失敗してもチャンスは平等に
株式会社静科(厚木市)
- 分野 社会貢献 /
- エリア厚木市 /
- 推進主体 民間企業 /
毎年7月は「社会を明るくする運動」の強調月間・再犯防止啓発月間です。就労の有無によって再犯率が変わると言われており、再犯防止に就労の確保は欠かせないものとなっています。更生保護には、犯罪や非行をした人を雇用し、立ち直りを支える「協力雇用主制度」があります。
今回は、協力雇用主で保護司の(株)静科 代表取締役の高橋俊二さんに、職場での受け入れ、再出発を支える取り組みを伺いました。
協力雇用主になったきっかけを教えてください
当社は工場、住宅・オフィス等での騒音による健康被害を「音害」という言葉で定義し、音害対策となる防音材・吸音材の開発・製造・販売・施行する会社です。社会貢献として、先代である父は植林活動等を行い、私の代では経験してきたバレーボールの振興に貢献しようと、プロチームのスポンサーを経て、今では当社でプロチームをつくり地元に貢献できるよう奔走しています。社会貢献が当たり前に根付いているのは「静かさを科学する力で、世のため、人のために尽くす」という企業理念を持っているからです。
人手不足が続く中で、「協力雇用主制度」を知り、制度を学ぶうちに少年院等にいた少年たちの多くが幼少期から虐待を体験していたことや、地域や社会での居場所の有無によって、再犯率に影響が出ることを知りました。少年たちが親と違う大人と関わることの重要さ、大切さを実感し、会社として社会に戻るきっかけを作ることが、企業の社会的責任とも重なって、協力雇用主として受け入れることを決意しました。
7年程前から、(N)神奈川県就労支援事業者機構を通じて3名の少年を雇いました。
少年たちとの関わりで大切にしていることは何でしょうか
少年たちは、生きていくことに自信を持てずにいて、素直で気弱なところがあります。また、社会への復帰を目指していても、古くからの友人に悪いことを誘われたら断れず、これまでの人間関係を断つことの難しさも抱えています。
そうした状況を理解しながら、職場として「特別扱い」しないこと、他の職員と同様に目標を持ち、達成できなかった場合には振り返りを行うこと、仕事で周りに迷惑をかけた場合は、自分から謝ること等、仕事をする上での「当たり前」をしっかりと伝えています。同じ職場で働く仲間として向き合うことで、ここを退職した後、他の会社で上手くいかず悔しい思いをしても、自分で乗り越える力をつけてあげたいと思っています。
ある少年が年賀状で「静科で働けたことが自分にとって大きな転機でした」と報告してくれた時は、本当に嬉しかったです。社会に戻る手助けをした後、彼らが希望を持って人生を歩いていることを実感しました。
更生保護を社会に広げるために必要なことを教えてください
私は協力雇用主だけでなく、保護司としても更生保護に関わっています。こうした活動を通して感じるのは、「関わる人の存在」が重要だということ。実際に就職できる場はまだまだ少なく、特に中高年の対象者の受入先は限られています。制度があっても、企業や地域の理解がなければ、更生の道は閉ざされてしまいます。再スタートを切ろうとする人たちにチャンスが平等にあり、「居場所」と「出番」を地域社会の中で広げていく必要があります。
社会での再出発を支える更生保護は、決して特別な世界ではありません。安心・安全な地域づくりに、私たち一人ひとりが関わる機会を持つことで、立ち直ろうとする人の未来が変わることを、より多くの人に知ってもらいたいと考えています。
「その人の転機となれるよう、本気で向き合いたい」と語る高橋俊二さん