福祉タイムズ

Vol.867(2024年2月号)

このデータは、『福祉タイムズ』 Vol.867(2024年2月号)(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。データは、下記リンクからダウンロードが行えます。

P1
福祉タイムズふくしTIMES
2024.2 vol.867
編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会

特集
コロナ特例貸付における借受者へのフォローアップ~生活再建に向けた各社協の取り組みと今後の支援~
NEWS&TOPICS P4 法テラスが「個別ケース会議」に弁護士を派遣します 法テラスかながわ
P5 神奈川県における自殺対策の取り組み 県がん・疾病対策課
連載 P8 ハザマの福祉課題-④

今月の表紙
クライミングのコースを下から説明する白井さん(写真中央)。
(N)モンキーマジックは、フリークライミングを通じて、視覚障害者をはじめ、障害の有無に関わらず人々の可能性を大きく広げることを目的に活動している。【詳しくは12面へ】
撮影:菊地信夫
撮影協力:クライミングジム ライズ

P2
特集
コロナ特例貸付における借受者へのフォローアップ~生活再建に向けた各社協の取り組みと今後の支援~
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、令和2年3月から開始された緊急小口資金及び総合支援資金の特例貸付(以下、コロナ特例貸付)は、令和4年9月に貸付申請の受付を終了し、令和5年1月には償還(返済)が開始されました。徐々に以前の生活を取り戻しつつある一方、今なお生活に困窮する方の声も多く寄せられます。
 償還開始から1年が経過し、貸付を受けた方々の現在の生活状況が見えてきた今、コロナ特例貸付を通してつながった方々にどのように寄り添い、支援につないでいるのかをお伝えします。

コロナ特例貸付とは
 令和2年以降、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、多くの方々の生活が大幅に制限されました。そのような中、生活福祉資金の貸付対象を「新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や失業等により生活に困窮している世帯」へ拡大したコロナ特例貸付が実施されました。緊急小口資金は最大で20万円、総合支援資金は初回貸付・延長貸付・再貸付それぞれについて単身世帯45万円、複数世帯60万円を上限とし、最大で一世帯あたり200万円の貸付を行いました。
 本県においては緊急小口資金で約10万件・194億円、総合支援資金で約13万件・684億円の貸付を行いました。貸付により世帯を支えた一方で、特にひとり親世帯や自営業者、フリーランス、外国籍の方等、脆弱な生活基盤のもとで生活を送っていた方々が顕在化するきっかけとなりました。

償還免除と償還猶予
 コロナ特例貸付は令和5年1月以降、資金種類や貸付の申請時期ごとに順次、償還を開始していますが、生活再建に至らず償還が困難な方に向け、償還免除の制度(表1)や、償還猶予の制度が設けられています。

〈表1〉
(表1)コロナ特例貸付の免除要件等
〈表1終わり〉

 現時点では、緊急小口資金、総合支援資金の初回貸付分、延長貸付分の償還免除及び償還猶予の申請を受け付けています。償還猶予は、免除要件には該当しないものの償還困難な方について、原則1年間償還を待つ制度です。申請理由①~④(図2)の場合は根拠書類の提出を必須としていますが、書類の準備が困難な場合、本会及び各市区町村社協(以下、各社協)にて生活状況を聞き取り、意見書を作成することとしています(申請理由⑥)。償還猶予決定後は、本会にて作成した猶予決定者一覧を各社協に提供し、見守り支援等へとつないでいます。

