テキストデータ作成に当たって  このデータは、『福祉タイムズ』 vol.856 2023年3月号(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。  二重山カッコは作成者注記です。 P1 福祉タイムズふくしTIMES 2023.3 vol.856 編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 特集…P2~3実践と研修の循環によるかながわの福祉サービスの質の向上を目指して NEWS&TOPICS…P4 介護人材の確保・定着に向けて 平塚市介護保険課 …P5 困難に直面する若者たちのチャレンジを後押し! 県生活援護課 県社協のひろば……P10 苦情を前向きに捉えるために―かながわ福祉サービス運営適正化委員会の取り組み →今月の表紙 技術屋人生を社会に還元 モノ作り大好き人間、オリジナル福祉用具開発 工房SERA 稲住義憲さん【詳しくは12面へ】 撮影:菊地信夫 P2 特集 実践と研修の循環によるかながわの福祉サービスの質の向上を目指して  この3年間、福祉現場では感染症予防対策をしながらも、利用者の支援を止めないとして活動を続け、社会福祉事業従事者(以下、福祉従事者)の存在が必要不可欠であることが再確認されました。また改めて、利用者一人ひとりに対応した支援をしていくため、福祉従事者は資質の向上に努め、サービスの質を担保することが大切であり、福祉施設・事業所は人材育成体制を常に見直し、研修を有効活用していくことが求められています。  ここでは、リーダー層を対象とした本会福祉研修センター(以下、研修センター)の研修の実施状況から、福祉従事者が「実践と研修の循環」を継続していくことの必要性について考えます。 専門性・組織のあり方の両側面から支援する  福祉従事者は「利用者の豊かな生活の実現」に向けて、利用者を主体とした質の高いサービス提供が求められています。  研修センターでは、人が人を支援する福祉現場の人材育成を、福祉従事者の専門性と組織のあり方の両側面から支援しています。それは、一人ひとりの福祉従事者の専門性の向上と同時に、それを支える組織の人材育成の仕組みづくりが充実することで、福祉サービスの質の向上につながると考えるからです。  ここでは位置付けが異なる二つの研修を通してまとめてみたいと考えます。 専門性を高めることを目指す  「サービス提供責任者現任者研修」は、介護保険利用者の在宅生活をサポートする訪問介護事業の要であるサービス提供責任者(以下、責任者)が、同じ業務につく仲間(以下、仲間)との交流と学びあいを通じて、責任者としての役割をあらためて確認し、専門性を高めていくことを目指す研修です。  責任者の業務は、介護保険法に基づく運営基準により、利用者の相談に応じ、訪問介護計画書(以下、計画書)の作成、訪問介護員への指示及び研修、介護支援専門員との連携等が定められており、多岐にわたります。本研修では、こうした責任者としての日頃の取り組みを実践活動として持ち寄り、お互いの課題に共感しながら学びあう場をつくっています。 課題を共有し、振り返ることで自分の立ち位置を見直す  責任者から語られる実践場面での課題は、利用者主体の計画書、介護支援専門員との連携、訪問介護員への指導・育成の難しさなど、求められている業務全般に及んでいることが分かります。また孤独感を覚えるなど、日常業務のさまざまな場面で相談する相手がいない状況もうかがえます。  研修では、他事業所からの実践報告や、自分の計画書を仲間の力を借りて見直す演習を通じて、受講者からは「仲間と同じ悩み、思いが分かり、私自身ほっとした」「他者の意見を聞いて解決の糸口を見つけることができた」といった意見のほか、「自分で考えていた計画書の目標は利用者目線ではなかった」「自分の考え方で良かった」等の感想がありました。一人では気付かなかった考え・視点の新たな発見や、同じ視点でよかったという安堵感も生まれる状況も分かりました。  このように、仲間と共に実践を検討することで新たな気付きが促され、振り返ることで自分の立ち位置をあらためて見直すことが出来ます。 専門性を養い、現場実践へつなげる  研修終了後の受講者アンケートからは「事業所で管理者に話し、計画書を根本的に作り直そうということになった」「普段みんなで検討する機会がないが、研修を通して視野が広がり、柔軟に考えられるようになった」との声がありました。  研修という場で個々が日頃の悩みを共有し、支援の視点を持ち寄り表出することで、自分の物差しだけで見るのではなく、多面的な視点を養うことになり、専門職として現場で何ができるのか、どう実践につなげていけるのか、受講者自身が考え、目標づくりを行う機会となっています。 〈写真〉 個々の視点を可視化する場面。表出することで俯瞰して捉え、整理する 〈写真終わり〉 P3 職員を支える仕組みづくり  福祉施設・事業所では利用者の豊かな生活の実現に向けて、より良いサービスを提供できるよう人材育成の仕組みを整えることが求められています。  スーパーバイザー研修では、スーパービジョン(以下、SV)を活用し、日常業務の様々な場面に取り入れ組織理念を実践する職員を育てるとともに、働きやすい職場づくりをめざしています。