福祉タイムズ

Vol.881(2025年4月号)

このデータは、『福祉タイムズ』 Vol.881(2025年4月号)(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。データは、下記リンクからダウンロードが行えます。

テキストデータ作成に当たって
 このデータは、『福祉タイムズ』 vol.881 2025年4月号(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。
 二重山カッコは作成者注記です。

P1
福祉タイムズふくしTIMES
2025.4 vol.881
編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会

Contents
特集 P2 地域共生社会の実現に向けた県内の取り組み状況
NEWS&TOPICS P6 被災地の暮らしを支える―「FamSKO」介護福祉士被災地派遣ガイドブック
P7 『防災あんしんブック(わがまち・くらし編)』を作りました! 神奈川県手をつなぐ育成会
県社協のひろば P10 令和7年度県社協事業の主な取り組み
P11 会長就任のご挨拶 小泉 隆一郎

今月の表紙
相模原自主夜間中学で勉強する高校一年生のポウデル スチャナさんと、ボランティアの照山幸子さん。
相模原自主夜間中学では、毎週金曜日に年齢や国籍を問わず、誰もが学べる場所を作っている。
詳しくは12面へ→

P2
特集
地域共生社会の実現に向けた県内の取り組み状況
 地域共生社会の実現のための令和2年の社会福祉法改正法の施行5年目を迎え、令和6年6月から厚労省で「地域共生社会の在り方検討会議」(以下、検討会議)が設置、今後の包括的な支援体制の整備の在り方等が議論され、令和7年3月に論点整理(案)が示されました。
 今回は検討会議のテーマを踏まえた県内の取り組み状況をご紹介するとともに、検討会議委員の同志社大学教授・永田祐さんに包括的支援体制の中での判断能力が不十分な人・身寄りのない人の社会参加の課題についてご寄稿いただきました。

多様な主体が参画する地域共生社会
 認知症の親と障害のある子の世帯への支援、介護と子育てのダブルケアラーや、子どもが介護等を担うヤングケアラーへの支援など、縦割りの制度では解決が難しい課題が顕在化し、福祉ニーズが多様化・複雑化しています。一方で、少子高齢化の進展や人口減少社会の到来により、その支え手が十分に確保されず、地域の実情にあった体制の整備が求められています。
 また、人口減少社会を見据えて、福祉領域だけでなく、商業や農林水産業、防災、環境、まちおこし、都市計画も含めて、あらゆる領域を超えて、相互に支える、支えられる関係を構築することが不可欠とされています。
 福祉分野では、社会的孤立や社会的排除といった課題に対し、地域住民や地域の多様な主体が参画して、地域を共に作っていくことが求められています。
 こうした背景から、平成29年の社会福祉法改正で包括的な支援体制の整備、令和2年の社会福祉法改正で重層的支援体制整備事業が創設されています。

重層的支援体制整備事業の持続可能性を議論
 重層的支援体制整備事業は市町村の任意事業ですが、既存の相談支援体制を生かしつつ「相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に行うことで、従来の支援体制では解決できなかった狭間のニーズに対応していくものです。
 県内では令和7年度、9市が実施予定、移行に向けた準備を行っているところは2市町の予定となっています。(厚労省調査より)
 市町村社協が進めてきた住民相互の支え合いの地域福祉活動との関連性を踏まえて、市町村社協に事業を委託しているところもあります。
 本会では県より「包括的支援体制整備及び重層的体制整備構築支援事業」を受託し、市町村へアドバイザーを派遣し、市町村の体制整備への支援に取り組んでいます。
 なお、検討会議では、包括的な支援体制の整備・重層的支援体制事業の今後の在り方について、表1の7つにより法改正に向けた議論が進んでいきます。

〈表1〉
(表1)地域共生社会の在り方検討会議「これまでの議論を踏まえた論点整理(案)」より(第9回 令和7年3月27日)
①包括的な支援体制の整備と重層的支援体制整備事業の関係性
・重層的支援体制整備事業を実施していない市町村に対しても、包括的な支援体制整備が進むための方策 等
②包括的な支援体制の整備を推進するための方策
・都道府県の役割、まちづくり等福祉以外の分野と協働した住民主体の地域づくり、人的・地域資源が限られた小規模市町村等における方策 等
③包括的な支援体制の整備や重層的支援体制整備事業の実施に向けたプロセス
④実施状況の検証・見直し(PDCA)
⑤目標・評価設定 等
⑥多機関協働事業の役割・機能
⑦若者支援
〈表1終わり〉

