テキストデータ作成に当たって  このデータは、『福祉タイムズ』 vol.859 2023年6月号(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。  二重山カッコは作成者注記です。 P1 福祉タイムズふくしTIMES 2023.6 vol.859 編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 特集 ご存知ですか?福祉サービスにおける苦情解決制度~苦情対応からサービスの質の向上へ~ NEWS&TOPICS P4 神奈川県地域福祉支援計画の改定について 県地域福祉課 P5 日本の将来推計人口からみる福祉現場の将来像 (株)川原経営総合センター 連載 P8-9 連携・協働の今-新たなパートナーシップを目指して-③ 今月の表紙 海にいることの気持ち良さ、波に乗ることの楽しさは障害の有無に関係ないー。 サーフィンが大好きな川名さん(認知症当事者)と一緒にサーフィンを楽しむナミニケーションズのみなさん【詳しくは12面へ】 P2 特集 ご存知ですか?福祉サービスにおける苦情解決制度~苦情対応からサービスの質の向上へ~  社会福祉法第82条において「社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」とされ、苦情解決の体制や手順等について厚生労働省から指針が示されています。  今回は、福祉サービスにおける苦情解決制度と、かながわ福祉サービス運営適正化委員会に寄せられた相談について紹介します。 苦情に対するイメージ  福祉サービスの苦情は、利用者が求める価値や期待と、福祉サービス事業者(以下、事業者)が提供するサービスに差が生じた時に、満たされない・裏切られた、決まりや約束を破られたといった気持ちになり、不満や不信となって生まれると言われています。  苦情という言葉を聞いて、マイナスイメージをもつ人は少なくありません。それは、利用者にとっても事業者にとっても同様のことです。  苦情を申し出る側の利用者の中には「お世話になっているから言いづらい」「苦情を言って利用を断られたらどうしよう」という気持ちから、サービスに疑問や不安があっても、その気持ちを伝えられない人もいます。また、苦情を受ける側の事業者も「苦情を言われてしまった」など、苦情に対して消極的な捉え方をしてしまうことがあります。  しかし、小さな疑問や不安がたまることで、利用者は日頃のサービスを気持ちよく利用できなかったり、事業者もミスや問題に気付けず大きな事故に発展してしまうこともあります。そうならないためにも、苦情申出を通して、利用者と事業者で話し合い、事実確認やより良いサービスに向けて対応を検討することが重要となるのです。 事業者による苦情解決~事業者が取り組む意味~  厚生労働省による「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針」(平成12年通知〈平成29年3月一部改正〉)では、事業者には、利用者等からの苦情に対応するための苦情受付担当者や苦情解決責任者、第三者委員を設置することとされています。  また、苦情への適切な対応は、自ら提供する福祉サービスの改善や利用者の満足度の向上、権利擁護の取り組みの強化など、福祉サービスの質の向上に寄与するものであること、また、こうした対応の積み重ねが社会的信頼性の向上にもつながるとされています。 〈コラム〉 福祉サービスにおける苦情解決制度 いつ始まった制度なの? 平成12年度の社会福祉法の改正により、措置制度から利用者の意思でサービスを選択する契約制度へと転換した時に、利用者保護のための制度として創設されました。 なぜ、苦情解決制度が必要なの? 福祉サービスを提供する事業者と弱い立場になりやすい利用者との対等な関係を確立し、苦情への適切な対応により、利用者の権利擁護と福祉サービスの質の向上を図るという観点から、苦情解決制度が生まれました。 事業者の苦情解決ってどういうもの? 事業者段階の苦情解決体制として、「苦情受付担当者」が相談を受け付け、「苦情解決責任者」が責任をもって解決すること、また苦情解決に社会性や客観性を確保し、利用者の立場や特性に配慮した適切な対応をするために「第三者委員」を設置することとされています。 〈コラム終わり〉 P3 第三者委員の活用  第三者委員の役割は、利用者と事業者の間に入り、苦情に対する聞き取りや助言、仲介、調整をすることです。例えば、事業者が苦情を受けた際に、必要に応じて第三者委員が同席するなど仲介的な役割を担ったり、利用者が事業者に苦情を言いづらい場合などに、第三者委員に直接苦情を申し出ることができます。  