「ないなら、つくる。」18歳の先に、居場所を。
(公社)アマヤドリ 代表理事 菊池操
- 分野 こども / 地域 /
- エリア三浦市 /
- 推進主体 民間団体(NPO等) / ボランティア /
- キーワード居場所づくり /
始まりは、一通のメッセージでした。
高校の保健室で養護教諭をしていた、コロナ禍のある日。
かつての卒業生をはじめ、多くの若者から次々とSOSが届きました。
「家を追い出された」「殴られて、逃げてきた」「性的虐待を受けていて、家を出たい」
一緒に相談先を探しました。
でも、どこもありませんでした。
理由はただひとつ―18歳を超えた「成人」だったから。
法律上「成人」になると、保護先も相談先もなくなります。しかし実質、まだ「大人」とは言い切れない、自立の準備段階にある若者がほとんど。
虐待、ネグレクトなどで家族を頼れない方たちにとって、18歳はまるで崖のような境界線となっています。
児童相談所は18歳未満が対象。
DVシェルターは携帯使用も外出もできない。男性は利用できない。
生活保護は、昼間に大学に通う学生は使えない。
「SOSがあるのに、支援制度がない」。
保健室の先生だったから見えたこの現実が、私を突き動かしました。
選択肢も依存先も、複数ある方がいい。
それなのに、ない。
「ないなら、つくるしかない。」
2020年12月、公益社団法人アマヤドリは神奈川県三浦半島エリアで産声をあげました。
名前の由来は、ミッションそのものです。
「人生の雨に、アマヤドリを。」
雨が降るように、人生にはつらいことが起きます。
そんなとき、一時、雨をしのぐ場所と、共にいてくれる人がいる。
空模様は選べなくても、生き方は自分で選んでいける。そう信じて。
若者の住まいとなる物件の確保には、本当に苦労しました。
「家族を頼ることができない若者のためのシェアハウスを借りたい」と相談すると、多くの大家さんに断られ続けました。
それでも、心ある大家さんとのご縁に恵まれました。事情をしっかり話すと、理解してくださり、5年以上経った今も、あたたかく見守ってくださっています。
大家さんのご理解と応援にどれほど力をいただいたか計り知れません。
活動の土台は、制度よりも先に、人の温かさとご縁で支えられてきました。
単身の女性専用のサポート付きシェアハウス
現在「アマヤドリのおうち」は横須賀市内に2軒あります。定員はそれぞれ3名、合計6名の方を保護できます。
概ね3カ月まで利用でき、その後、希望があればさらに1年利用可能です。(学生の方は卒業まで利用可)
初期費用も保証人も不要で、家具・家電・食料もそろえています。設立から今日まで、のべ40名以上がここから次の一歩を踏み出していきました。今年の夏頃には、男性向けのサポート付きシェアハウスも新たにオープン予定です。
当団体の住居はあくまでも選択肢の一つです。神奈川県認定の居住支援法人として、複数の選択肢を提示し、住まいを失うリスクのある若者の支援にも取り組んでいます。
日中の通所施設
昨年9月には神奈川県の委託事業として、15歳から29歳の女性が通える日中の居場所「アマヤドリスタジオ」も始まりました。(週4日開所)
相談・同行サポート
相談は、メール・オンライン・対面で受け付けており、これまでのべ1万件以上に対応してきました。役所や病院、学校への同行支援も行っています。SNSの発信をきっかけに連絡をくれる子もいれば、学校・行政・医療機関からつないでいただく場合もあります。どんな入口であっても、まずは「話しかけてもらえる関係」をつくることから始まります。「あなたのことは分かっている」とこちらが決めつけた瞬間に、伴走は終わってしまいます。だから「聴くことがすべての出発点」だと私たちは考えています。
大切にしていることがあります。「魔法はない」ということです。
長年背負ってきた痛みや苦しみから一瞬で解放される奇跡はそうそうありません。
しかし、ささやかな選択を積み重ねることで、螺旋階段を登るように、いつの間にか見える世界が変わっていきます。
今日の食べるものを自分で選ぶこと。今日着たい服を自分で選ぶこと。「ここにいたい」と声に出してみること。「明日、また来ます」とつぶやくこと。そのひとつひとつが、自分の人生を自分で選んでいく力になります。私たちはその積み重ねのそばにいたいと思っています。
連携先は、行政や福祉機関にとどまりません。
医療・法律・就労・住居と、その方の状況に合わせてつながれる先を一緒に探しています。
なかでも大切にしているのは、「この方のことを一緒に考えてくれる人を増やすこと」です。「依存してはいけない」の逆で、むしろ依存先を複数もつことを目指しています。複数の人や機関と信頼を築いていくこと。それ自体が、支援だと思っています。
制度の面では、18歳という年齢の壁が今も大きな課題です。
10代後半から20代前半は、自立に向けての大切な準備期間。
その時期に安心できる環境がなければ、20代後半、30代になってもその影響は続いていきます。
問いを変えることが大切だと思っています。
「なぜこうなってしまったのか」だけでなく、「何があればよかったのか」。
必要なものがまだないなら、一緒につくればいい。制度でも、場所でも、文化でも。
今後はキッチンカーで学校を回り出来立ての食事を提供する事業や、産前産後の居場所や、若者が主体となって運営するユースセンターなど、さらに多様な場をつくっていきたいと考えています。
ないものはつくって、あるものは協力して活用して、仲間を増やして、タスキをつないでいく。アマヤドリした時間が、いつか希望になるように。希望の循環を、社会全体へ広げていきます。