研修ではSVの理論を実践的に学び、自分の職場で活用することを目的に実施しており、その工夫の一つとして、研修修了者による実践事例報告をプログラムに位置づけています。  今回は、(株)あうんの実践事例について紹介します。 研修の学びを職場で実践する~実践事例報告から~  スーパーバイザー研修の修了者である福岡さんは、一緒に働く職員のことを知るため、最初は面談の場面にSVを活用しました。研修を受講して感じたことは、スーパーバイザーとしての姿勢や態度を意識して職員と接することだといいます。相手の話を聴く態度と姿勢、そして共感することを意識して面談することで相手から話をしてもらい、職員自らが解決に辿り着けるよう話を聞いています。  また面談に限らず普段の仕事ぶりにも着目し、気になる様子だけでなく、良い働きをしたときにも声をかけ、褒めることでスーパーバイザーとして日頃から〝あなたの仕事を見ている〟という雰囲気を醸し出せるようにしています。  こうして接することにより、相手は話しやすい雰囲気を感じ、日頃の仕事で感じていることや思いを語るとともに、次はどのようにしていきたいかなど、前向きな考えや発言が聞かれるようになったそうです。  現在は自身の部門から事業所全体の人材育成の仕組みづくりにつなげています。副所長として他部門の職員面談や会議に参加し、前述のかかわりを続けています。職員からは相談ごとだけでなく利用者支援で嬉しかったことの報告が聞かれるようになり、互いの仕事を尊重し合える関係性がつくられる等、SVを取り入れたことで職場に好循環がうまれています。 〈写真〉 (株)あうん副所長の福岡さん 〈写真終わり〉  福岡さん自身の環境にも変化がありました。最初はSVとしての取り組みが職場に浸透しておらず周囲からの抵抗もあり、コミュニケーションを取ることが難しかったそうですが、諦めずに続けることで、どの職員とも話しやすく福岡さん自身も孤立することのない安心した環境におかれるようになったといいます。 福祉現場の声や実践課題を今後の研修につなげる  スーパーバイザー研修を受講する方の多くは「働きやすい環境をつくりたい」「職員の育成方法を学びたい」等を受講動機として挙げています。実践事例報告の後は「自分よりも年上・業務経験の長い人に対する接し方」や「組織から期待される成長に対する意識が薄い人への対応方法」といった質問があげられました。  さまざまな経歴をもつ人材が福祉現場で働いている状況で、職員一人ひとりにあわせた対応の工夫や支える仕組みが求められています。 「研修と実践の循環」で質の向上を目指す、かながわの福祉  これらの研修から見えてくるように、福祉従事者同士が集い、専門職としての視点や実践を振り返ることで、新たな発見、気付きが生まれてきます。さらに、その学びが各職場で実践として活かされることが大切となります。  利用者の生命や生活を支える実践は日々止まることなく続き、そして福祉従事者、職場の数だけあり、そこでは新たな課題も見えてきます。  課題の解決方法の一つに研修があり、その研修で得た学びを次の実践に活かす、この繰り返しが研修と実践の「循環」であり、「循環」を重ねることで、福祉従事者ひとり一人の専門性の向上や研修の学びを実践に生かせる組織づくりにつながるのではないでしょうか。  研修センターは、県域の研修機関として、これからも仲間と共に学び分かち合える場を大切に、かながわの福祉の質の向上につながるよう、社会福祉の〝現場〟とともに取り組みを進めていきます。 (福祉研修センター) 〈囲み〉 令和5年度の研修計画は、令和5年3月中旬以降に案内いたします。 各研修情報はホームページにてご確認ください。 https://www.kfkc.jp/ 〈囲み終わり〉 P4 NEWS&TOPICS 介護人材の確保・定着に向けて―平塚市の取り組み 平塚市介護保険事業計画への位置づけ  高齢者の増加に伴い、介護サービスのニーズが増える一方で、それを担う介護職員の不足が指摘されています。厚生労働省によると、県内で団塊の世代が75歳以上になる令和7年度に約1万6千人、令和22年度には約4万6千人が不足すると推計されています。(厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)  平塚市の人口統計を見ても、全国の傾向と同じです。このような状況を踏まえ、介護を必要とする市民に対して安定した介護サービスを提供できるよう、市では「平塚市高齢者福祉計画(介護保険事業計画)」に、介護人材の確保及びスキルアップについてさまざまな取り組みを位置付けています。 「ピカイチ☆フィルム」の作成  介護人材の確保及びスキルアップの取り組みの中で、重点事業の一つとしているのが、介護のイメージアップです。計画策定時に市民を対象に実施した調査では、介護業界に対する一般的なイメージについて「体力的にきつい」「休暇が取りにくい」といったネガティブな印象が先行していました。一方で、介護業界の職員に行ったアンケートでは「景気等の社会情勢の影響を受けにくく、安定している」「資格取得でステップアップできる」などのアピールポイントが多いことが分かり、イメージと介護現場とのギャップが大きな課題であることが見えてきました。  