〈囲み〉
厚生労働省地域共生社会の在り方検討会議
詳細はHPからご覧ください
〈囲み終わり〉

P3

身寄りのない高齢者等への支援
 単身世帯や高齢者世帯の増加を背景に、これまで家族が担っていた入院・入所に伴う身元保証や死後事務処理(いわゆる、高齢者等終身サポート)など、最期まで安心して生活できる支援の仕組みづくりが求められています。
 県内の社協では川崎市社協、相模原市社協、南足柄市社協、秦野市社協、綾瀬市社協、松田町社協が取り組んでいますが、この他、市町村行政による終活登録やエンディングサポートの取り組みもあります。
 本会においては、身元保証・終身サポートの取り組み情報を、市町村社協と共有しながら連携し、権利擁護支援の体制づくりと一体的な活動を推進しています。
 検討会議では地域包括支援センターや生活困窮者自立相談支援機関を活用した方策や、経済的な理由で民間サービスが利用できない方に対して、「日常生活自立支援事業」を拡充・発展させ、「新日自事業(仮称)」として社会福祉法に位置付けることなどが議論されています。

総合的な権利擁護支援
 さらに、認知症や障害等を背景に判断能力が不十分な人を支えるため、本人を中心とした権利擁護支援策についても議論されています。
 ご本人の地域生活を支える支援策としては、前述の「新日自事業(仮称)」の位置付けのほか、市民が本人目線で意思決定支援を行う取り組みの促進などが挙げられました。
 また、各地域で福祉・司法・行政など多様な分野・主体が連携する「地域連携ネットワーク」の構築が進んでおり、そのコーディネート役を担う「中核機関」が各地域に設置されていますが、今後は成年後見制度の見直しと併せて、位置づけの検討が進められます。
 本県には26市町村に中核機関が設置されていますが、本会では県から委託を受け、地域連携ネットワーク構築や中核機関の設置等体制整備を図るためのアドバイザーを派遣し、成年後見制度の利用促進を支援しています。
 権利擁護支援策の充実に向けては、各地の地域福祉の実情に応じて、ご本人の社会関係を作っていくコーディネーターの役割や、市民が本人目線で意思決定支援を行う取り組みの促進についても課題が挙げられています。

社会福祉法人の法人間連携の推進
 多様化・複雑化する福祉ニーズへの対応と経営基盤の強化に向けて、社会福祉法人同士のネットワーク構築が期待されています。検討会議では、地域全体で社会福祉事業を維持するための検討の場や、関係者による共通認識の必要性が挙げられました。
 本会では法人間ネットワークを形成し、経営者部会と市町村社協部会が協働した「地域ネットワーク強化事業」を令和5年度に創設し、各地域の活動に助成をしています。令和6年度分と合わせ助成を活用し、法人間の連携を進めている地域は、14市区町村と広がりを見せています。

 本会では、引き続き検討会議の方向性を見ながら、地域で一人ひとりが安心して生活できる地域づくりに向けて、民生委員児童委員、社会福祉法人・事業所、企業など、多様な主体との連携・協働しながら活動を展開してまいります。(企画課)

P4
地域共生社会の在り方を考える
「地域共生社会の在り方検討会議」での論点
同志社大学 教授 永田 祐
 現在、法制審議会で検討されている成年後見制度の見直しが「終わることができる後見」に向かっているとすると、後見終了後を見据えた地域での支援体制を確立する必要があります。具体的には、体制整備の一つとして、成年後見制度利用促進基本計画に基づいて推進されてきた中核機関の社会福祉法制上の位置づけを明確にすること、同時に日常生活自立支援事業を始めとした権利擁護支援策を充実させることが大きな検討課題となります。一方、身寄りのないもしくは頼れない高齢者の生活上の課題への対応に関しても、今年度実施されている「包括的な相談・調整窓口の整備」と「総合的な支援パッケージを提供する取組」という二つのモデル事業は、上記の体制整備や福祉の権利擁護支援策の充実と重なる点が多く、一体的に検討する必要があります。すなわち、地域共生社会の在り方検討会議では、包括的な支援体制として、判断能力が不十分な人や、頼れる身寄りがいない人に対する支援をどのように一体的に整備すべきか、いいかえれば、地域共生社会にこうした人々を包摂する方策が、重層的支援体制整備事業の今後の方向性とともに、重要な検討課題になっているといえます。

