことができない』と言うので、気になって自宅を訪問したところ、敷地には木が生い茂り、本当に人が住んでいるのか、という状態でした。本人はごみの中に布団を敷くような形で寝ていました。この方は裸でコンビニに行ったりするので、元々地域からは知られる人でした。ずっと単身だと思っていたのですが、訪問してみると、2階に甥が住んでいて、地域との接点は殆どなく、本人の年金を頼りにひきこもった生活をしていたようです。甥は少し攻撃的な態度もあり一見怖そうな雰囲気でした。しかし、関わるうち、根は優しい人だというのも分かってきました」。
甥に対しては「本人はあなただけが頼り。困ったら社協に連絡して」と繰り返し伝えて、関係性を維持できるよう努めました。
関係者の力をつなぐ〝糊代〞
一方、本人は認知症が進み、足が壊死している状態でしたが、ある日、熱中症で救急搬送され入院します。甥は、医療同意や支払いの手続きにおいてコミュニケーションが難しく、支援が必要でした。そのため、本人の成年後見人の申立てを支援しましたが、退院を目前に急逝されました。
この経過の中で、社協は直葬の手配やその費用の支払調整、遺骨の移送など、甥に意向を確認し、伴走しながら支援を行いました。本人の資産も少ない中では、日ごろから関係のあった権利擁護に強い弁護士、顔が見える関係のMSW、活動に理解を示す地元葬儀会社、関連する行政の各部署等の協力がありました。
一つの事例を通じて関係者との顔が見える関係ができ、次の事例に対応することによってその関係性はさらに広がっていきます。このように連携を進める上で、木村さんは「つながりのための〝糊代(のりしろ)〞が大事」と言います。糊代とは、人や組織が自らの領域を少し越えて手を取り合える部分を増やすことを意味しますが、連携する上ではお互いに柔軟な対応が大事、ということが逗子市社協の取り組みからも伝わってきます。
地域の不安感からの本人理解
甥には生活保護の手続きを支援していましたが、ある日、携帯会社の通信障害があった際、電話が通じないことで混乱した甥が自治会館に駆け込み、携帯電話を2つに折るちょっとした騒動がありました。この様子を目の当たりにした地域住民は、甥を「怖い人」と受け止めるようになりました。その状況を逗子市社協の地域担当者がキャッチし、木村さんは地域の人たちの誤解を解こうと、自治会の方と話し合いをしました。

逗子市社協の資料を基に本会作成
地域の底力・お互いさまの活動
逗子市社協では、地域で見守り活動を行う「お互いさまサポーター」を組織化しています。
本人が住むエリアにもお互いさまサポーターがいて、ずっと本人の世帯を気にかけ関わりを持ってくれていました。そのサポーターの後押しもあって、自治会の話し合いでは「今は排除ではなく共生の時代。ひきこもりの人でも地域で安心して暮らせるよう、困窮する人に寄り添う活動につなげてはどうか」という意見が出ました。さらに、甥だけでなく地域には様々な人が生活しており、そのような方々をより理解するため、勉強会をしようという声も上がりました。その後、自治会では「地域支え合い学習会」という形で学びの機会を持つことができました。
甥にも変化がありました。「ごみ置き場の掃除当番の順番が回ってくる際、自分にできるかどうかドキドキしている」と相談が入りました。そこでは「一緒に、地域の皆さんの役に立てる所を見せていきましょう」と声かけて励まし、甥は無事に掃除当番の役割を果たすことができました。そのことをきっかけに、甥は他にも地域に貢献できることはないかと、地域の活動に関心が向く様子が見られるようになりました。
木村さんは言います。「住民の皆さんが困っている人をキャッチしてくれるだけでなく、見守って支えてくれているのは、これまでのお互いさまの活動によって、共に支え合う経験が作られてきたからだと思います」。
地域支え合い学習会において、大学より講師を招き、理解を深めた
地域生活課題の解決に向けて
孤立している人とは、時間をかけて信頼関係を作ります。本人の意向を踏まえることが大前提ですが、暮らしを広げ支えてくれる地域の住民や関係機関、法律家や企業などにつなげ、生活の幅を広げていくことが必要です。そこでは、社協がこれまでの事業を通じて培ってきたネットワークを生かせる場面が多くあります。
生活困窮者自立相談支援事業では、住まいや就労、地域社会からの孤立など、福祉や介護分野に留まらない地域生活課題への対応が求められています。
逗子市社協では、連携・協働を多様な形で広げられるよう、柔軟に対応しながら地域でのソーシャルワークの活動に取り組んでいます。(企画課)