子どもたちを支える食支援と地域づくり
フリースペースたまりば 事務局長 鈴木晶子
- 分野 こども / 地域 /
- エリア川崎市 /
- 推進主体 民間団体(NPO等) /
協働事業開始の背景と課題意識
フリースペースたまりばは、今から35年前の平成3年から、学校に行っていない子どもたちや、地域に居場所を見出せない若者やその保護者と居場所づくりに取り組んできました。コロナ禍では、コミュニティスペースえんくるの運営をはじめ、地域に根ざした子どもの居場所づくりと食支援の実践を重ねてきました。徐々にフードパントリーの利用希望や市外からの問い合わせが増加している状況に直面し、身近な地域においてSOSを受け止める資源が不足している、あるいは必要な支援が当事者に十分に周知されていない現状を感じてきました。
同時に、現場に寄せられる生活困窮や孤立、家庭内ケアといった相談内容の深刻さが増すにつれ、民間主体のボランティア活動だけでこれらの重層的な福祉課題を背負いきることへの限界と、もどかしさを強く抱くようになりました。
国や自治体の制度による相談窓口にはハードルの高さを感じる当事者も、食支援の場であれば重要な接点を作ることができると考えています。しかし、「こども食堂」等への社会的な期待が過度に高まる一方で、深刻な生活課題を民間の自主活動のみに委ねる重さを再考し、担い手の疲弊を防ぐためには、官民連携の強化と地域福祉の新たなモデル構築が不可欠です。こうした強い課題意識に基づき、令和5年度から3年間にわたる県社協との協働事業がスタートしました。 事業の中では、ケアラー支援専門員設置事業に取り組んできた県社協の問題意識も共有しながら、次のような調査を進めていきました。
3年間の歩みと調査分析がもたらした示唆
本事業では、実際に食支援を運営しながら感じる課題意識や成果の言語化と、調査研究の両者を循環しながら段階的に地域の支援の在り方を模索してきました。
初年度は、県内で食支援を行う団体・個人を対象としたWeb調査を実施し、県内の概況を把握しました。特に興味深かったのは、子どものSOSをキャッチしている要因を検証した結果、専門性の有無よりも、食支援を行う場の開催頻度の高さが影響を与えていることが明らかになりました。開催頻度が高いというのは、言ってみれば、それだけ子どもに身近な存在であるということです。子どものSOSの把握は「専門性より関係性」であり〝いかに身近で信頼できる大人になれるかが鍵である〟という子ども・若者支援の現場で言われてきたことを、客観的なデータとして確認することができました。
2年目は、支援の現場に寄せられる困りごとと、それを支える地域の関連に焦点を当て、県内外の先進事例へのインタビュー調査を行いました。その中で食支援の多様性や福祉的ニーズを抱える子どもたちを支える場をどう広げていくかが徐々に見えてきました。子どもたちは、自らSOSを明確な形で発することが難しいという特徴があります。しかし、日常的な食支援の場につながり続け、繰り返し通うプロセスの中で信頼関係が構築され、困りごとが出せるようになります。また、調査を通じて、間口の広い食支援の場だからこそヤングケアラーの最初の発見の場になり得ることも見えてきました。
そこで、ようやく表に掲げた「食支援」という看板ではなく、私たちが今回の調査で「裏メニュー」と呼んだ個別相談支援へとつなげることができます。しかし、ヤングケアラー支援の困難に象徴されるように、地域の住民の活動たる食支援が相談支援の入口として機能するためには、社協、中間支援団体、そして何より行政がしっかり複合的な困難に対応できる体制を作っていることが重要であることも明らかになりました。


(写真)食支援の一環として、地域の若者と一緒に取り組むテイクアウトのお弁当づくり
3年目の集大成地域へ広げるツールと提言の創出
最終年度は、これまでの調査で得られた知見を具体的な実践に還元し、広く社会へ展開するための2つの成果物を形にしました。
第一に、食支援実施団体向けの『食支援ハンドブック』の作成です。子どもの権利を真ん中に据え、現場で直面しがちな「じっと座っていられない子への対応」や「困った親御さんへの対応」など、具体的な場面での考え方を提示しています。また「ヤングケアラーと出会ったときのコツ」では、福祉制度は対象別に分かれがちですが、誰のケアをしているかに着目し、各領域ごとの総合・包括相談窓口へとつなぐ視点を盛り込みました。食支援を行う住民・団体向けには「支援する・される」の二分法ではなく、対等な関係性のもとで「自分たちらしい場所」を住民が主体的に、かつ自団体のみで抱え込まずに運営するための道しるべとなるよう編纂しています。

『食支援ハンドブック』
第二に、行政や社協、中間支援団体に向けた『福祉的ニーズを持つ子どもたちを支える地域づくりのための提言書』の策定です。全国規模の中間支援団体へのヒアリングを重ねてまとめた本提言では、次の5つの柱を挙げました。
❶ 生活保障の公的責任の明確化
食支援は住民の自発的なコミュニティ資源であり、生活保障の責任は行政が担い続けるべきであるという確認
❷ 住民の主体性・自治性を生かす応援
一律の管理ではなく、団体の多様性に応じた多層的な支援
❸ 中核団体・中間支援団体の基盤強化
地域の中核を担う中間支援団体への機能的なバックアップ
❹ 包括的支援体制の整備
住民が発見した困難を、縦割りの制度を越えて包括的な相談窓口へスムーズにつなぐ仕組みの構築
❺ 「信頼できる関係」づくり
顔の見える関係を越えた、制度と民間の確かな協働

『福祉的ニーズを持つ子どもたちを支える地域づくりのための提言書』
どんな子どもも排除しない地域づくり
本協働事業の3年間において、Web調査で60団体、インタビュー調査では全国延べ123名の食支援実施団体、行政、社協、中間支援団体の皆様から切実かつ貴重な声を聴かせていただきました。日々の小さなもやもやから出発した本プロジェクトが、これほど多くの出会いと声に支えられ、ひとつの形に結実したことに深く感謝いたします。
長年議論されてきた「こども食堂は居場所か、支援の場か」という二元論を越え、それぞれの場が持つグラデーションと役割を整理できたことは、これからの地域福祉に資するものがあるのではないかと思っています。民間の自主活動の尊厳を守りつつ官民が真に対等な立場で協働し、ヤングケアラーをはじめとするいかなる困難を抱える子どもも排除されない地域づくりを進めるために、完成したハンドブックと提言書が、ささやかながら確かな理論的根拠・道しるべとなることを願っています。

事務局長の鈴木さん