「地域共生社会の在り方」という視点からの問題の捉え方
 権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核になる機関や、身寄りのない高齢者に対する相談支援の体制を包括的な支援体制と一体的に整備していくこと、また、こうした人々を支える事業を具体的に構想していくことは、喫緊の課題であって、法改正に向けた議論を重ねていく必要があります。しかし、制度的基盤の整備は重要だとしても、そこにとどまってよいのでしょうか。「地域共生社会の在り方」を検討する場合の根底的な議論は、判断能力が不十分な人や頼れる身寄りがいない人が、支援対象者化されるだけでなく、ともに社会をつくる仲間として、役割や出番をもって活躍できる地域づくりをどのように進めるかということでなければならないはずです。
 実際に、市町村の担当者と話をしていると、包括的な支援体制の構築やそれを実現するための重層的支援体制整備事業についての捉え方は、制度のはざまや複合的な問題を抱えた世帯に対して、専門職が地域住民等の力を借りて、支援を包括化し、どのように解決していくかという水準にとどまっているように感じます。もちろん、それは重要ですが、こうした観点のみでは、包括的な支援体制は、困難事例を中心とした連携体制の構築にとどまり、つなぐ制度もなく、地域に受け皿となる活動もない場合には、「解決」できないという、文字通り「出口なし」という認識に帰結してしまいます。こうした隘路を抜け出すにはどうしたらよいでしょうか。

支援される人として固定されない社会参加の応援
 判断能力が不十分であったり、頼れる身寄りがなかったとしても、また、さまざまな困難を抱えていたとしても、支援の対象者として固定化されることなく、その人らしく活躍できるような社会参加を応援していくことが、本来「地域共生社会の在り方」として求められていることではないでしょうか。そして、そのためには、制度や事業だけでなく、生きる希望の源泉となる他者とつながることができる場や機会を地域に広げていく必要があります。社会福祉法人や様々な地域活動などの制度にとらわれない活動や場だけでなく、福祉という「タグ」(目印)を掲げていなくても、日常生活の動線上で、人が出会い、関わることができる場の「のりしろ」を広げていくことが重要になります。社会福祉協議会には、重層的支援体制整備事業や中核機関や日常生活自立支援事業、さらには身寄りのない方の支援において、重要な役割が期待されることになりますが、制度や事業の担い手としてだけではなく、地域の応援団とともに社会参加を応援していくという地域づくりに重要な役割があるということを再度認識してほしいと思います。次期改正では、判断能力が不十分であっても、身寄りに頼れないとしても、参加し、共生する社会の制度的基盤に加えて、その人らしく生きていくための関係性の基盤をどのように作っていくかを関係者の皆さんと構想していくことが求められていると考えています。

P5
私のおすすめCHECK!
◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。
親子でバードウォッチングを楽しもう!
 花が咲き、草木が芽吹く春。耳をすますと、どこかから鳥のさえずりが聞こえてきませんか。春から初夏にかけては、鳥たちが相手を見つけ、巣作りをし、子育てをする季節。活動的になり、食べものをとる姿や親子で過ごす姿も見られるかもしれません。
 そこで今回は、野鳥観察小屋を設けている県内2カ所の公園をご紹介。鳥の見つけ方も教えていただきました。

今月は→NPO法人ままとんきっずがお伝えします!
 今年で子育て支援活動32年目。お母さんたちが主体となって、親子が集うサロン、グループ保育、一時保育、各種講座、産後サポート、子育て支援センター、小学校での寺子屋事業、中学校での赤ちゃんふれあい体験事業などを運営。情報誌・単行本の発行物は45冊を超え、一部は海外でも翻訳出版。乳幼児から小中学生まで幅広い子育て支援により、地域の活性化を目指し、活動の場を広げている。
〈連絡先〉 〒214-0011 川崎市多摩区布田24-26
TEL044-945-8662 FAX 044-944-3009 HP:https://mamaton.jpn.org

◆園内の野鳥マップや写真アルバムをチェック
長浜公園
 横浜市金沢区にある「長浜公園」は、野鳥観察エリアと運動施設エリアが広がる都市公園。「野鳥観察園」には海の水が出入りする汽水池と人工干潟があり、4つの野鳥観察小屋から、鳥たちが羽を休めたり、水の中に潜ったりする姿が観察できます。

〈写真〉
野鳥観察小屋から覗いた汽水池。カモやカワウがのんびりと過ごしていた
〈写真終わり〉

 まずは管理センターで双眼鏡を借り、今の季節は何の鳥がどのあたりにいるのか、目撃情報によって作成された園内の野鳥マップをチェック。月別の野鳥写真のアルバムにも目を通すと、その月にいる鳥の見た目がわかり、見つけやすくなるそうです。