かながわ福祉サービス運営適正化委員会(以下、委員会)が令和3年度に実施した「福祉サービス事業者における苦情解決体制整備状況に関するアンケート調査(1722カ所回答)」では、半数以上の事業者に第三者委員が設置されていることが分かりました。また、第三者委員設置の具体的な利点として、「中立的な立場から助言を得られる」「職員以外に、利用者が相談できる場所(人)ができる」などの回答が多くありました。  苦情対応には客観的な視点が大切です。そのため、直接言いづらい利用者の苦情を受け止め、中立性・公平性を確保する役割を担う第三者委員が必要になるのです。 福祉サービスの質の向上に向けて  委員会は、社会福祉法第83条に基づき各都道府県社協に設置されています。同法第2条に規定する社会福祉事業で提供される福祉サービスの利用に関する苦情の解決に向けて、委員会は、第三者機関として中立・公正な立場で苦情申出人(以下、申出人)と事業者双方の話を伺い、話し合いによる解決を図ります。  委員会では、苦情相談への対応のほか、苦情受付担当者等に向けた研修会や、苦情解決の仕組みの周知や理解促進を図るため、事業者の苦情解決対応状況について把握する事業者訪問調査を実施しています。  各事業者が苦情解決の体制を整え、利用者等からの苦情に適切に対応・解決できるよう福祉サービスの質の向上に向けた取り組みを進めてまいります。(かながわ福祉サービス 運営適正化委員会) 〈囲み〉 福祉サービスの苦情内容 ①職員の接遇(職員の言葉遣いや対応が悪い等) ②サービスの量や質(利用時間を減らされた等) ③説明・情報提供(契約時の説明と違う等) ④利用料や負担金(契約時に聞いていない費用を請求された等) ⑤被害・損害(支援中のケガについて何も説明がない等) ⑥権利侵害(職員による暴言があった等) ⑦その他(制度に関すること等) (全社協による苦情内容の分類) 〈囲み終わり〉 〈事例1〉 事業者による苦情対応事例 【事業者】 保育所 【申出人】 家族 【申出内容】 お迎えの際、同居する家族が発熱していることを保育士に話すと、その場で厳しい口調で「2週間子どもさんを休ませてください」と言われた。新型コロナウイルス感染症がまん延している状況もあり念のため休ませたが、急な利用拒否とその言い方に納得できない。 【事業者の対応】 申出人が園の第三者委員に電話をして相談すると、第三者委員は話を丁寧に聞き、「それはびっくりしましたね」「保育園を休んでもお母さんのお仕事は大丈夫ですか」など、申出人の気持ちを傾聴し、園長に連絡することを約束した。園長は、休み明けに登園した申出人に第三者委員同席の上で謝罪し、第三者委員の指摘を受けて初めて申出人の不安な気持ちに気づいたこと、この件があってから保健所に相談し、家族の発熱時の対応等についてルール化して保護者に周知することを説明した。この対応により申出人の納得が得られ、事業者の対応改善にもつながった。 〈事例1終わり〉 〈事例2〉 委員会による苦情対応事例 【事業者】 就労移行支援 【申出人】 本人 【申出内容】 職員から「訓練の成果がみられなければ採用面接に挑戦することはできない」と言われ、無理をして精神的につらくなった。 【委員会の対応】 事業者から、様子を見ながら声をかけたり、週1回の面談も実施してきたこと、申出内容にあるような発言はしていないが、早く就職につなげようと支援を急いでしまったことを伺った。また、なかなか申出人の本音を聞くことができず、他に関わっている機関もないことから支援する上での難しさがあったが、苦情申出を受けて、申出人の気持ちを知ることができたことから、今後は必要な配慮をしながら丁寧な支援をしていきたいとの話があった。これらのことを申出人に伝えたところ、「もう一度、事業者と話をしてみる」とのことだった。 【委員会から事業者への助言等】 申出人の支援について、事業者だけで抱え込まず、行政や医療機関等と連携しながら対応することが望ましいと伝えた。 〈事例2〉 ※掲載事例は、個人情報保護の観点に基づき一部修正・加工しています。 P4 NEWS&TOPICS 神奈川県地域福祉支援計画の改定について ●神奈川県地域福祉支援計画の概要  県では、令和5年4月に「神奈川県地域福祉支援計画[第4期]」を改定し、第5期計画を策定しました。  神奈川県地域福祉支援計画は、社会福祉法第108条第1項に基づく法定計画である都道府県地域福祉支援計画として、広域的観点から、地域福祉推進のために市町村が策定する「地域福祉計画」の達成を支援するための計画です。  