そこで、市内の介護事業所にご協力いただき、令和3年度から介護のイメージアップ動画「ピカイチ☆フィルム」の作成に取り組んでいます。介護事業所で生き生きと働く「ピカイチ☆職員」にスポットをあて、仕事中の様子だけでなく、趣味や子育てなどプライベートを充実して過ごす様子を紹介することで、介護業界のやりがい、働きやすさなどが伝わるよう力を入れています。動画はYou Tubeで公開するほか、市内の商業施設等で放映することにより、一人でも多くの人の目に留まるようにしています。動画は現在第3弾まで作成しており、今後も更新していく予定です。 〈写真〉 ピカイチ☆フィルム第3弾動画 〈写真終わり〉 若手介護職員の交流の場づくり  介護人材の確保及びスキルアップの取り組みにおいて、もう一つ重点事業にあげているのが、介護職員への定着支援です。厚生労働省の資料では、介護業界における離職者の65%が勤続年数3年未満とのデータがあります。また、介護事業所を対象に行ったアンケートで若い職員(10~20代)がいるかを伺ったところ、施設系サービスでは全てで「いる」と回答があったのに対し、小規模な事業所が多い地域密着型サービス事業所では半数で「いない」と回答がありました。 職員数が少ない事業所ほど、入職後間もない職員にとって仕事について相談できる同世代の相手が限られてしまう可能性があります。  そのため市では、令和4年度から、介護業界への入職5年以内で、かつ39歳以下の若い介護職員を対象に、事業所を超えた交流の場である「わかてカイ」を実施しています。グループワークを通して職場の悩みを共有でき、同じ境遇の仲間からアドバイスをもらえる機会にするとともに、働く上で役立つ知識やスキルを学べる場となるよう工夫をしています。  事業初年度である令和4年度は「働き続けたい職場とは」というテーマでグループワークを行い、自分たちが働く職場を理想の職場にするための解決策について考えていただきました。話し合いの中で気づいた解決策を職場で実践するだけでなく、その解決策を市から事業所へフィードバックすることで、職場環境改善を促す効果をねらっています。  市では、この他にも市内介護事業所での就労を希望する方向けのガイドブック『カイゴしごとガイド』の発行や、介護職員初任者研修の受講費用の補助など、多様な事業を展開しています。介護人材の確保及びスキルアップの取り組みは、継続的に行うことが最も重要であると考えています。今後も、介護の現場、求職者などさまざまな立場の方から情報収集を行い、市として取り組むべきことを検討、実践してまいります。 (平塚市介護保険課) P5 困難に直面する若者たちのチャレンジを後押し!  県では、困難に向き合う子ども・若者を支援する「かながわつばさプロジェクト」を実施しています。  プロジェクトは、生まれ育った環境によって将来の夢や希望を諦めざるを得ない子どもや若者たちが、社会に巣立つための「次の一歩」を踏み出すチャレンジを応援する取り組みです。  生活に困窮する若者、ケアリーバー(児童養護施設を退所した方)、虐待を受けた経験のある方、ヤングケアラーなど、困難に直面する子ども・若者が抱える課題は深刻です。大学等の受験費用、就職活動のためのスーツなどの服飾費、新生活を送るための住居の初期費用などを家庭から十分な援助を受けることができずに、勉強時間を削って自力で賄う方もいれば、進学等の夢や希望を断念せざるを得ない方もいます。  こうした状況により、困難に直面する子どもの大学等への進学率は、平均進学率を下回っています。  また、寄り添い支援に取り組むNPO等からは、日々の支援の延長線上にある出口として、子ども・若者たちに対し、社会に巣立つための支援が必要との意見が寄せられていました。  そこで、県では、子ども・若者たちへの公助の取り組みを進めるとともに、共助のチカラを活かした「かながわつばさプロジェクト」を立ち上げました。  プロジェクトでは、法人や個人の方からの寄付を活用して、大学等の受験費用に3万5千円、アパート契約の初期費用に2万5千円、就職活動の準備費用に4万円を、NPO等の支援団体を通じ、子ども・若者に支援します。  また、プロジェクトに参加する支援団体を中心としたネットワークを構築し、子ども・若者への支援について検討を行っています。 この取り組みを通じて、子ども・若者のチャレンジを後押しし、社会の担い手を育むとともに、生まれ育った環境に関わらず「誰もが」夢や希望を持つことができる社会の実現を目指していきます。  法人・個人の方には、プロジェクトへのご寄付をお願いしています。詳しくは、プロジェクト事務局までお問合せください。 (県生活援護課) 〈囲み〉 【事務局:(認N)神奈川子ども未来ファンド】 TEL 045-212-5825 〈囲み終わり〉 P6 福祉のうごき 2023年1月26日~2023年2月25日※新聞等掲載時点 ●警察庁 児相への児童虐待通告 最多を更新  警察が児童虐待の疑いがあるとして、令和4年に児童相談所に通告した18歳未満の子どもは11万5730人(暫定値)で、前年より7.1%増え、過去最多を更新したことが警察庁のまとめでわかった。 ●相模原市 「ヤングケアラー」実態調査実施  相模原市は1月31日に、市立学校の児童生徒を対象にした「家族のお世話や家事についての実態調査」の結果を公表した。調査は令和4年10月から12月に実施し、約2万8千人のうち9割近くが回答した。  調査から、支援が必要な子どもに対して、学校にて状況等を確認し、必要に応じて福祉の支援につなげるとしている。 ●逗子市 妊産婦ら専用避難所を新設  逗子市は、大規模災害発生時に、妊産婦及び乳児とその家族を対象にした専用避難所を開設するため、1月30日に(学)聖和学院、逗葉医師会、県助産師会と協定書を交わした。専用の避難所の開設と医師会と助産師会との連携は県内初となる。 ●県 様々な困りごとへの支援情報を一元化したポータルサイトを開設  県は2月1日、生活困りごとサポートサイト「さぽなび かながわ」を開設した。「さぽなび かながわ」は暮らし、仕事、子育て、介護など生活の様々な困りごとに関する制度や相談窓口等の情報を一元化したポータルサイトで、コロナ禍や物価高騰の影響を受ける県民を支援する「神奈川県生活困窮者対策推進本部」の取り組みの一環である。 ●川崎市社会福祉協議会 全国社協広報紙コンクール2022で「優秀賞」受賞  全国初の社協広報紙を対象としたコンクール(全国社協広報紙コンクール実行委員会/イラスト協議会主催)で、川崎市社協の広報誌「川崎の社会福祉(No.597)が優秀賞を受賞した。社協の広報力強化を目的に開催され、全国から75件の広報紙がエントリーした。川崎市社協は、受賞のコメントで「これからも、ご覧になった方が参加したいと思えるような広報誌を目指し、福祉情報の発信に努めてまいります」とホームページを通じて発表した。 P7 私のおすすめ ◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。 おすすめ書籍『どうやって飲まないでいるか』  『どうやって飲まないでいるか』はAAが発行している書籍『Living Sober(原題)』の日本語翻訳版です。メンバー以外にも多く読まれています。  この本は、飲酒がうまくコントロールできずお酒をやめるように言われた、あるいは飲まないと決心したがむずかしい…という方のお役に立てるかもしれません。AAメンバーが飲まないために利用したさまざまな方法が紹介されていますが、AAに関心のない方でも活用できる内容です。まずは気軽に読んでみませんか。  AAの回復のプログラムについてはAAの『アルコホーリクス・アノニマス』を本紙2021年6月号で紹介していますので、併せてご参照ください。 今月は→AA(アルコホーリクス・アノニマス)横浜地区メッセージ委員会がお伝えします! 横浜市内のAA(アルコホーリクス・アノニマス)グループが集い、メッセージや広報の活動をしています。AAはアルコール依存の問題を持つ本人が飲まないで生きていくこと、まだ苦しんでいる人の手助けを目的とする世界的規模の集まりです。 〈連絡先〉AA関東甲信越セントラルオフィス(日曜定休) TEL03-5957-3506 FAX 03-5957-3507 HP:http://aa-kkse.net/ 〒170-0005東京都豊島区南大塚3-34-16オータニビル3F そもそも「なぜ飲んではいけないのか?」  アルコホリズム(アルコール依存症)は飲酒のコントロールを失う病気です。二度と安全にお酒を飲むことはできない進行性の致命的な病で、完治はありませんが、お酒を飲まないで生きる「回復」があります。  とはいえ、お酒を飲まないで生きるなんて考えられない!不愉快で退屈なもの、と思われるかもしれません。しかし私たちはむしろ飲んでいたときよりもはるかに喜びに満ちた心躍る人生を経験しています。  『どうやって飲まないでいるか』には「飲まないで生きるヒント」として30の方法が提案されています。まず飲まないでいることが「回復」に向けての出発点です。  この中から二つの方法をご紹介します。 ◆最初の一杯を遠ざけること  私たちの多くが飲む量を制限したりお酒の種類を変えたり…、ほどよく飲むための様々な努力をしました。しばらくは全く飲まないこともありましたが、いずれにしても最初の一杯を飲むと気持ちが変わり、もう一杯なら大丈夫、さらにもう一杯…と結局うまくいきません。これを再三再四繰り返して学んだのは、あれこれと考えるよりも、最初の一杯を避けることでした。医学的にも最初の一杯を避ける根拠があると言明されています。次の一杯を渇望する強迫観念の引き金となるのは、最初の一杯であると。  「最初の一杯に手を出さない」ことを思い出す、この簡単な習慣が役立っています。「最初の一杯」はAAミーティングでしばしば登場するテーマです。 ◆24時間の方法を利用すること  飲んでひどい体験を何度も重ね「一生飲まない」と誓いを立てたこともたびたびありました。しかし結果はいつも同じでいつのまにか飲み始め元の状態に。宣誓と失敗の繰り返しに罪悪感や自責の念は深まるばかり。家族や周りの人はうんざりしていたことでしょう。そこで「一生」ではなく「24時間」、今日一日飲まないでいよう!