〈写真〉
冬には野鳥観察ガイドツアーを開催
〈写真終わり〉

 運がよければ、カワセミが魚をとって子どもに食べさせる姿も。鳥たちのお腹が空いている午前中の早い時間が狙い目です。

〈写真〉
カルガモの親子を水路で見られるときも
〈写真終わり〉

〈囲み〉
〒236-0011 横浜市金沢区長浜106-6 京浜急行京急富岡駅・シーサイドライン並木中央駅より徒歩約14分
TEL・FAX 045-782-8004
管理センター9:00~17:00
双眼鏡の貸出200円
〈囲み終わり〉

◆図鑑の二次元コードを読み取って鳴き声を聴こう
県立座間谷戸山公園
 座間市の「県立座間谷戸山公園」は雑木林や田んぼがあり、里山の自然生態を観察できる公園。野鳥観察小屋や木製デッキが設けられた「水鳥の池」には、カモやサギ、カワセミなどがやってきます。

〈写真〉
野鳥の案内板を備えた木製デッキと水鳥の池
〈写真終わり〉

 はじめにパークセンターで双眼鏡と野鳥図鑑を借りましょう(土日祝は里山体験館でも貸出)。園内で見られる野鳥の写真を載せた「谷戸山野鳥図鑑」は、二次元コードをスマホで読み取ると鳴き声が聴けます。鳥を見つけるコツは目だけでなく耳も使い、鳴き声がする方向を探すことなのだそう。鳴き声を聴き分けられるようになると、さらに楽しさがアップ。木をコンコンとつつく音からはキツツキ科の鳥が見つけられます。

〈写真2点〉
鳥を雑木林で探すのは少し難しいので、見つけやすい場所から
羽色が美しいカワセミは子どもたちにも人気
〈写真2点終わり〉

〈囲み〉
〒252-0028 座間市入谷東1-6-1 小田急線座間駅より徒歩約10分
TEL046-257-8388 FAX 046-257-8533
パークセンター8:30~17:00
里山体験館 土日祝9:00~16:30
双眼鏡と野鳥図鑑の貸出 無料
〈囲み終わり〉

 バードウォッチングは、木の葉が落ちて見通しがよくなる冬もおすすめ。観察できる野鳥の種類も変わるので、季節ごとに楽しんでみてはいかがでしょう。

P6
NEWS&TOPICS
被災地の暮らしを支える―「FamSKO」介護福祉士被災地派遣ガイドブック
 能登半島地震の初期に、6つの社会福祉法人の支援チーム「FamSKO」による介護福祉士の被災地派遣が行われました。「FamSKO」は法人の名前の頭文字を並べたもの。今回制作されたガイドブックや被災地での活動について「FamSKO」の県内2法人、愛川舜寿会理事長の馬場拓也さんと小田原福祉会・潤生園施設長の井口健一郎さんにお話を伺いました。

 ガイドブックは、日々の支援活動をタイムラインで紹介しています。また支援にあたった12人の介護福祉士のインタビューから、被災地で活動する介護福祉士に必要なコンピテンシー(思考や行動特性)をまとめています。職員を派遣するバックオフィス側に求められるチェックリストを掲載しているのも特徴の一つです。
 「被災地で活動したことをアーカイブしておくことが大事です。『介護福祉士を送り出すときのチェックリスト』には『自分の命を最優先に』『オーバーワークの防止』など基本的なことをあえて載せていますが、被災地の惨状を目の当たりにすると、通常と違う感覚になり、場に飲み込まれることがある。だからこそ基本的なことが大事になってきます」と話す馬場さん。

●介護のインフラを止めない
 能登半島地震では、上下水道や道路などのインフラの崩壊がありましたが、介護のインフラも危機的でした。「現地の介護職員は『利用者が待っている。行かなきゃ』となる。しかし、家が倒壊し子どもが不安定になり『ママ行かないで』としがみついて泣かれる中でそれは厳しい。発災直後は被災した職員は勤務できないので、やはり人手が必要です。しかし全国的な派遣の仕組みが開始されるには時間がかかります。でも、小さい支援組織であれば機敏な動きができる。だから『FamSKO』がその間をつなぎました」と馬場さんは言います。

●介護福祉士のコンピテンシー
 福祉避難所であっても求められる専門性は変わりません。ですが、12人のインタビューでは、普段の現場以上に、ケアの専門性を先鋭化していたことが分かりました。
 「私も現地の福祉避難所に1週間ほど入りましたが、避難者が在宅に戻れるよう生活を整えていこうと、自立支援に取り組んできました。一方、大きな避難所ではベルトコンベア式のようなケアという状況もあって、避難者のADLがみるみる下がってしまったという話も聞いています。そうなると、生活の整え方が違ったのかもしれない」と井口さんは言います。
 馬場さんは「言ってしまえば、ケアは誰にでもできるわけです。しかし、ケアにはより深い専門性、コンピテンシーのようなものがある。ケアは機能を果たすだけのものか、生活の質を問うか」。それによって目標も支援計画も大きく変わってくると言います。