〈図1〉
(図1)本県における償還免除申請状況等
 対象債権数:205,939件(令和6年1月18日時点)
〈図1終わり〉

〈図2〉
(図2)本県における償還猶予の申請理由内訳
 償還猶予者数:7,047件(令和6年1月18日時点)
〈図2終わり〉

 令和7年1月から総合支援資金の再貸付分が償還開始となりますが、毎月の償還額が最大で2万円を超えることから、今後償還猶予を希望する方が増加することが予想されます。

P3

各社協による取り組み
 令和4年10月、厚労省より通知が発出され、借受者のフォローアップ支援とそれに伴い各社協が支援体制を構築することなどが示されました。この通知に基づき、各関係機関で支援を行っていますが、今回は各社協の取り組みの一部を紹介します。
●川崎市社協では、生活再建支援室を立ち上げ、①市内在住のコロナ特例貸付借受者想定2万人とつながること、②「困ったら社協に」のメッセージを伝えることを目標に支援を行っています。メールにより問い合わせがあった借受人とやり取りを重ね、食料支援や住民票取得のため役所に同行するなどの支援につながったケースがありました。また、免除申請の不備対応を支援し、償還免除につながったケースもあります。
●相模原市社協では、主に償還猶予中の方を対象に、市社協で作成した書面で案内し、状況確認に努めています。支援を標準化するため3区(中央区、南区、緑区)の窓口を中央区に一本化し、専任の職員を中心として相談希望者から生活状況や今後の見通しの相談を受けています。聞き取った状況とご本人の意向を基に、市社協内での方針決定会議で対応を定め、ケースによってはCSWや自立支援相談窓口等と連携し、支援にあたっています。
●藤沢市社協では、フォローアップ支援のために専任の職員を配置し、猶予決定者一覧等を活用して対象世帯へ通知文を送付しています。相談方法をオンラインフォーム、メール、電話、来所など複数用意し、さらに土日祝日や時間外等、可能な限り相談者に合わせた対応をしています。

〈写真〉
藤沢市社協より送付している通知
〈写真終わり〉

 他にも、困りごと別の相談窓口に関する案内を作成し借受者へ郵送するなど、各社協において工夫しながら支援を行っています。
 本会では横浜市と連携し、本会から送付する通知に横浜市主催の家計改善に関するセミナーの案内や自立相談支援機関のチラシを同封しています。コロナ特例貸付によりつながった方々が、他機関へつながるきっかけの一つとなっています。
今後の支援のあり方
 コロナ特例貸付の償還期間は最長で10年間を超え、今後の支援策もその時々の局面で変わることが予想されますが、当面の課題として、償還もなく免除や猶予の申請もされていない未応答の方へどのように対応するかが挙げられます。
 償還免除や償還猶予の要件が多岐にわたることから、借受者自身がどの要件に該当するのかを判断できず、結果として未応答となることも少なくないと考えられます。実際に、未応答であった方より償還が難しいと相談を受けたところ、実は償還免除の対象であったとわかったケースや、届いた通知の内容が分からないと問い合わせを受けるケースがありました。現在は郵送による通知やホームページでの案内を中心としておりますが、今後はSNS等も活用し、多言語への対応やイラストを使用するなど、より多くの方に分かりやすい情報を届けるとともに、電話や訪問等の積極的なアウトリーチを実施していく必要があります。
 また、本会へ連絡なく転居され、通知が届いていないケースもあります。償還免除申請書を送付したところ、令和4年度・5年度で約7千名分が宛所不明のため返送されました。住所調査により借受者の所在を把握のうえ、生活状況を確認し、各社協をはじめ生活保護や家計改善、法テラス等の適切な支援につないでいくことが本会の役割であると考えます。
 本来、生活福祉資金貸付制度は、一時的に資金を貸し付けし、必要な相談支援を行うことで世帯の自立を図ることを目的としています。償還が完了して初めて世帯の自立につながったといえますが、償還免除や未応答の方が多いことから、今も何らかの困りごとを抱えて生活している方も多くいることが分かります。
 コロナ特例貸付をきっかけに、今まで社協と関わることがなかった方々とつながることができました。そうした方々に丁寧な対応が行えるよう支援体制を整備しつつ、各関係機関と情報を共有し連携を図りながら、一人ひとりの生活に寄り添った支援を行ってまいります。
(生活支援課)

〈囲み〉
コロナ特例貸付の貸付要件や変遷等についてはこちら
福祉タイムズ2023年2月号
https://www.knsyk.jp/fukushi-times/855
〈囲み終わり〉

〈囲み〉
償還免除要件の詳細についてはこちら
https://www.knsyk.jp/service/fukushi-shikin/shokan
〈囲み終わり〉

