メタバースがつなぐ、子どもたちの新たな居場所
県教育委員会・(N)アンガージュマン・よこすか
- 分野 こども /
- エリア横須賀市 /
- 推進主体 民間団体(NPO等) /
県教育委員会では、県内のフリースクール10団体と連携して、インターネット上のメタバース空間を活用した、不登校の子どもたちへの居場所支援を行っています。取組の背景や内容などについて、県教育委員会の担当者にお話を伺いました。
また、空間内のスタッフとして参加されている(N)アンガージュマン・よこすか理事長の島田さんに、支援者の立場からこの取組の意義や可能性についてご寄稿いただきました。
メタバース活用の背景
県教育委員会では毎年、県内の全ての公私立小・中・高等学校を対象に、不登校の状況調査を行っています。一言で不登校といっても、その状況は児童・生徒によってさまざまです。近年の調査では、1日も登校できていない児童・生徒が全体の約3%で推移していることが分かっており、こうした子どもたちに対して、どのような支援ができるかが大きな課題となっていました。
そこで、県教育委員会ではさまざまな議論を重ねる中で、先行自治体の取組事例などを参考にしながら、メタバースの活用に注目したといいます。
本取組は、学校へ行けないなど、家から出ることが難しい県内在住の児童・生徒を対象に、令和6年度から開始されています。令和7年度は、5月26日から令和8年2月末まで開設され、1日あたり10人ほどに利用されているそうです。
空間内での過ごし方
メタバース空間の利用は無料で、インターネット環境と、県教育委員会から発行されたログイン情報があればアクセスすることができます。
メタバースとはインターネット上につくられた仮想空間で、子どもたちは自分の分身となるアバターを使い、教室やボードゲームスペース、談話スペースなど、それぞれの場所で思い思いに過ごすことができます。
空間内には、県内フリースクール等の支援員がスタッフとして2名以上常駐しており、参加する子どもの困りごとにすぐに対応できる体制が整っています。子どもたちは、オンライン教材を使った学習や利用者同士の交流、スタッフとの雑談・相談など、自分のペースや関心に合わせて過ごし方を自由に選ぶことができます。自宅にいながら参加できる気軽さも、メタバースならではです。

メタバース空間のイメージ。実際は、本名を使わずニックネームで参加でき、子どもの個人情報に配慮した環境が整えられている
交流の方法も、端末のカメラやマイクを使って顔や声を出す方法のほか、チャット(文字)のみでのやり取りなど、子ども自身が選択できます。そのため、人と話すことに不安を感じる子どもも、無理のない範囲で交流できる環境となっています。

アバターの着せ替えを楽しむこともできる
取組を支える連携と経験
なかなか家から出ることが難しい子どもにとっては、社会とのつながりを実感してもらうために、人と触れ合う経験そのものが重要です。そのため、本取組の目的は、子どもの学校復帰へ直接つなげるというよりも、子どもたちの「人に会いたい」「誰かと関わってみたい」という気持ちを少しずつ耕し、人と関わるきっかけをつくることにあるといいます。
利用した子どもの保護者や関係団体からは「普段は布団から出てこない子どもが、決まった時間にメタバースにログインするために、生活のルーティンができた」「スタッフと趣味の話を重ねる中で信頼関係が生まれ、実際に支援員に会いに行った」などの声も届いているそうです。
こうした支援が実現している背景には、県教育委員会と県内フリースクール等が長年にわたり築いてきた信頼関係があります。県教育委員会では、平成18年に「神奈川県学校・フリースクール等連携協議会」を設置し、学校やフリースクール等、教育委員会等が参画し、約20年にわたり〝顔の見える関係性〟が育まれてきたといいます。
また、フリースクール等の支援員が現場で培ってきた子どもたちへの多様な支援のノウハウが、メタバースという新たな環境においても発揮され、子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりを支えています。

本取組に携わっている県内フリースクール団体10団体。ローテーションを組んで、メタバース空間での支援を行っている
メタバース支援のこれから
本取組は、対象となる子どもたちが在籍する学校やフリースクール等などを通じて個別に案内するほか、県教育委員会が開催する不登校相談会や進路情報説明会などの場を中心に周知を行っています。県教育委員会の担当者は「メタバース空間が、誰もが安心して過ごせる居場所であり続けるため、周知の方法にも配慮しながら、必要としている子どもや保護者に、今後も情報を届けていきたい」と語りました。
今後の展望として、メタバースでの関わりをきっかけに、教育支援センターやフリースクール等の居場所へとつなげていくことも期待されています。メタバースは支援のゴールではなく、子どもたちが再び社会と関わるための一つの入り口として、その可能性が広がっています。(企画課)
メタバース居場所づくりの現場からー支援団体による実践と今後の展望
(N)アンガージュマン・よこすか 理事長 島田 徳隆
フリースクール等に通うことの難しい不登校の子どもたちや家族にどのような支援ができるのか、常に頭を悩ませてきました。県教育委員会から令和6年度にメタバースの居場所づくりを提案され、「神奈川県学校・フリースクール等連携協議会」加盟団体のうち9団体が参加しました。2年目となる令和7年度は10団体に拡大し、曜日ごとに持ち回りで担当して毎月ケース会議を行いながら丁寧な支援を行っています。今年度はメタバース内で不登校相談会も開催し、保護者や関係者への支援も開始しました。
このメタバース支援には複数の利点があります。まず、自宅からなかなか外出できない子どもたちや、相談機関に足を運ぶことに心理的ハードルを感じる保護者にとって参加しやすい環境です。匿名性による自己開示のしやすさ、県内どの地域からでも参加できること、県教育委員会がアカウントを発行する安全性、多様なフリースクール等の支援員が複数名常駐していることも挙げられます。また、実際に居場所支援を行っている団体が担当しているため、対面でのコミュニケーションへの接続も可能です。
一方で課題もあります。対面支援への移行における関係づくりの難しさ、インターネットアクセスやコンピュータスキルの格差などです。対面支援への移行を見据えた制度設計や、多様な選択肢の一つとしての位置づけが求められます。 今後は学校や教育支援センター、地域の支援ネットワークとの連携も視野に入れる必要があるでしょう。不登校支援だけでなく、ひきこもりの方や家族への支援、校内教育支援センターでの活用など、多様な実践への発展可能性も期待されます。メタバースによる居場所づくり支援はデジタル技術を活用した新たな支援形態として、包括的な支援体制の一翼を担うことができるのではないでしょうか。