●被災地での支援の広がり
 派遣された介護福祉士にはどんな影響があったのでしょうか。
 「介護って、介護を通して社会をケアしていく、そういう仕事だと思うのですが、普段は日常のルーティンになっている部分もあります。被災地から戻って『人間って困っているときに、みんな助け合おうとする生き物なんだ』と言った職員がいましたが、感性の扉がパカッと開いたのでは?被災地の経験は、人を支える仕事をもう一度見つめなおす貴重な機会だと思います」と馬場さんは語ります。

〈写真〉
お話を伺った馬場さん(左)と井口さん(右)
〈写真終わり〉

 井口さんは言います。「『義をみてせざるは勇無きなり』と言いますが、本当に困っている人がいるとき、社会福祉法人であれば自らが駆けつけよう、支援に行こうとなるはず。その一歩が踏み出せるかどうか。それが社会福祉法人の一つの資質なのだろうと思います」
 ガイドブックでは、未来につなげるための提言もしています。ここでまとめられた被災地支援の経験の蓄積と提言は、次の災害への大きな備えになることが期待されます。(企画課)

介護福祉士被災地派遣ガイドブックはこちら

P7
NEWS&TOPICS
『防災あんしんブック(わがまち・くらし編)』を作りました!
神奈川県手をつなぐ育成会
 神奈川県手をつなぐ育成会は、県内に暮らす知的障害児者とその家族・支援者の会です。(一社)全国手をつなぐ育成会連合会の傘下にあり、障害者に関わる中央情勢などを支部へ伝達し、市町村の声を県・国へ伝えるパイプ役でもあります。近年、会員減少に伴い活動は厳しくなりつつありますが、有益な研修会や地域の情報交換など、できることを前向きに考えながら、活性化を目指し活動しています。

●令和6年元日の衝撃
 元日、石川県の震災のニュースにお祝い気分が一変しました。現地の障害者はどうしているのか、避難所には行けたのか、支援は届いているのか…ニュースを見る度に胸が締め付けられました。
 地震や津波、火山噴火、台風や落雷、竜巻、河川の氾濫や土砂災害、大雪に雪崩、山火事など、日本はどこに暮らしていても自然災害からは逃れられません。もし県内で大きな災害が起きたら…と考えると「今、何かできる事はないか」という気持ちが強くなりました。

●令和6年度の取り組み
 育成会では平成29年に『わたしのノート』という冊子を作っています。その中に緊急時のページはありますが、本人の情報を支援者に伝える内容がメインです。「もっと防災面で必要なことをまとめた物を本人に持ってもらいたい」「地域の特色も違うから防災の取り組みも違うのかな。どんなリスクや備えがあるのか知りたいね」と話し合い、県内市町村の防災情報をまとめた『防災あんしんブック(わがまち・くらし編)』を作るべく作成委員会を立ち上げました。
 令和6年6月に実施した防災勉強会では、輪島市の育成会会員の方からオンラインで被災時のリアルな体験談をお聞きし「自助(備え)の大切さと、辛い避難生活では仲間とのつながりが支えになる」と学びました。会場には、東日本大震災や能登半島地震で被災地支援に向かわれた(福)みなと舎理事長の森下浩明さんを講師としてお迎えしました。森下さんの「どんな時でも障害者の人権を守ることを忘れてはいけない」という言葉が強く残りました。

〈写真〉
『防災あんしんブック』は育成会HPから無料でダウンロードできます
〈写真終わり〉

●ヒアリング・作成を通して得たもの
 33の市町村全てに支部があるわけではありません。川崎市は「川崎市育成会手をむすぶ親の会」に協力をお願いし、支部の無い市町村にも近隣の理事や作成委員がヒアリングに伺いました。
 育成会をご存じない行政職員もいらっしゃいましたが、今回のヒアリングをきっかけに関係を築き「育成会主催の障害基礎年金DVD学習会」実施に協力いただいた、という嬉しい展開がありました。また、接点の少なかった防災関係部署へ育成会と知的障害者の存在をアピールできたことも成果でした。県危機管理課ではホームページにリンクを貼っていただくことにもなりました。嬉しいことに「全ての市町村の防災の取り組みをまとめて見られるのはありがたい」と、歓迎の声もたくさんいただきました。
 大きな活動は難しいと思っていましたが、作成委員を中心に多くの方のご協力があり、完成できたことが自信になりました。「一人ではできないことも仲間で取り組めばできる」と実感できたのです。