P4
NEWS&TOPICS
法テラスが「個別ケース会議」に弁護士を派遣します―困難事例を抱える福祉のチームに地域の弁護士も
●ケース会議弁護士派遣モデル事業について
 令和5年4月から、県内の自治体、福祉機関などが実施する「個別ケース会議」に法テラスから弁護士を無料で派遣する制度が始まりました。
 本モデル事業は令和8年3月末までの事業ですが、問題解決の選択肢の一つとしてご活用いただくことができますので、複合的な課題を抱えた人や制度の狭間にある人の迅速かつ適切な支援にお役立ていただければ幸いです。なお、自治体等にご負担いただく費用はありません。
 具体的には、判断能力の低下したひとり暮らしの高齢者が消費者被害に遭っているようなときや、認知症により日常生活にさまざま支障をきたし、光熱費等の滞納でライフラインも止まりかねない状態のとき、または家族全員に病気や障害などの課題があり、家がいわゆる「ごみ屋敷」のようになっているときなど、ケース会議が開催される場合は、まずは法テラスにご相談ください。弁護士が福祉機関の関係者たちと連携しながら、法律面からのアプローチや課題の整理を行います。対象となる会議は左記の要件を満たす会議です。なお、対面のほか、電話・オンラインによるケース会議も対象です。
①県内の福祉関係機関が主催する会議であること(自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センター等)
②個別案件に関する会議であること
③本人の利益を図る目的で実施する個別会議であること
④法テラスの実施する他の法律相談援助の利用によることが適当でないこと
 (例)客観的には支援が必要であるが、本人が法律相談を拒否しており、福祉関係者同席の法律相談を行うことは困難である場合
●ケース会議の申込方法

●無料法律相談、裁判に関する費用もご心配なく
 必要があればご本人の同意を得て無料で法律相談を行います。相談は1回30分、一つの問題につき3回まで相談できます。
●代理援助・書類作成援助
 無料相談のみでは問題が解決せず、裁判や調停・交渉などを行うことになった際、弁護士・司法書士の費用や裁判費用を立て替えることができます。立て替えた費用は、本人が毎月分割で返済します。要件に該当する方には免除の制度もあります。無料法律相談や費用の立て替えには「月収や保有資産が一定額以下であること(左表参照)」や「民事法律扶助の趣旨に適すること」「勝訴の見込みがないとは言えないこと」などの利用条件がそれぞれあります。詳しくは法テラスまでお問合せください。
(法テラス神奈川)

P5
NEWS&TOPICS
神奈川県における自殺対策の取り組み―ひとりで悩まず相談できる地域づくりを
 神奈川県では、令和4年に自殺により亡くなった方は1337人で、人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)は14・5人となり、前年に比べて1・3人増加しています(グラフ参照)。

〈グラフ〉
(グラフ)神奈川県の自殺者数・自殺死亡率の推移
〈グラフ終わり〉

 特に、女性やこども・若者の自殺者数の高止まりや増加が課題となっています。
 また、自殺の多くは多様かつ複合的な原因や背景があり、様々な要因が連鎖する中で起きています。
 県では、自殺を考えている人を一人でも多く救うことをめざし、令和5年3月に「かながわ自殺対策計画(第2期)」を策定しました。
 そして、医療・保健・福祉・教育・産業等様々な関係機関から構成される「かながわ自殺対策会議」を開催し、自殺対策について協議し、取り組んでいます。
●具体の取り組み
 県は、県民に対して各種研修や、相談窓口をSNSや交通広告に掲載するなど普及啓発に取り組んでいます。
 特に、ゲートキーパー(※)研修の受講者が増えることで、家族や近所、友人、同僚等地域の中で心の不調をかかえる人に気づき、支援機関につなげてもらえるようになります。相談窓口を知ってもらうことや、支援につながる人が増えることで、社会全体の自殺リスクを低下できるよう努めています。