という方法が提案されています。飲酒欲求が強い場合は1時間だけ飲まないでいよう、それをさらにもう1時間、もう1時間と続けていく。飲むのを先延ばしにして飲まない時間を更新していく方法です。これがうまくいく!このことをAAメンバーの多くが実感しています。 AAの活用について  この他、「飲まないで生きるヒント」には、AAのメッセージ(書籍やパンフレット、月刊誌など)を読む、ミーティングに行く、12ステップへの取り組みも提案されています。具体的なミーティングの種類(クローズド:本人だけ参加可、オープン:誰でも参加可など)の説明や初めての人の多くが疑問に思う事柄(これから一生ミーティングに出続けなければならないのかなど)にも答えています。よかったら参考にしてみてください。 〈コラム〉 ●本書に関心を持たれた方へ  AAが発行している書籍は、各地サービスオフィスで購入できます。お問い合わせください。(ネット通販でも取扱いあり)  AAの最新情報はHPやお電話で。また、AAメンバーの体験を聞きたい、AAの説明をしてほしい、初めてなのでミーティングに一緒に行ってほしいなどお気軽にご相談ください。 〈写真2点〉 『どうやって飲まないでいるか』・『12のステップと12の伝統』(NPO法人AA日本ゼネラルサービスオフィス発行) 〈写真2点終わり〉 P8 あなたの職場 「働きがいと成長を実感できる組織の在り方」業績の向上も視野に入れて職場の在り方を考える (株)川原経営総合センター 常務取締役 薄井 照人  新型コロナウイルス感染症の影響で、様々な福祉施設(事業)の経営が大きな打撃を受けています。  また、ほぼ全ての職場においてこの感染症の影響で職員同士のコミュニケーション不足も課題としてあがっています。この機会に「業績の向上」を視野に入れて「職員の満足度」と「利用者の満足度」の関係性を解説していきます。  そして、経営理念や運営方針と職員の帰属意識との関係性から、福祉の現場の職員の皆さまの働きがいと成長を実感できる組織の在り方を、連載「あなたの職場」の最終回として、紹介された事例の振り返りも含めて考えてみましょう。 福祉施設における経営理念  社会福祉事業法の時代から、福祉の施設には運営理念・方針が定められていました。ただし、大部分は社会福祉法人の設立(福祉施設の開設)時に明文化が義務付けられていたため形式的に作成されていた傾向が少なからずあったと感じていました。  その中で、社会福祉事業法が社会福祉法に改正された時期、つまり社会福祉法人にも経営の必要性が求められてきた中で、経営理念の重要性が再認識されてきました。現在では、ほぼすべての施設に経営理念が策定されていると思いますが、まだ作成されていない場合には、図表1を参考に検討してみてください。 〈図表1〉 ●経営理念策定時のキーワード(例)(図表1) 創業者の思い→どの様な思いで、施設を作ったかを伝える。 施設や法人の大切にしていること→重要視している価値観や方針を発信する。 地域への約束やメッセージ→その地域への貢献で目指していること。 利用者への約束やメッセージ→提供するサービスで大切にしていること。 職員への約束やメッセージ→成長や処遇の保証など仲間への思い。 組織の永続発展への約束→職員や利用者への安定、安心の約束 〈図表1終わり〉  経営理念の目的は、民間企業(ここでは、営利法人)ではお客様へのメッセージが優先されていると感じます。しかし、福祉施設で必要なのは、第一に職員へのメッセージではないでしょうか。私たちの施設は何のために存在しているのか。何を目的としているのか、大きな方向性を表しています。そしてみんなでその目標を達成していきましょう、というものです。  一般的な経営理念には、図表1に記載のとおり大きく分けて地域と利用者、そして職員へのメッセージが中心になっているケースが多くなっています。昔から言われている「近江商人の三方よし(売り手よし買い手よし世間よし)」を見ても、売り手だけ良くても続かないということが分かります。  民間企業の中には、経営理念をクレド(企業全体の従業員が心がける信条や行動指針)として定めて、社員手帳やホームページ等で公開しているケースもあります。参考にされてはいかがでしょうか。 職員の帰属意識・働きがいを高める取り組み事例  今回は業績の向上を視点にしています。しかし、大切なのは業績が上がった時に、その利益を何に使うのかを明確にしておくことです。  民間企業(上場株式会社)の場合は利益を出す目的の一番は、株主への配当と言われています。株主への配当を増やすことで、より資金を集めることができます。  しかし公益性の高い社会福祉法人等は、配当禁止となっています。では、何のために利益を出す必要があるのでしょうか。これも経営理念と同様に地域や利用者、そして職員のためと考えると全てがつながります。利益を地域で求められている新規事業に使う、利用者のより良いサービス提供のために使う、職員の職場環境の改善や処遇に使う。そう考えると利益を出す必要性も明確になり、組織一丸となって進むことができるのではないでしょうか。  それでは、利益を出すためには何が必要なのかを考えてみましょう。私がこの仕事をしている上で、とても大切にしている統計があります。