●令和7年度の取り組み
 令和7年度には『防災あんしんブック(じぶんのこと編)』の作成を計画しています。障害のある本人が、いざという時に落ち着いて行動できるように、自分の確認用にも、助けを求める時にも活用できるものにしたいと考えています。個別避難計画とも重なる部分はあるとは思いますが、知的障害者の家族だからこその視点でまとめることに意味があると考えています。また完成のご報告ができるよう、頑張っていきます。

P8
福祉のうごき 2025.2.26〜3.25
出生数9年連続で最少72万人
 厚生労働省は2月27日、人口動態統計(速報値)を公表した。令和6年に日本で生まれた子どもの数(外国人を含む出生数)は前年比5%減の72万988人だった。9年連続で過去最少を更新し、日本人だけに限れば70万人を割る見込み。出生数に影響する婚姻数は49万9999組で前年から2.2%増加したが2年連続で50万組を下回った。

高額医療費制度の負担増見送り
 石破首相は3月7日、高額医療費制度について、8月からの自己負担額の段階的な引き上げを見合わせることを表明した。今後、再度見直し内容を検討して、今秋までに結論を出すとしている。
 3月24日には国会議員超党派議員連盟の設立総会が開かれ、負担の引き上げに対する丁寧な議論を行い、今後要望活動を行っていく。

厚労省調査
介護従事者の基本給25万円超
 厚生労働省は3月18日、2024年度介護従事者処遇状況等調査を公表した。調査によると、処遇改善の新加算を取得している事業所における常勤介護職員の基本給が前年度より4.6%増加し、月25万円を超えたことが分かった。
 しかし、他業種と比較すると依然として低いことなどから、処遇改善が引き続き課題となっている。

厚労省調査 令和5年度介護事業所の行政処分139件
 厚生労働省は3月5日、令和5年度に不正などで指定取り消し・効力停止の行政処分を受けた介護事業所は139件であったことを発表した。令和2年度109件、令和3年度105件、令和4年度86件と減少傾向にあったが、前年度より53件増加する結果となった。

P9
〈広告〉

P10
県社協のひろば
令和7年度県社協事業の主な取り組み

 令和7年度は「神奈川県社会福祉協議会活動推進計画(令和6年度から令和10年度)」の2カ年目として、推進の柱に基づき次の活動に取り組みます。

推進の柱Ⅰ 地域での支えあいの推進
●「包括的支援体制及び重層的支援体制構築支援事業」などの事業により、多様な主体とともに市町村域における包括的な支援体制づくりを進めます。
●令和7年の民生委員・児童委員の一斉改選に向けて、活動のやりがいや魅力、仕事、子育てや介護をしながら委員活動をしていく工夫等を発信します。
●経営者部会と市町村社協部会が協働した「地域ネットワーク強化事業」の取り組みにより、横断的な地域福祉課題の解決に向けた法人相互の連携体制を強化します。
●「ともに生きる社会づくり」の理念のもと、世代を超え、支えあいの心が育まれるよう、市町村社協と連携して福祉教育を推進します。
●企業の社会貢献活動と協働した事業実施や、寄附を通じて把握した社会貢献活動事例の発信・普及を図ることで、地域福祉の推進主体を広げます。
●成年後見制度の利用促進に係る事業を通じた地域での権利擁護の体制づくり、今後に向けた市民後見人等担い手育成ついて検討を行います。
●コロナ特例貸付の借受世帯に対し、償還免除等の適切な活用やフォローアップ支援を進めるなど、生活再建に向けた活動を行います。
●災害時における福祉支援活動の民間拠点(県社会福祉センター)として、神奈川県災害派遣福祉チーム(神奈川DWAT)の派遣等に係る体制整備や、令和6年台風10号被害に係る支援活動を踏まえて、市町村社協災害ボランティアセンター等の災害支援業務に係る必要備品の整備に取り組みます。
推進の柱Ⅱ 福祉サービスの充実
●経営支援事業や各種会議・研修会等を通して、社会福祉法人等の経営基盤の強化を図ります。
●第22回かながわ高齢者福祉研究大会(7月)と高齢者福祉施設PR委員会の活動により、現場職員の資質向上と現場の魅力を発信します。また、第59回関東ブロック乳児院福祉協議会(6月)や関東地区救護施設研究協議会(7月)等の開催地として協議の場をつくり、現場の情報・課題共有を図ります
推進の柱Ⅲ 福祉人材の確保・育成・定着の推進
●経営者部会・施設部会と福祉人材センターの連携により、人材確保に関する好事例などの情報発信を行い、福祉人材の確保を図ります。
●就職相談会などの求職者と求人事業者が直接出会う多様な機会を作り、適切なマッチングにつなげます。横浜だけでなく他の市町村でも展開していきます。
●潜在介護福祉士など有資格者へのアプローチを強化し、多様な再就職支援を進めます。
●介護職の負担軽減など働く環境整備と併せて、介護助手の普及に関する活動を行います。
●セカンドキャリアなど、より多くの人が福祉の仕事に就くことを考えることができるよう、福祉の仕事の理解促進に取り組みます。
●福祉人材の専門性の向上にむけて、法人・事業所との連携を図り、研修体系の整備や職員育成・支援の仕組みが強化されるための研修に取り組みます。
推進の柱Ⅳ 県社協活動基盤の充実
●各部会・協議会・連絡会の活動や政策提言活動を通じて把握した社会的孤立などの地域福祉の課題に対して、関係機関と協働しながら、課題解決に向けた活動を進めます。