〈コラム〉
(※)こころに不調をかかえている人や、自殺に傾く人のサインに気づき、対応する人のこと
ゲートキーパーについてはこちらから
〈コラム終わり〉

 また、自殺ハイリスク者である自殺未遂者支援についても病院、相談支援事業所の協力を得て、支援の体制強化をはかっています。
●他機関との連携
 そして、多重債務や労働問題、自死遺族の相談については、弁護士等の司法や労働の関係機関が行っている専門相談につなげたり、学校のスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを通じて地域の支援機関につなげたりなどの連携をはかっています。
 複数の分野にまたがる相談に対しては、保健・福祉・司法・医療等の専門家がワンストップで相談を受ける「包括相談会」を実施し、各機関と連携した相談支援も行っています。
 また、今後は「自殺対策ポータルサイト(仮称)」の開設を検討しています。メンタルヘルスや県、関係機関の取り組みや研修などの情報を発信し、県民の皆様に周知、関心を持っていただけるようにしていきたいと思っています。
●自殺対策の課題
 令和4年の国民生活基礎調査(厚生労働省)では、県民のおよそ2人に1人が日常生活において「ストレスあり」と回答しています。
 心の不調や不安があってもだれにも相談することができずに一人で悩み、適切な支援につながることができず、追い込まれている人もいます。自殺や精神疾患に対する知識や理解不足による周囲の偏見も課題ではないでしょうか。
 一人でも多くの方に自殺や精神疾患についての知識や理解を持っていただき、地域の人や支援機関と連携できる体制を作ることで「孤立しない地域づくり」を進めることができ、自殺者数の減少につながると思います。

 県では、今後も県民の皆様が心の健康を保ち、安心して生活できるよう、県民の皆様や社会福祉協議会等関係機関と連携をして自殺対策に取り組んでまいります。
(県がん・疾病対策課)

〈囲み〉
「かながわこころの情報サイト」に各種相談窓口を掲載しています
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/nf5/kokoro/top.html
〈囲み終わり〉

P6
福祉のうごき 2023年12月25日~2024年1月26日※新聞等掲載時点
●認知症基本法が施行 
 認知症の人が尊厳や希望を持って暮らせる共生社会実現が目的の「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が令和6年1月1日に施行された。国は1月26日に、首相が本部長の「認知症施策推進本部」を設置した。今後は、法律
に基づく「基本計画」を作る。

●令和6年能登半島地震発生、47市町村に災害救助法が適用
 能登地方を震源とする最大深度7の地震により、広い範囲で甚大な被害が生じ、多くの方が厳しい避難生活を余儀なくされている。
 社協では災害ボランティアセンターの設置、生活福祉資金(緊急小口資金)の特例貸付が開始されている。また、避難所への生活支援のため、災害福祉支援ネットワーク中央センター(全社協)により1月8日以降の災害派遣福祉チーム(DWAT)の派遣を調整している。この他、被災地の福祉施設や社協に対して、全国からの応援職員が派遣されている。

●相模原市 情報格差解消を目指し携帯4社と協定
 相模原市と携帯電話事業者4社は1月9日「スマートフォンの普及促進に係る実証実験に関する協定」を締結した。協定により4社は、相模原市緑区の中山間地域で懸念される高齢者の情報格差解消を目指しスマートフォン普及を促進するため、今後、津久井、相模湖、藤野の旧3町の地域に住む65歳以上の市民を対象に、スマホ教室の開催や、6カ月間スマートフォンの無償貸与などを行う。

●県 子育て支援情報をLINEでお届け
 県は、住んでいる市町村や子どもの年齢に応じた子育て支援の情報をLINEで通知するサービスを始めた。県の公式LINEアカウント「かながわ子育てパーソナルサポート」に登録して居住地と子どもの年齢を入力すると、集約した市町村ごとの子育て支援情報を、必要なタイミングに「プッシュ型」で送信する仕組みで、保護者が自分で探さなくても情報を取得できる。

P7
私のおすすめCHECK!
◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。

『オレンジ・ランプ』本と映画のご紹介
 39歳で若年性認知症と診断され、現在49歳の丹野智文さんをモデルにした書籍「オレンジ・ランプ」が発売されています。また、本を原作にした映画も公開されています。
 本では奥様とご本人の思いが二人のそれぞれの視点で交互に書かれています。
 認知症の当事者とその家族、周囲の人の優しさが満ちている作品です。ぜひご覧ください。

今月は→認知症の人と家族の会神奈川県支部がお伝えします!
認知症の人と家族の会は1980年に、神奈川県支部は1981年に発足。以来今日まで、介護家族と本人のつどい、電話相談、会報の発行、啓豪活動、調査研究、行政への要望などを行ってきました。
〈連絡先〉横浜市神奈川区反町3丁目17番2
TEL045-548-8061 FAX 045-548-8068
毎週(月)(水)(金)10時から16時
URL:https://azkanagawa.sakura.ne.jp/wp/