それは、業績の向上には顧客の満足度(以下:CS=カスタマーサティスファクション)との大きな相関関係がある。そしてCSには従業員の満足度(以下:ES=エンプロイヤーサティスファクション)との大きな相関関係があるという統計です。CSが業績の向上と大きな相関関係にあることは理解できますが、ESとCSはどうでしょうか。  これはハーバードビジネススクール名誉教授のジェームス・L・ヘスケット氏が論文「サービス・プロフィット・チェーンの実践法」で提唱したビジネスモデルで説明されています(図表2)。 〈図表2〉 サービス・プロフィット・チェーン(図表2) 職員の満足が利用者の満足を生み、施設の収益を増加させる仕組み 利用者支援の質 ↓ 職員満足 ↓・↓ 職員の採用と定着率の増加・職員の生産性 ↓ 利用者サービスの質 ↓ 利用者満足 ↓ 利用者ロイヤルティ ↓・↓ 利用者の増加と収入の向上・施設の収益の増加 提唱されたビジネスモデルに福祉施設の状況を反映して整理、図式化した。 〈図表2終わり〉 P9  つまり、ESの向上が結果、業績の向上には必要ということになります。  日本においても、同様の研究が行われています。それは、鈴木研一氏(明治大学)と松岡孝介氏(東北学院大学)が発表(日本管理会計学会誌)した論文「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」にて、「従業員満足度→サービスの質→顧客満足度→財務業績というサービス・プロフィット・チェーンは成立する」ということが解説されています。対象はホテル等ホスピタリティ産業ですが、福祉施設も同様に考えることができます。  つまり、ESとCSを単体で考えるのではなく、つなげて考えるということです。ESの向上は組織への帰属意識(ロイヤルティ)やモチベーションの向上から、利用者への支援の質や業務の効率化につながります。その結果、CSが向上するのです。CSの向上が経営実績につながる事はある意味当たり前なのかもしれません。 「あなたの職場」事例紹介  職員の帰属意識が満足度に大きな影響を与えることは前段でも説明しました。それでは「あなたの職場」において紹介された事例で考えてみましょう。  ICT・IoTや介護ロボット等の活用は、今後の人材不足への対応(労働生産性の向上)だけではなく、職員の安心(見守りセンサー等)につながり、若い世代の採用にも有効です。  実際に外国人の採用を進めている施設は、単に人手不足対策にとどまらず、組織の活性化につながっています。  職員の互助会制度、卒業生や職場のOB・OGの同窓会組織も同様に帰属意識に大きな効果が望めます。  面接してすぐに採用ではなく、必ず職場体験をしてもらい、その時間に勤務している仲間をみて人間関係まで考えている工夫や、見学会を開催して支援の場だけではなく、打合せスペースや職員用の保育スペースまで見てから決めてもらう気遣いは参考になります。 そして一つの結果として、職員の家族が施設を利用することが、ある意味一番の評価となるのだと思います。これを大切にしている施設も紹介されています。  また、他の事業所では経営理念を浸透させるために、職員が良く見るもの(就業規則・給与規定・人事考課規程・経営計画書・施設パンフレット・ホームページ等)に記載し、事業計画策定時に経営理念を確認しているケースもあります。  現在、医療の現場で、医師の働き方改革が進んでいます。キーワードは、タスクシフト(業務分担)です。医師の業務を他の職種(大半は看護師)に移し、看護師の業務も助手に移します。介護の現場でも同じ取り組みができると思います。 これからの職場づくり  このコロナ禍の三年間で受けた打撃は計り知れないものがあります。だからこそ、今一度皆さまの職場づくりを改めて考えてみましょう。あえて経営の業績を視野に入れてみてはいかがでしょうか。 前段でも解説しましたが、そのためには利用者の方々の満足度をいかにあげていくかがポイントになります。また、利用者の方々の満足度を上げるためにも、いかに職員の満足度を上げていくのかが重要になっています。  まずは職員の満足度向上を、2月号で解説されている「二因性理論」である、動機づけ要因や衛生要因や、これまでの、各施設・事業所の事例も参考にしてご検討ください。 〈囲み〉 あなたの職場バックナンバーは、ホームページに掲載しています http://knsyk.jp/c/times/ 〈囲み終わり〉 P10 県社協のひろば 苦情を前向きに捉えるために―かながわ福祉サービス運営適正化委員会の取り組み  かながわ福祉サービス運営適正化委員会(以下、委員会)は、利用者や家族等からの福祉サービスに関する苦情相談への対応のほか、福祉サービス事業者(以下、事業者)の苦情解決の体制整備に向けた支援の一環として、苦情解決研修会や事業者訪問調査などの事業を実施しています。 苦情解決研修会の開催  委員会では、苦情解決に必要な視点や相談援助技術を学ぶことを目的に、事業者の苦情受付担当者、苦情解決責任者、第三者委員等を対象に、苦情解決研修会を行っています。  今年度は、苦情対応の初任者に向けた基礎編と実際の苦情事例を用いた実践編(Ⅰ・Ⅱ)の計3回を開催しました。  