〈表〉
令和7年度総合資金収支予算書【収入総額】
(自)令和7年4月1日(至)令和8年3月31日 (単位:千円)
会計及び事業区分、拠点区分→→→当初予算額→前年度予算額→増 減
総合計→→→11,044,627→13,233,672→△2,189,045
1一般会計→→→4,928,903→5,731,802→△802,899
→(1)社会福祉事業区分→→4,313,693→5,040,923→△727,230
→→社会福祉事業拠点区分→4,313,693→5,040,923→△727,230
→(2)公益事業区分→→533,716→609,269→△75,553
→→公益事業拠点区分→533,716→609,269→△75,553
→(3)収益事業区分→→81,494→81,610→△116
→→収益事業拠点区分→81,494→81,610→△116
2生活福祉資金会計→→→6,115,724→7,501,870→△1,386,146
→生活福祉資金特別会計→→4,086,393→5,615,704→△1,529,311
→県単生活福祉資金特別会計→→435→507→△72
→生活福祉資金貸付事務費特別会計→→1,939,571→1,796,334→143,237
→要保護世帯向け不動産担保型生活資金特別会計→→88,002→88,002→0
→臨時特例つなぎ資金特別会計→→1,323→1,323→0
〈表終わり〉

事業計画の詳細はHPでご覧ください

P11
会長就任のご挨拶 社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 会長 小泉 隆一郎
 この度、令和7年3月に開催された理事会において、神奈川県社会福祉協議会会長に選任されました、小泉隆一郎でございます。皆様のお力添えをいただき、この重責を果たす所存ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 さて、少子高齢化の進展、人口減少社会の到来で、地域社会の在り方が変わりつつあります。
 特に高齢化の進行により、介護、医療ニーズが増えていく一方、支え手となる担い手や、若い世代が少なくなっており、地域での支え合いが新たな転換を求められ、住み慣れた地域で誰もが安心して暮らせる、地域包括ケアシステムの実現が不可欠です。
 地域の皆さんがお互いに手を取り合い、安心して暮らせる環境を求めていく必要があります。本会としても、地域共生社会の実現に向けて、行政や各関係団体としっかりと連携し、地域の実情に即した支援体制の充実に取り組んで参ります。
 地域福祉は一人ひとりの力が集まることでより大きな力となります。皆様の意見を大切にしながら、誰もが安心して暮らせる神奈川に尽力していきたいと考えています。

Information
役員会の動き
◇理事会=3月17日(月)①正会員の入会②令和7年度事業計画並びに収支予算(案)③令和7年度資金運用計画(案)④職員就業規程の一部を改正する規程(案)⑤非常勤職員就業規程の一部を改正する規程(案)⑥日々雇用職員就業規程の一部を改正する規程(案)⑦職員給与規程の一部を改正する規程(案)⑧職員旅費規程の一部を改正する規程(案)⑨再雇用規程の一部を改正する規程(案)⑩社会福祉事業振興資金における借入金⑪評議員会の招集⑫会長の選任
◇評議員会=3月26日(水)令和7年度事業計画並びに収支予算(案)

新会員の紹介
【施設部会】タキオンブライト
【第3種正会員連絡会】(公社)神奈川県看護協会

本会職員人事異動
(令和7年4月1日付、管理職員のみ)
【総務企画部】総務課長 赤間篤
【地域福祉部】生活支援担当部長 橋本謙
【福祉サービス推進部】部長 井上直、参事兼福祉サービス推進課長 石橋章子、参事兼福祉サービス推進課長 大関晃一
【福祉人材研修センター】所長 香川康夫