 認知症と聞くと、高齢者の病気と思われがちですが、65歳未満で発症する若年性認知症もあります。若年性認知症の原因としては、アルツハイマー型認知症が約半数と最も多いですが、その他にも血管性認知症、前頭側頭型認知症など原因は様々です。厚生労働省の調査によると、発症の平均年齢は54.4歳であり、まだ働き盛りの世代ですので、生活に大きな影響が出てきます。
 ご本人は認知症と診断されたことから絶望する方が多く、これからの人生に不安を感じます。「認知症になったら人生終わり」と思ってしまいます。また、家族も、将来のことを考え、医療や介護だけではなく、経済的なこと、家庭のこと、社会に受け入れてもらえるか、どのように暮らしていけばよいのかなど多くの悩みを抱えます。
 ただ認知症になったからといって、辛くて悲しいことばかりではなく、希望もあり、明るさ、喜びもあります。新しい人生も始まります。認知症になったからといって、すべてが終わるわけではないのです。

◆本『オレンジ・ランプ』
 この本からそういったことを知ることができます。本の解説の中で、この本のモデルとなった丹野智文さんは「39歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断され、毎晩泣いてばかりいました。それは泣きたくて泣いているのではなく、自然と一人になると涙が溢れてきたのです。それだけ不安と恐怖の中にいました」と書いています。
 ですが、そのような中、家族の支え、仕事場での上司・同僚の理解、学生時代からの親友との友情、地域での助け合いから、前向きに笑顔で過ごすことができるようになりました。今では、自分の経験を伝え、認知症の人と家族のために目の前の不安を持った当事者が一人でも笑顔になって欲しいと講演をしています。
 「認知症になると何もできなくなり、困った症状ばかりで迷惑がかかる」という偏見と誤解は、いまだに根強く残っていますが、この本からは認知症に対する意識が変わってきます。

◆映画『オレンジ・ランプ』
 また、この本を原作にした映画「オレンジ・ランプ」も公開されました。
 認知症の当事者を和田正人さん、妻を貫地谷しほりさんが演じており、とても感動する映画になりました。
 「実話をもとに描く、やさしさに満ちた希望と再生の物語」として公開され、現在は各地で自主上映が行われています。映画の詳細、上映会のお申し込みはホームページからご確認ください。
 丹野智文さんは、本の解説の最後に「みなさんが安心して認知症になれる社会を一緒に作っていきましょう」と書いています。今、認知症とともに生きる共生社会が求められています。
 この本と映画から認知症の理解が深まることを願っています。

本『オレンジ・ランプ』山国秀幸著・幻冬舎
 https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344432895/

映画『オレンジ・ランプ』
 https://www.orange-lamp.com/ 

P8
連載
ハザマの福祉課題
【第4回】住まいの課題を抱える人の支援の現状-居住支援団体の取り組みから
 高齢者や障害者、生活困窮者などの中には、様々な理由から住まいの確保に課題を抱える人がいます(いわゆる、住宅確保要配慮者)。福祉的ニーズをもつ人の中には、住まう〝場〟の確保とともに、そこでの生活を支える福祉的支援が重要となります。
 住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)を支える制度は福祉施策のほか、住宅施策における「住宅セーフティネット制度」があります。この制度では、要配慮者への住まいの相談や入居後の見守り支援などがあり、地域での暮らしを支えています。
 今回は居住支援を行っている3人の方に、支援の実際や課題となっていることについてお話を伺いました。

 住宅セーフティネット制度の中に位置付けられた居住支援には、①入居者への家賃債務保証、②住宅相談など賃貸住宅への円滑な入居に係る情報提供・相談、③見守りなど要配慮者への生活支援、④①~③に付帯する業務があり、都道府県から指定を受けることで居住支援法人として活動できます。

―要配慮者が入居を断られる理由にはどのようなことがありますか
(入原)要配慮者の中には、緊急連絡先のない方や収入が低い方がいます。また、高齢の方や障害のある方も断られてしまうことがあります。
それは、高齢者の室内死(居室内で一人で亡くなられた場合のこと)や障害のある方の近隣トラブル、ひとり親家庭なら家賃の支払いができるかなど大家さんや不動産業者が「自分たちが負わなければいけないのではないか」という不安があるからで、地域の見守りや福祉サービスがあることを説明し、理解を進めています。
(加藤)自社の管理物件ですと、ある程度融通が利くので入居しやすいです。しかし、一般の物件から探さなければいけない場合は、物件を所有する大家さんやその物件を管理する不動産業者が要配慮者に対する理解がないと、入居を断られてしまうこともあります。