基礎編は、316名が受講し、苦情解決のしくみを理解することをテーマに、苦情解決の意義や法的視点からみた留意点など、苦情対応に必要な基礎的な内容について学びました。受講者からは「苦情対応のポイントと法的視点について話を聞くことができて、大変参考になった」といった感想のほか「次回は事例を用いてより実践的な対応スキルが身に付けられる研修を受けたい」といった積極的な声も寄せられました。  実践編Ⅰでは、苦情相談の初期対応における留意点や組織として苦情に対応することの大切さなどを学ぶとともに、演習では利用者役と苦情受付者役に分かれてロールプレイを行い、普段の対応の振り返りの機会としました。受講者からは「演習を通して苦情を言う側の気持ちを理解することができた」「初期対応や傾聴することの大切さを学ぶことができた」といった声が聞かれました。 〈囲み〉 苦情対応のポイント~苦情受付担当者として~ 傾聴…相手の話をよく聞き、気持ちを受け止める 早急に答えない…事実確認をしてから回答する…一人で抱え込まない (苦情解決研修会 講師資料を元に事務局作成) 〈囲み終わり〉  実践編Ⅱでは、苦情対応から得た気づきを日頃のサービスにどのようにフィードバックすることができるかをテーマに、グループごとに事例検討を行いました。受講者からは「苦情を受けるとネガティブな気持ちになってしまっていたが、研修を受けて苦情を前向きに捉えたいと思った」「様々な事例が聞けて参考になった。また、日頃の対応について振り返るきっかけになった」といった感想が寄せられました。  今後、委員会では、受講者の皆さんからいただいた意見や要望を、研修の企画に反映していきます。 事業者訪問調査 実施中!  苦情解決の仕組みについて事業者への周知や理解促進を図るため、事業者への訪問調査を行っています。  調査先は、委員会が選定するほか、苦情受付体制について基本的なことを知りたいなどの理由により、調査依頼のあった事業者を訪問しています。  調査では、事業者の状況を伺いながら、利用者の声を拾う工夫など、取り組みに関する助言や、実際に委員会に寄せられた苦情事例の特徴についても情報提供を行っています。 〈囲み〉 訪問調査事後アンケートより ●苦情対応は職員個人ではなく、組織全体で考え対応していきたい。(児童発達支援・放課後等デイサービス) ●利用者からの意見や苦情を今後は記録に残していきたい。(共同生活援助(障がい者グループホーム)) 〈囲み終わり〉  引き続き、委員会では事業者における苦情解決の体制整備が進み、利用者等からの苦情に適切に対応できるよう、福祉サービスの質の向上に向けた取り組みを進めてまいります。 (かながわ福祉サービス 運営適正化委員会事務局) 〈囲み〉 事業者向け苦情解決のポスター・リーフレットを配布しています。希望される事業者は、下記事務局までご連絡下さい。 TEL 045-311-8861(平日9時~17時) 〈囲み終わり〉 P11 Information 役員会のうごき ◇理事会=2月16日(木)①理事候補者の推薦②監事候補者の推薦③評議員候補者の推薦④評議員会の決議の省略の実施 ◇評議員選任・解任委員会=2月27日(月)①評議員の選任 ◇評議員会=2月27日(月)①理事の選任②監事の選任 本会への応援に感謝いたします 【賛助会員】 (本会事業の趣旨に賛同し、ご入会いただきました企業・団体等) ▽東建設(株)▽東洋羽毛首都圏販売(株)横浜営業所▽(有)プラスエヌ▽(株)八雲堂▽(税)八木会計▽(株)日建産業▽(株)石井商事▽神奈川県信用金庫協会▽(株)清和サービス▽ベストトレーディング(株)▽帝国通信工業(株)▽(一社)生命保険協会神奈川県協会▽(株)ベストライフジャパン▽(株)ジャルダン・シュクレ▽(株)あんざい▽(株)トミヤ▽(有)湘南仲介センター▽山口一薫▽(株)エコス▽日舗建設(株)▽(株)小俣組▽(有)神原興業▽(株)安江設計研究所▽(株)ベスト▽(株)セントラルホール横浜葬儀社▽(株)栄和産業▽(株)チュウバチ▽(株)ねずらむ▽(株)栄港建設▽(株)アレーテー▽(株)ホテル、ニューグランド▽(有)カギの横浜ロックサービス▽(株)柏苑社▽(株)米川製作所▽明誠建設(株)▽(一社)神奈川県指定自動車教習所協会▽かながわ信用金庫総務部▽(株)神奈川機関紙印刷所▽(株)鈴木油脂▽(株)日立ゆうあんどあい▽湘南信用金庫▽共和興業(株)▽(株)桐ヶ谷工業所▽(株)トシダ▽オール・レンタル(株)▽向洋電機土木(株)▽相武造園土木(株)▽日経管財(株) (いずれも順不同、敬称略) 【部会事業協力者】 (各種招待行事・寄附等、本会部会事業にご協力いただきました企業・団体等) ▽KCJ GROUP(株)▽(公財)資生堂子ども財団▽(公財)ポーラ美術振興財団ポーラ美術館▽横浜西ロータリークラブ▽横浜戸塚西ロータリークラブ▽(公財)神奈川新聞厚生文化事業団▽(一社)神奈川県養豚協会▽神奈川トヨタ自動車(株)▽(公財)報知社会福祉事業団▽関東アイスクリーム協会▽横浜幸銀信用組合▽神奈川県労働者福祉協議会▽(株)カレンズ▽新日本カレンダー(株)▽(株)杉本カレンダー▽(福)テレビ朝日福祉文化事業団▽湘南弦楽合奏団▽(株)SL