県では、平成17年に第1期の地域福祉支援計画を作成し、「ひとづくり」「地域(まち)づくり」「しくみづくり」の3つを計画の大柱として、本県における地域福祉の推進に向けて様々な施策に取り組んできました。  第4期計画は令和2年度までの計画期間としていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により計画改定を延期し、このたび、令和5年度を始期とする第5期計画を策定しました。  なお、第5期計画の期間は、本計画と密接に関わる「かながわ高齢者保健福祉計画」等の改定時期と合わせ、令和5年度から令和8年度の4年間としました。 ●第5期計画について  第5期計画は「誰も排除しない、誰も差別されない、ともに生き、支え合う社会の実現」という基本目標と、3つの大柱は継続しつつ、コロナ禍による地域福祉への影響や社会状況の変化に伴う新たな課題への対応を盛り込んでいます。 ●改定のポイント  改定のポイントは大きく3つあります。  1つ目は、当事者目線に立った地域福祉の反映です。県では、当事者目線の障がい福祉の推進を図り、障がい者のみならず、誰もが喜びを実感できる地域共生社会を実現するため、令和5年4月に「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例~ともに生きる社会を目指して~」を施行しました。本条例の趣旨を踏まえ、第5期計画の施策の展開に当たっては、障がい者や高齢者、子どもなど、当事者の参画や当事者主体の活動を促進し、当事者の方々が地域でいきいきと活躍できる地域づくりの視点が重要であることから、当事者の目線に立った地域福祉の担い手の育成や個人の尊厳の尊重などを盛り込みました。この「当事者目線に立つ」という考えは、障害福祉のみならず、あらゆる分野に通ずるものであると考えています。  2つ目は、社会情勢等の変化への対応です。長引くコロナ禍により、生活困窮者の増加や、外出自粛などによる地域住民の孤立・孤独化、地域のつながりの、より一層の希薄化が生じる等、新型コロナウイルス感染症による地域福祉への影響や、コロナ禍での新たな取り組みを盛り込むとともに、ケアラー支援やひきこもり支援など制度の狭間の課題への対応を盛り込みました。  3つ目は、社会福祉法の改正に伴い、令和3年度に新たに事業化された重層的支援体制整備事業など市町村における包括的支援体制の整備に対する支援や、地域住民が主体的となって相互に尊重し合いながら、参加し、活躍できる地域づくりの大切さを盛り込みました。 〈写真〉 条例リーフレット 〈写真終わり〉 ●改定にあたり工夫した点  市町村や民間団体等の取り組み事例について、第5期計画では、掲載する事例を28の事例に大幅に増やしました。地域には、地域福祉に係る様々な取り組みがあり、多くの方に関心を持ってもらい、それぞれができる範囲で地域に関わっていただけるよう身近な事例も数多く掲載しました。  また、より多くの方のご意見をいただくため、パブリックコメントの実施に当たっては、市町村や庁舎のロビーなどへ配架するとともに、福祉や医療関係団体等へ案内をお送りしたほか、障がい当事者団体を訪問し、改定計画の趣旨について説明しました。 ●おわりに  計画の改定に当たっては、多くの皆様から貴重なご意見をお寄せいただきました。ご協力いただいた皆様に、深く感謝申し上げます。  今後、この計画に基づき、市町村や県民の皆様、関係団体と協働・連携しながら、「ともに生き、支え合う社会」の実現に向け、地域福祉の推進に取り組んでまいります。  皆様のご理解とご協力をお願いいたします。 (県地域福祉課) 〈囲み〉 神奈川県地域福祉支援計画 神奈川県地域福祉支援計画は、県HPで公開されています。 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/n7j/chiiki-keikaku/keikaku.html 〈囲み終わり〉 P5 NEWS&TOPICS 日本の将来推計人口からみる福祉現場の将来像 (株)川原経営総合センター 人事コンサルティング部 副部長 神林 佑介  国立社会保障・人口問題研究所は、令和5年4月26日に「日本の将来推計人口(令和5年推計)」を公表しました。本調査は5年ごとの国勢調査に合わせて実施され、今回の結果については、令和2年国勢調査による人口(外国人を含む日本に常住する総人口)を出発点として、2070年までの今後50年間の人口動態を推計したものです。 