―居住支援として、どのような取り組みを行っていますか
(萩原)ご本人からの相談に始まり、転居理由や物件の希望、引っ越し費用などを聞き取ると、福祉的支援が必要な方がサービスや支援機関につながっていないことも分かり、その場合には、まず関係機関につないでから住まいの支援をしています。

―居住支援を行う上での難しさはありますか
(入原)入居者の多くは、家賃が支払えない時に備えて保証会社の家賃債務保証サービスを利用します。高齢者や障害者、すでに債務がある方も対象になりますが、中には保証会社の審査が通らない人もいます。
(加藤)要配慮者に対する不動産業者や大家さんの理解も必要だと思っています。
(萩原)要配慮者の生活状況を知らないため、ひとくくりにリスクが高いと判断してしまうのだろうと思います。福祉関係者の支援があれば、地域でも生活できるということを知ってもらうために物件管理会社へご本人と一緒に出向き、直接会ってもらうこともあります。

〈写真〉
居住支援団体の皆さん(左から)加藤さん、萩原さん、入原さん
〈写真終わり〉

―国では、生活保護や生活困窮者自立支援制度の見直しが進められ、住宅施策との連携が期待されています
(入原)居住支援は、住宅と福祉をつなぐことと言われていますが、支援制度の仕組みとビジネスをつなぐという見方ができます。
(加藤)不動産業者の側から考えると、3万円の物件を複数契約するよりも、10万円の物件を契約した方が時間と手間もかからないのが現状です。
 ですが、私の場合は、たまたま精神障害のある方の地域生活の様子を知って「地域で生活しても問題ない」と思いました。不動産業者では広くやられておらずビジネスチャンスと捉えることもできました。
(入原)ミクロの視点で見ると、少額の賃貸物件の仲介料だけでは利益が上がりにくいですが、不動産業者と福祉関係者の顔が見える関係ができると、福祉関係者のプライベートな取り引き(自宅、実家の売却)や地域の空き家の利活用の相談を受けるなど、ビジネスに広がりができる側面があります。

P9

―住宅施策として、今後に期待することはありますか。
(加藤)まずは不動産業者が要配慮者の状況を理解してほしいですね。入居の受け入れをしてもらえることで、ご本人の住まいの選択肢が広がり、居住支援の課題も解決できると思います。
(入原)不動産業者としては、社会貢献とビジネスチャンスと捉える両面があります。「家を借りたい人には当たり前に貸す」と言う不動産業者もいて、「要配慮者」だからというのではなく、その方自身を見るというのが大事かと思います。
(萩原)ご本人の希望と物件の実際とでどう折り合いをつけていくかも大切な視点で、福祉関係者の方とも協力してご本人の希望を応援していきたいと思っています。

 要配慮者の状況を的確に把握しながら、ご本人にとって安心して暮らせる場がどこか、一緒に考えてくれる居住支援に関わる皆さんの存在は心強いものと感じます。
 一方で、住宅確保の面においては要配慮者に対する理解や地域の中での見守りなど課題も残ります。今後、福祉と住宅の連携を進める上では、これらの課題に協働して取り組むことが期待されます。(企画課)

〈囲み〉
公益社団法人かながわ住まいまちづくり協会 事業部 事業課長
入原 修一さん
居住支援法人として高齢者や障害者の入居支援や見守り支援を行うほか、神奈川県居住支援協議会の事務局を担う。
HP:http://www.machikyo.or.jp/

NPO法人 ナレッジ・リンク
萩原 利公さん
相模原市で生活困窮者自立支援制度に基づく就労準備支援事業を行うほか、県の委託を受け町村部の居住支援を行っている。

株式会社トータルホーム 代表取締役
加藤 靖教さん
厚木市の不動産業者。居住支援法人として指定を受け、主に精神障害のある方の入居支援や見守り支援を行っている。
HP:https://www.total-h.co.jp/