Creations▽東亜建設工業(株)横浜支店▽(認N)カタリバ▽(認N)ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン▽(株)ソロモン商事▽(一財)ゼンショーかがやき子ども財団▽全国共済神奈川県(生協)▽(株)横浜銀行▽(公財)ブルーシー・アンド・グリーンランド財団▽富山めぐみ製薬(株)▽神奈川オープン実行委員会▽(公財)日本サッカー協会▽(株)ツルハホールディングス▽クラシエホールディングス(株)▽厚木愛甲地域労働者福祉協会▽(一社)生命保険協会神奈川県協会▽(N)日産労連NPOセンター「ゆうらいふ21」▽神奈川日産自動車(株)▽(一社)神奈川県自動車会議所▽(株)クラシカルエルフ (いずれも順不同、敬称略) 寄附金品ありがとうございました 【子ども福祉基金】脇隆志 【ともしび基金】(福)日本医療伝道会総合病院衣笠病院、神奈川県民生委員児童委員協議会 (合計3件 35,357円)  【寄附物品】神奈川日産自動車(株)、(一社)神奈川県自動車会議所、シニアクラブていけん、相模原弥栄高等学校、白山高等学校、相原高等学校、神奈川工業高校、平塚保健福祉事務所、相模川水系ダム管理事務所、東部総合職業技術校二俣川支店、小田原保健福祉事務所、東部漁港事務所、東亜建設工業(株)横浜支店、(株)横浜銀行 【ライフサポート事業】 〈寄附金〉(一社)生命保険協会神奈川県協会 〈寄附物品〉(N)セカンド・ハーベストジャパン (いずれも順不同、敬称略) 〈写真2点〉 高齢者福祉施設へ車椅子を寄贈いただき、令和5年2月10日、神奈川日産自動車(株)横山明代表取締役社長(左)に感謝状を贈呈 福祉施設等へ介護車両を寄贈いただき、令和5年2月15日、(一社)神奈川県自動車会議所御代田晃一理事長(左)に感謝状を贈呈 〈写真2点終わり〉 P12 かながわほっと情報 オリジナル福祉用具で困っている人を助けたい モノ作り大好き人間 工房SERA代表 稲住義憲さん(相模原市南区)  福祉用具の開発を通じて社会に貢献する、そんな理念をもって定年退職後、工房SERAを立ち上げた稲住義憲さんにお話を伺いました。  稲住さんは、もともとモノ作りが大好きなエンジニアでした。定年退職後、福祉用具開発のNPO活動を経て、平成二十九年から個人事業に専念し、これまでたった一人で次々とユニークな福祉用具を開発してきました。 ■足首の運動器具「足上げ君」  高齢者の転倒事故の予防が期待できる器具。踏板に足を乗せ足首を曲げると、ピンポン玉がパイプ先端から落ちてくる楽しい器具です。足首をピンポイントでリハビリできるこれまでにないもので、特別養護老人ホームでは、足首の柔軟性が改善されることで歩幅が広がったなどのエビデンスが確認できました。 ■人指し指だけで動かせる箸  「ラーメンを箸で食べたい」  頸椎損傷の男性が言った一言。人指し指だけがわずかに動かせる男性の希望を叶えるために作った箸です。何度も男性の元に通いながら、工夫を重ねて作りあげました。 ■片手で靴ひもを結べる自助具  「靴ひもを蝶々結びしたい」  脳梗塞で左手が麻痺した男性の要望。おしゃれな紐靴が履きたいという要望に対して、洗濯バサミに3Dプリンターで造形したパーツを連結した自助具を使えば、片手でスニーカの紐が蝶々結びに結べます。 (神奈川工科大学福祉アイデアコンテスト最優秀賞受賞) ■缶オープナー「パッ缶123」  力の弱い高齢者でも楽に缶が開けられるオープナー。1年以上かけて開発し、関節リウマチの方からも、簡単に缶を開けることができると喜ばれています。  稲住さんは、たった一人のためであっても、困っていると聞けば、何とかしようと考えます。課題を解決するためのアイデア、それを具体的な形にしていく技術力、完成するまで試作を繰り返していく執念はまさに技術屋魂の現れです。  一方、事業は赤字経営とのこと。どうしてそこまで出来るのかお聞きすると「役に立てることがあるなら、今やっておきたい」と言います。昨年末まで3年間、民生委員児童委員を務めた稲住さん。モノ作り大好き人間は、実は人が大好きな技術屋さんでした。  これからも困っている人の役に立つ福祉用具が開発されることが楽しみです。(企画課) 〈写真4点〉 足上げ君 人指し指だけで動かせる箸 片手で蝶結び パッ缶123 〈写真4点終わり〉 〈囲み〉 工房SERA 住所:相模原市南区相模大野2-14-3 TEL 090-4136-8423 https://kobosera.com 〈囲み終わり〉 「福祉タイムズ」は、赤い羽根共同募金の配分を受けて発行しています バックナンバーはHPから ご意見・ご感想をお待ちしています!→https://form.gle/74aewHkEfzQ9ybJQ8 【発行日】2023(令和5)年3月15日(毎月1回15日発行) 【編集発行人】新井隆 【発行所】社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 〒221-0825 横浜市神奈川区反町3丁目17-2 TEL 045-534-3866 FAX 045-312-6302 【印刷所】株式会社神奈川機関紙印刷所