【第2回】社会のハザマにある人を支援するー神奈川県地域生活定着支援センターの取り組みから考える課題
神奈川県地域生活定着支援センターセンター長 山下康
- 分野 その他の活動分野 /
- エリア横浜市神奈川区 /
- 推進主体 民間団体(NPO等) /

障がいのある人が、地域の中で自立した日常生活を営めるよう支援を行う地域生活定着支援センターが神奈川県に設置されて13年目になります。
法務省の統計によると、新規受刑者数のうち、精神障害や知的障害のある人の割合が増しており、福祉的な支援ニーズがある受刑者(入所者)も増えていると言われています。刑法改正との関連で、受刑者の社会復帰が進められており、今後は刑務所内での社会福祉士の配置もさらに進められています。
今回は、定着センターを利用して地域で暮らしているご本人に、今の暮らしや定着センターをはじめとする支援者との関わりなどをお話いただきました。また、センター長の山下康さんへの取材から社会の狭間について考えていきます。
地域生活定着支援センターでの支援
刑務所や少年院などの矯正施設には、高齢者や障がいのある人も入所しています。神奈川県地域生活定着支援センター(以下、定着センター)では、矯正施設を出所予定で福祉的な支援を必要とする高齢者や障がい者を福祉サービスにつなげ、地域で自立した生活を送れるよう支援を行っています。
その役割は様々で、矯正施設出所後の居住地や福祉サービス等の確保・調整などを行う「コーディネート業務」や出所後の地域生活を支える「フォローアップ業務」、逮捕・裁判中の段階にある人を釈放後直ちに福祉サービスなどへつなげる「被疑者等支援業務」、本人・家族や関係者等からの「相談支援業務」、司法と福祉の連携をすすめるための「普及啓発活動」などがあります。
定着センター長の山下さんが支援したSさん(40代)は過去7回、再犯を繰り返してきた過去があります。5年前にセンターの支援対象となり、現在はグループホームと地域作業所を利用して暮らしています。
グループホーム入居当初は、体調が悪く、精神症状が重く出ている期間があり、病院への入退院が続いたそうです。今も症状はあるものの、現在は安定した生活を送っています。

定着センターの山下康さん
司法と福祉の連携における課題
一方で、定着センターで関わる対象者への支援の課題があります。出所後の生活環境を整える際に、グループホームなどの福祉サービス利用に当たり、見学や宿泊体験があるとスムーズですが、刑務所等からの外出が認められたことはなく、出所後すぐに福祉へつなげることを難しくしていると言います。
また、帰住先の資源が少ないことも挙げられました。定着センターが関わり、生活する場所を探しますが、グループホームのような福祉サービスはすでに定員が埋まっていたり、罪を犯した事実から、受け入れをためらわれる現実もあるそうです。
こうした課題に、定着センターでは、他の資源を活用しているそうです。例えば、出所後すぐに福祉サービスへつなげることが難しい場合には、更生保護施設や無料低額宿泊施設などで生活基盤を整えます。住民票の取得や生活保護の申請、医療機関への受診、年金等の各種手続き等、本人が地域で生活していく上での基盤を整えてから必要な福祉サービスにつなげていると言います。また、他には、簡易宿泊所の活用や罪を犯した障害者を受け入れるグループホームを活用しています。簡易宿泊所によっては、帳場さんと呼ばれる管理人が、困りごとの相談から金銭管理、服薬管理等を支援する宿泊所があるそうです。
刑務所における福祉的支援が必要な人の実態と今後の展望
法務省の矯正統計年報によると、刑務所入所者における障害者の割合が増えていることが分かります(下グラフ参照)。山下さんは「定着センターだけで関わるには限界があります。しかし、刑法改正との関連で、刑務所内の社会福祉士の配置が今後さらに進められる他、障害や高齢化、少年の特性や女性のリハビリに特化した特色のある刑務所が作られています。こうした動きもあって、福祉的な支援が必要な人への支援の関心が高まっています」と言います。
罪を犯した人には、立ち直るきっかけが必要です。また、本人に障害等がある場合、地域で安定した生活を送るためには、福祉サービスの利用が欠かせません。福祉関係者が本来の役割や業務の幅を広げることにより福祉と司法の連携が進み、誰一人取り残さない地域共生社会の実現に近づくことが期待されています。(企画課)

新受刑者の人員のうち知的障害、精神障害がある人の割合(法務省「矯正統計年報」を基に本会作成)
定着センターを利用したSさんに今の暮らしや今後の希望についてお話を伺いました
今の暮らしについて
― 今の生活で楽しいことは何ですか?
休みの日は散歩をしています。別に散歩は好きではないけど、駅の周りとか。同じ障害のある友人がいて、その人が教えてくれたりするから、楽しいですね。
自分と同じ経験じゃないけど、友人は逮捕されたことがある人だから、自分の状況を分かってくれる。自分の今の気持ちも分かってくれるから良いんです。心強いです。
―グループホームでの暮らしは?
一緒に暮らしているメンバーと知り合って、自分のことを分かってくれていることは、過ごしやすいです。
― 支援を受ける前、そうした友人はいましたか?
いたはいたけど、悪い友達がいて。それで悪い方にいってしまって。地元ではだめだと思ったから、こっちの方に出てきて、こっちの方でがんばろうかなと思って。
支援者の存在
― 刑務所から出たとき、どんな支援を受けましたか?
刑務所に入ったときには、暴れたり、ケンカとかしていたけど、山下さんと会ううちに、この人なら安心できるな、がんばらないといけないよなと思って、がんばって、問題を起こさずに(刑務所を)出ようと思って。
― がんばろうと思えたのはどうしてですか?
また地元に戻って、悪い友達と一緒だと、だめだなと思ってるから。今回のように事件を起こしたくないなと思っているから、がんばらないといけないなと思って。山下さんとの出会いが人生を変えてくれたなと思って。
― 作業所やグループホームの職員の皆さんはどんな存在ですか?
良い存在です。どうしたの?って聞いてくれて、こういうことだよって言うと、気にしなくて良いよとか。
これからの希望
―これからの夢や希望は何ですか?
一人暮らしできるようになりたいと思っています。