関係機関・団体主催の催し
さがみはらアディクションカンファレンス「やめたくても、やめられない?!」
 相模原市内を中心に、アディクションからの回復に向けて活動する「さがみ依存症研究会」と「さがみアデカン実行委員会」による、依存症に関する回復、治療や支援についての催し
◇日時=令和7年5月11日(日)12時30分~16時(開場12時)
◇会場=杜のホールはしもと(相模原市緑区橋本3-28-1 ミウィ橋本内)
◇内容=①「依存症の現場から~いま伝えたいこと~」②モデルミーティング~自助グループってなに?③自助グループ、施設等の紹介
◇参加費=無料
◇申込方法=一部プログラムは事前予約
詳細はHPで確認 HP:http://site.wepage.com/sagamiik
◇問合せ=さがみ依存症研究会 Mail:sagami_add_con@yahoo.co.jp

寄附金品ありがとうございました
【県社協への寄附】古積英太郎
【交通遺児等援護基金】(株)エスホケン
【子ども福祉基金】(株)エスホケン、脇隆志
【ともしび基金】古口玲斗、茅ケ崎支援学校
(匿名含め、合計7件67,383円)
【寄附物品】(公財)オリックス宮内財団、神奈川県建設業課、(公財)報知社会福祉事業団、神奈川県住宅営繕事務所

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かながわほっと情報
未来を切り拓く学びの場~誰もが学べる相模原自主夜間中学~ 
相模原の夜間中学を考える会(相模原市緑区)
学びの場を提供する
 自主夜間中学は、義務教育を十分に受けられなかった人や学び直したい人のための学びの場です。
 「相模原の夜間中学を考える会」代表の吉田惠一さんにお話を伺いました。
 吉田さんたちは30年ほど前から外国につながりのある子どもたちの学習支援をしていました。2016年頃から16歳以上の若者が増え、日本語の壁や日本社会に適応する困難さに気づきました。そこで、相模原市に公立夜間中学を開校し、学びの場を提供しようと考えました。市民に呼び掛け「相模原の夜間中学を考える会」を発足し、市民へのアンケートや市への要望活動を行いました。市も夜間中学の必要性を認識し、2022年4月に公立夜間中学の開校へとつながりました。
 しかし、毎日夜間中学に通うことが困難な人がいることが分かり「いつでも、だれでも、学びたいことを自分のペースで」という考えの元、2022年4月から「自主夜間中学」を始めました。
 相模原自主夜間中学では、元教員や日本語教師経験者を含め、約10名のボランティアスタッフが学習支援を行っています。
 年齢・国籍・学歴に関係なく、学びたいすべての人が通えることが特徴で、実際に学習者の約8割が外国人で、バングラデシュ、ネパール、韓国などさまざまな国籍の方が学んでいます。学習は学習者の学びたいことに合わせて1対1の指導が行われています。

“自分にできることをやろう”
 吉田さんは中学校の先生でしたが、学校に入学してきた外国籍の生徒に「困っていることはありますか」と尋ねたところ、日本語に困り、外国籍の子ども向けの学習教室に通っていることを知りました。早速見学に行った吉田さんは、中学校で教鞭をとりつつ、週一回学習支援のボランティアとして関わるようになりました。そこには、移住者に十分な支援体制を用意していない国へのやるせなさと「それなら自分にできることをやろう」という熱い決意がありました。
 それから教員とボランティア活動を続けている最中、家族に介護が必要となった時期もありましたが、このような中でボランティア活動を続けてきたのは、目の前の困っている子どもたちを見捨てることができない吉田さんのやさしさと使命感からでした。
 この思いで活動を広げ、30年経った今では、団地や自主夜間中学での学習支援活動を行っています。

これからも学びたい人のために
 今後の活動について「公立の夜間中学は神奈川県内には横浜、川崎、相模原にしかない。他の市町村でも学びたい人のためにできることをしたい」と語ります。そのために、2025年3月末には夜間中学の活動を紹介する動画の上映会を平塚市で行うなど普及活動を行っています。
 自分たちができる活動を続ける相模原自主夜間中学には、吉田さんやボランティアの皆さんのやさしく熱い気持ちがあふれていました。
(企画課)

〈写真〉
代表の吉田さん(撮影:菊地信夫)
〈写真終わり〉

相模原自主夜間中学
https://www.sagami-portal.com/city/kodomo-ibasyo/archives/5177

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