P10
県社協のひろば
福祉サービス第三者評価を受審してみませんか―福祉サービスの質の向上にむけた取り組みを応援します
 福祉サービス第三者評価(以下、第三者評価)とは、都道府県に1か所ずつ設置される第三者評価事業の推進組織が認証した評価機関が、社会福祉施設等の特徴やサービスの質について、専門的かつ客観的な立場から総合的に評価をするものです。
 第三者評価の受審から評価結果公表までの標準的な流れは左記のとおりで、受審を希望する事業者は評価機関と直接契約を結びます。
契約後は事業者による自己評価や評価機関による利用者アンケート等の事前準備の後、評価機関所属の評価調査者による訪問調査を実施し、一連の結果を踏まえて評価機関と事業者で意見交換、調整を重ね、評価結果が確定します。
 本県の第三者評価推進組織である、かながわ福祉サービス第三者評価推進機構(以下、推進機構)では、毎年受審事業者にアンケート調査を実施しており、受審の効果として「自らの提供するサービス内容について新たな気づきが得られた」「職員参加で振り返りを行うことで課題の共有が進んだ」等の意見をいただきます。このように第三者評価により、福祉サービスの質の向上にむけた事業者の主体的な取り組みの促進が期待されています。

〈図〉
第三者評価の標準的な流れ
STEP1「評価機関の選定」
評価機関の情報収集、比較、選定

STEP2「契約」
評価機関との契約、スケジュール調整など

STEP3「事前準備」
自己評価の実施、必要書類の提出、評価機関による利用者アンケート調査など

STEP4「訪問調査」
現地での職員、利用者への調査、場面観察など

STEP5「調査結果の確認」(評価結果の内示)
評価結果内容の相互確認、公表に関する同意

STEP6「評価結果の確定・公表」
ホームページなどで公表(公表期間:3年間)
〈図終わり〉

 また、介護保険や障害福祉サービスの利用者への重要事項説明には第三者評価の受審の有無等が義務付けられていますが、評価結果はインターネット等でも公表されるため、サービスを選択する際の情報になるとともに、サービスの質の向上に積極的に取り組む事業者としての姿勢を示すことにもつながります(推進機構では受審事業者に対しステッカー形式の「受審済証」を発行しています)。

〈写真〉
推進機構キャラクター「ふくしみるちゃん」絵柄入り受審済証(ステッカー)
〈写真終わり〉

さらなる受審促進に向けて
 任意で受審する仕組みとして平成16年度から本格的に開始された第三者評価ですが、その後、児童養護施設等の社会的養護関係施設の受審義務化(3年に1度、措置費の受審加算あり)や、県内では横浜市や川崎市での保育分野における単独の加算制度の実施、さらに本会の経営者部会や施設部会の一部の種別協議会においても、会員支援の一環として受審料の一部助成を行うなど受審に向けた支援が進んでいます。こうした取り組みもあり、令和元年以降の本県の受審件数はコロナ禍を経つつも4年間連続して増加傾向にありますが、さらなる受審促進が望まれる状況であることも事実です。
 推進機構では第三者評価に対する一層の理解促進に取り組むとともに、事業者に対してはオンラインで参加できる説明会の開催や、会員を対象とする受審費用の一部助成など、引き続き受審促進に取り組んでいきます。
(福祉サービス推進課)

〈囲み〉
かながわ福祉サービス第三者評価推進機構
HPはこちら
〈囲み終わり〉

P11
Information
本会主催の催し
協働モデル助成
多文化高齢社会ネットかながわ
2023年度活動報告会
◇日時=令和6年3月10日(日)14時~16時30分
◇開催方法=ハイブリッド開催
◇会場=かながわ県民センター301会議室
◇定員=会場40名、オンライン80名
 詳細はHPで確認 HP:https://ja.padlet.com/tknkyukka2021/tknk-bh4hgxgs4jo6gjb6
◇問合せ=多文化高齢社会ネットかながわ(TKNK)事務局
令和5年度ボランティア活動等実践交流会
担い手について考える
◇日時=令和6年3月13日(水)14時~16時30分
◇会場=県社会福祉センター4階
◇参加費=1,000円(事前振込)
◇定員=80名(先着順)
◇申込方法=URLから申込み URL:https://x.gd/PR2AH
 詳細はHPで確認 HP:https://knvc.jp/activities_event/2674/
◇問合せ=地域課(かながわ
 ボランティアセンター)
TEL  045-312-4813 FAX 045-312-6307

