【最終回】神奈川県内の連携・協働事例を振り返る
日本福祉大学教授・渋谷篤男
- 分野 地域 /
- エリア愛知県知多郡 /
- 推進主体 その他の活動主体 /

4月号から8月号にかけて連載「連携・協働の今」として、神奈川県内の取り組みが紹介されました。いずれもすばらしい取り組みであり「連携・協働」とは、さほど敷居が高いものではなく、自らの活動に必ずよい影響を与えるものだと分かります。とくに異分野との連携・協働の動きは、地域社会が福祉との連携を意識してきている、ということを意味しており、私たち福祉関係者としては貴重なチャンスであると受け止めることが大切です。
一方で「地域共生社会に向けた包括的支援体制づくり」となると、かなり険しい道であり、様々な関係者が皆で知恵を絞って実行に移していくことが求められます。そこにも、少し視点を向けて本連載を振り返ります。
社会福祉法人間の連携でヒット商品を生む(⑤)
寿徳会ハッピーラボ(障害者就労支援施設)では「幸せ餃子」を発売し、さらにパンづくりをしてきたサンメッセしんわ((福)進和学園)とコラボして「パンのフェス」で賞を受賞するなどヒットし、社会福祉法人の連携の可能性を示しています。
農福連携でワインづくりを目指す(⑥)
(福)光友会は、利用者のために隣地の農地を取得し野菜づくりを始めましたが、それにとどまらず、農業分野での施設外就労の場づくりをすすめ、大規模農園での生花づくり、青果市場内の畑作業の業務受託を行ってきました。
農福連携は、労働力不足に苦しむ農業と、福祉的課題を持つ人の働く場を探す福祉の動きが出会い、お互いにメリットがある連携の場をつくる動きということができます。光友会は、この農福連携に大きな成果をあげてきました。
光友会は、さらにワインづくりを目指して、ぶどうづくりを始めました。
農福連携は非常に魅力のある取り組みですが、実際には、農業側から言えば、農地確保から始まるさまざまな農作業の段取りづくり、一方、福祉側から言えば、年間の働く側の安定的な労働の機会・時間の確保、働きがいの確保に課題があり、その調整は簡単ではないと言えます。
その点、光友会は耕作放棄地の確保、農協や水利組合の調整、農作業の経験のある職員の使用など、入念な準備をすすめてきたことが伺えます。また、種まき、収穫、四季の移喜びを感じることを重視してすすめ、また、地元の人と一緒に収穫し、作物を一緒に料理して食べることなどにより、地域の人びととの交流を実現し、農福連携の魅力を十分に取り入れた活動を展開していると感じます。
農福連携の取り組み事例はけっして少なくありませんが、両者にメリットがある状況をつくるのは、なかなか難しいと聞いています。光友会の取り組みは、念入りな調整で困難を乗り越えてきたのではないかと推察します。「それぞれが持つ『課題を解決したい』という思いを基に進める」とあるのは、連携の本質を表していると言えるでしょう。
また、この事例で地元大規模農園のみならず、農協、市場、大学との連携が誕生したことはまさしく「連携の連鎖」がすすんでいると言うことができるでしょう。
食品の需要と供給(連携)をすすめる(⑦)
フードバンクは、単に食品を供給することを目的としているのではなく、消費期限・賞味期限などの関係で棄てざるを得ない食品があるところと、食品確保が難しい人とをつなぐ活動です。すなわち、フードバンクは食品のロスを危惧するところと食事の確保に迫られているところとの連携・協働をはかるものです。
非常に簡単な仕組みのように思われますが、この二つのニーズを結びつけることは難しいことです。このままでは廃棄処分にせざるを得ないという困りごとと、食品を確保したいという困りごとを結びつけるのは重要ですが、それ以前に企業とつながりを絶やさない(連携)と食品が欲しいというニーズの確実な把握(ニーズを把握する組織との連携)があって、初めて成り立つことになります。
記事の中では、フードドライブにも取り組んでいるとの紹介がありました。フードドライブとは、家庭などで余っている食品を、相談窓口やフードバンクなどに持ち寄って、必要な人に配る活動です(ドライブとは「運動」のこと)。フードバンクとの違いは、一般の人が食品を持ち寄ることで、十分な食事を得られない人がいることを知り、それを気遣う気持ちを持ってもらうという点で、大きな意味を持っているものです。
似ているようで違うものですが、これを通して、食品を大切にすること、十分に食事を得られない人の存在を知ることという共通項を持つことで、両方が役割を果たすことが期待されています。
以上、3つの事例について、検討をしてきました。いずれも連携はメリットがあるということですが、もう少し整理をしてみましょう。
「連携」と言うとよく書かれる図があります。それぞれが今までと同じことを続け、連絡をとりあうだけで連携になるでしょうか。一緒にやることによって、励まされるという程度で終わってしまうかもしれません。(A)
お互いに刺激を受け、自分たち連携・協働の展開イメージ(A)(B)分野を超えて対応することが求められていますが、各分野に属さない問題への対応を実現しないと、課題に対応できないということが分かってきました。の活動を大きくする、あるいは質を高めるのが連携の効果ではないでしょうか。さらに一緒に取り組むことによって、自分たちの活動をさらに広げることにつながることが可能となります。(B)
さらに重なり合うと、共通に取り組むことで、その質を高めていき、協働という表現にふさわしいものになっていくように思います。(C)
しかし、いっそう難しい連携があります。それが、相談支援における連携です。

連携・協働の展開イメージ
総合相談支援を実現するための連携・協働(⑧)
立している人を地域につなぐ」です。読者の方で、違和感を持つ方もいるかもしれません。事例は生活困窮者自立支援事業ですが、この事業は経済的困窮者を対象とし(C)ていると誤解されていることが多いからです。実は「孤立している人々が地域社会の一員として尊ばれ、多様なつながりを再生・創造できることを目指す」(社会保障審議会生活困窮者の生活支援のあり方に関する特別部会報告書)ことが事業の目的としてあります。いま、市町村において包括的支援体制づくりが目指されていますが、その焦点も、実は、社会的孤立の課題をどうするかという問題です。
紹介されている事例では、支援する本人は70代で認知症でしたが、同居する甥がコミュニケーションをとるのが難しく、医療同意の手続き、成年後見の申し立て、本人が亡くなった後の支払調整、遺骨の移送などの支援が必要でした。そのことを生活困窮者自立支援事業が担いましたが、関係団体との連携が当然のことながら必要でした。逗子市社協は『連携を進める上で…「つながりのための〝糊代(のりしろ)〞が大事』と言います。糊代とは、人や組織が自らの領域を少し超えて手を取り合える部分を増やすことを意味しますが、連携する上ではお互いに柔軟な対応が大事」としています。
現在の高齢者、子ども、障害等の各相談支援機関がそれぞれほかの分野とも連携するだけでなく、分野を超えて対応することが求められていますが、各分野に属さない問題への対応を実現しないと、課題に対応できないということが分かってきました。
連携・協働の意義について、あらためて考えてみると、
- お互いの力を借り合い、支援の実をあげること
- 1により、それぞれの力を伸ばすこと
- 連携・協働することによって、漏れのない仕組みをつくることが挙げられます。
ただし、3については、地域共生社会でいう「包括的支援体制」づくりのことであり、関係者をあげての大きな取り組み、今後、意識的かつ着実にすすめていくことが必要です。支援・サービスが広がる中で、生活を支える地域の場から、多分野、多領域を意識して、連携・協働の一歩としてそれぞれが1・2を積極的に取り組んでいくことが求められており、関係者の活動に期待したいと思います。