【第1回】更生保護と福祉の連携を、一人ひとりの生き方に寄り添って
更生施設甲突寮・更生保護施設横浜力行舎の実践 施設長 中村和之
- 分野 その他の活動分野 /
- エリア横浜市磯子区 /
- 推進主体 その他の活動主体 /

生活課題に対応する制度やサービスが広がる中で、一人ひとりのニーズに対応ができない狭間の課題が生まれる状況があります。今号からの新たな連載「ハザマの福祉課題」では、法制度や支援の狭間となっている福祉課題と、それに向き合う実践活動を取り上げます。
今回は、生活困窮者支援や更生保護活動を行う更生施設甲突寮と更生保護施設横浜力行舎の施設長の中村和之さんにお話を伺いました。
- 事例は一部加工しています
社会福祉法人幼年保護会にて更生施設甲突寮(以下、甲突寮)を、更生保護法人横浜力行舎にて更生保護施設横浜力行舎(以下、力行舎)を運営しています。両法人は姉妹法人で、両施設は同一敷地内にて隣接しており、利用者同士の交流を図りながら支援が行われています。
両法人は、有馬四郎助氏による小田原市内での更生保護活動(明治39年)が始まりです。力行舎の前身に当たる更生保護施設は明治43年に設立され、そのアフターケア施設として、昭和39年に甲突寮が設立されました。設立当初から、更生保護と福祉との連携が長く行われています。
甲突寮、横浜力行舎の特徴
甲突寮は、生活保護法に基づいた更生施設で、身体障害や精神障害、依存症等を背景に、生活上の不安がある人が利用する入所施設です(定員50名・男性のみ)。それぞれにあった生活訓練や毎月のレクリエーションが行われる他、利用者の方によっては、依存症回復のための当事者会活動への参加がプログラムになっています。
力行舎は、刑務所を出所した人が、地域での自立生活を目指して利用する法務省管轄の施設です(定員19名・男性のみ)。入所期間は6カ月と定められ、自立に向けた生活訓練や就労支援を行う施設となります。
刑務所出所後に帰住先がなく、支援が必要な障害のある人や高齢者を受け入れている力行舎は、全国からの利用があります。入所期間の定めがありますが、その期間を超えて支援が必要な場合、甲突寮を利用して福祉的支援を行うケースがあるそうです。
中村さんは「昨今、刑務所出所者に対する司法と福祉の連携が注目されていますが、私たちが長く取り組んできた実践に、時代が追いついた感じがします。生活に困窮したり犯罪につながってしまうご本人の背景を理解し、『地域で生活することの困難さ』に着目し、福祉や医療との連携がますます重要になっています」と言います。
個別支援での課題
甲突寮では、個別支援計画に基づいた支援を行います。退所後に向けた就労支援と併せて、福祉サービスの利用につなげる支援が多くなっているそうです。支援の中で、療育手帳の取得を試みますが、その人の過去の経緯をたどることが難しく、取得に至らない状況もあります。
力行舎は75歳を超える人が利用するなど、高齢者への支援が求められることが出てきています。しかし、介護職員が配置されているわけではなく日常生活上の支援が難しくなっています。また、福祉サービスの利用調整を職員が担うことになります。
中村さんは「家族の支援が得られにくいため、健康保険証の発行や年金給付の確認など、職員には福祉制度や医療制度の知識が多く求められます」と言います。
力行舎での支援上の課題で特徴的なものとして、刑務所出所後の医療受診の継続が挙げられます。出所時に処方される薬は数日から1週間分。精神疾患がある場合、服薬が途切れることで生活面への影響がありますが、職権で住民票が削除されているため保険証がすぐに入手することができないことや、新たに精神科病院を探したりと、課題は山積します。
退所後に向けて、入所の時と同じ病院に通院できるよう、病院の近くの住まいを探すなど、ご本人の状況に合わせた支援を行うことにより、その後の生活の安心感につながっています。
法人としては「地域とのつながり、本人の居場所となる場を確保する」ため、令和2年度から障害者グループホームを運営するなど、活動を広げています。

施設長の中村さん。保護司でもあり、地域への橋渡し役として、地区保護司会のHPを担当し、更生保護の理解啓発にも尽力している
支援の狭間とは何か
中村さんは「長年支援を続けてきた中で、本人に必要な福祉や医療的な支援が要件に当てはまらず利用できない時だけでなく、本人が置かれた状況によって、制度につながらない場合も支援の狭間の課題として存在するのではないか」と言います。
「生活を支える制度は多岐に渡り、市民はどのような支援があるか分かりません。また、知的障害や精神障害などがあり、ご自身が行政などの相談機関に出向き、適切にニーズを伝えることは難しく、制度利用につながらない方が大勢います。
また、甲突寮のAさんと力行舎のBさんは、過去に同じ刑務所に入っていました。お互い刑務所を出所し年が経ち、施設で偶然の再会となりました。Aさんは出所後から福祉や医療とつながり、精神科病院から地域移行を目指して甲突寮に入所してきました。Bさんにも精神疾患がありましたが、出所後から支援を受けることなく、お金や住まいがなくなると、無銭飲食やお店の軒下で夜を過ごすなど、再犯となり、力行舎に入所してきました。
出所後の環境が違えば、送る人生が変わる、というのを改めて教えられた事例です。Bさんは世間や社会を信じきれなくなっていました。支援を通じて、失敗しても受け止める支援があることを体感してもらい、Bさんがもう一度、社会を信じ、これからの人生を送るための土台ができたらと思っています」と中村さんは語ります。

毎月行われるレクリエーション(夏祭り)の様子
本会が毎年行う政策提言に向けた課題把握調査では、出所者支援における更生保護(司法)と福祉が連携した事例を積み上げる必要性が挙げられています。そこからは、社会的孤立の状態が、生活困窮や犯罪へとつながっている状況がうかがえます。制度や支援の狭間に対してご本人の状況に応じて、どのような支援を活用できるのか、柔軟な運用ができるのか、ご本人が住みやすい地域で、司法・福祉・医療などによる連携が広がることが期待されています。(企画課)