寄附金品ありがとうございました
【県社協への寄附】古積英太郎
【交通遺児等援護基金】(株)エスホケン
【子ども福祉基金】(株)エスホケン、脇隆志
【ともしび基金】JAさがみ、JAセレサ川崎、JAかながわ西湘、JA湘南、(福)日本医療伝道会総合病院衣笠病院、富士見湯
(匿名含め、合計14件103,172円)
【寄附物品】(一社)生命保険協会神奈川県協会、神奈川トヨタ自動車(株)、東亜建設工業(株)横浜支店、住宅営繕事務所、(一社)神奈川県自動車会議所
【ライフサポート事業】〈寄附物品〉
(N)セカンド・ハーベストジャパン
(いずれも順不同、敬称略)

〈写真3点〉
開成町社協へ福祉巡回車を寄贈いただき、令和6年1月10日、(一社)生命保険協会神奈川県協会 酒井会長(左)へ感謝状を贈呈
交通遺児等援護基金に寄附いただき、令和6年1月16日、(一財)YAMANAKA未来財団 山中昌一代表取締役社長(右)へ感謝状を贈呈
福祉施設等へ介護車両を寄贈いただき、
令和6年1月25日、(一社)神奈川県自動車会議所 御代田晃一理事長(左)に感謝状を贈呈
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かながわほっと情報
見えない壁だって、越えられる―視覚障害者クライミング  
特定非営利活動法人 モンキーマジック

視覚障害者へクライミングの機会を
 障害のある人もない人も一緒にクライミングを楽しむイベントが、毎月戸塚区で開催されています。主催している(N)モンキーマジックの代表理事小林幸一郎さんにお話を伺いました。
 小林さんは日本のパラクライミングをリードしてきた盲目のクライマーです。16歳でクライミングを始め、28歳で目の難病を発症し徐々に目が見えなくなっていきました。失意の中でしたが、クラミングを続けていると、目が見えなくてもクライミングが続けられることに気付き、この経験を他の視覚障害者にも伝えていこうと思いました。
 「クライミングは人と争うスポーツではなく、自分のペースで、自分のやり方を見つけて、答えを出していくスポーツです。障害者にとって、できないことが増えて行く中で、クライミングが自信を取り戻し、新しい関係を築くきっかけになります。そして未来を支えるものになります」と小林さんは言います。そして、この活動に自分の人生をかけていこうと決意し、2005年に(N)モンキーマジックを設立し、障害の有無に関わらず誰もがクライミングを楽しむ機会を作ってきました。

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代表理事の小林幸一郎さん
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 モンキーマジックのスタッフの白井さんは言います。「クライミングは障害のある人もない人も一緒に楽しめるスポーツであることを知って欲しいです。助ける・助けられるではなく、一緒にクライミングを楽しむことで多様性の理解が進むと思います」
 そして、モンキーマジックの活動が認められ2022年、「スポーツ界のアカデミー賞」と言われている「ローレウス世界スポーツ賞」にノミネートされるほどの団体になりました。

交流型クライミングイベント
“マンデーマジック”
 毎月第三月曜日の夜に開催されているマンデーマジック横浜@戸塚(クライミングジム ライズ)に参加をしました。視覚や聴覚に障害のある人や障害のない人が10数名集まりました。初めて参加する人に対してクライミングの基本を教えた後、グループに分かれて自由にクライミングを楽しみます。視覚障害がありクライミング歴10年以上のカツミさんは、コースの説明を聞いたあと、すいすいと高さ3mほどのゴールへ登っていきます。途中、下にいるガイドが近くにあるホールドを大きな声で説明します。「10時の方向に、やや遠め、三角形!」と、方向・距離・形を説明します。手順や体の使い方など細かいことはあまり伝えず、クライミングの楽しさである、自分で登り方を考えることをしてもらいたいと、小林さんは話します。2時間ほどクライミングを楽しんだ後は、みんな打ち解けて和やかな雰囲気に包まれていました。
 今後の目標について小林さんは「全国47都道府県へ交流型クライミングイベントを届けたい。さらにアジア各国に向けて活動を広げていきたい」と、語ってくれました。
 クライミングは、どなたでも参加できます。興味のある方は、下記HPからお申込みください。(企画課)

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スタッフの白井唯さん
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(N)モンキーマジック
https://www.monkeymagic.or.jp
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