〈表〉 日本の総人口の推計 2020年(実績)→今回推計(2070年) 1億2,615万人→8,700万人 65歳以上人口〈高齢化率〉 3,603万人〈28.6%〉→3,367万人〈38.7%〉 15~64歳人口 7,509万人→4,535万人 0~14歳人口 1,503万人→797万人 合計特殊出生率の仮定 2020年(実績)→今回推計(2070年) 1.33→1.36 平均寿命の仮定 2020年(実績)→今回推計(2070年) 男性…81.58年→男性…85.89年 女性…87.72年→女性…91.94年 外国人の年間入国超過数の仮定 前回推計(2070年)→今回推計(2070年) 6万9千人→16万4千人 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より作成 〈表終わり〉 ●総人口は50年後に現在の7割を下回り、高齢化率は4割に迫る  合計特殊出生率の低調(1・36:2070年)と平均寿命の伸長(男性85・89年、女性91・94年:2070年)等の影響を受け、2070年時点の総人口は8700万人、うち65歳以上人口は3367万人(高齢化率38・7%)と推計されています。 ●外国人の入国超過数は増加し、総人口の1割を超える見通し  総人口に影響する国際人口移動について、外国人の入国超過数(入国者-出国者)は年間16万4千人(前回調査では7万人弱)へ増加、これに対する日本人の出国超過傾向は前回調査時より微減が見込まれ、人口減少の緩和に寄与しています。  これらは過去から現在に至るまでの傾向をもとに推計されたものであり、今後の政府の社会保障施策に対する効果は見込まれていません。次回以降の調査で、少子化対策等に関する定量的な効果がどの程度表れるのか非常に興味深いところです。 各福祉分野の経営環境  「全社協 福祉ビジョン2020」((福)全国社会福祉協議会)では、2040年に向け各福祉分野の現状と課題についてまとめています(以降、各分野のポイントを抜粋)。 ●介護・高齢福祉分野  ①在宅福祉サービスの質及び量の拡大②認知症高齢者の増加等による介護サービスの需要拡大③ひとり暮らし高齢者・高齢夫婦のみ世帯の増加 ●障害福祉分野  ①施設や在宅から地域社会での自立生活への移行②就労系福祉サービスから一般就労への移行③地域福祉支援拠点の整備 ●子ども家庭福祉分野  ①職員配置基準の改善や、障害のある子どもや医療的ケア児等への対応②地域によって顕在化する定員割れ・事業廃止の現状③児童虐待への対応 福祉人材の確保と多様な働き方の広がり  各分野の共通課題となるのが、福祉人材の質の確保と量の拡大です。介護人材は令和7年度末までに新たに約55万人、令和7年以降、待機児童のピークアウトが見込まれる保育分野においても例年6万人程度の保育士不足が指摘されています。人材確保に関しては、職員の長期雇用・定着に向けた働き方の改善が急ピッチで進められており、ICTやAIの導入に加え、コロナ禍を契機に従来の業務やサービス内容の見直しなども行われています。外国人や障害者の雇用、高年齢職員の再活用、子育てや介護と仕事の両立など、多様な働き手による多様な働き方を職場が支援する「ダイバーシティ・マネジメント」は、福祉人材の確保に必要となるでしょう。  また、福祉現場のDX化に伴い、各職員には「リスキリング」の必要性が高まっています。従来の先輩が持つノウハウを新人に伝えるという育成方法だけでなく、デジタル化によって変わる業務フローや作業の仕組みに基づく「再教育」への取り組みが不可欠となります。 事業所間の連携・協働  今後の福祉経営のキーワードの一つとなる「連携・協働」について、令和4年度より「社会福祉連携推進法人制度」がスタートしています。各法人が持つノウハウを共有するとともに、バックヤード業務を集約したり、福祉人材の採用・育成を協働するなど、福祉分野の経営課題の解消が期待されています。  社会環境の変化により、社会福祉・福祉経営のあり方にもさらなる変革が求められます。長期ビジョンを描き、事業所の方針・方向性を定めましょう。 P6 福祉のうごき 2023年4月26日~2023年5月25日※新聞等掲載時点 ●厚生労働省 ホームレス実態調査 過去最少  厚生労働省は4月28日、ホームレスの実態に関する調査(概数調査)結果を公表した。調査は自治体の巡回での目視により行われた。  結果によると、全国のホームレスの人数は3065人となり、過去最少となった。また、県内では454人となり、平成15年の調査開始以降最少となった。 ●子どもの数42年連続減 過去最低1435万人  総務省が5月4日に公表した集計によると、4月1日現在における15歳未満の子どもの数は前年に比べ30万人少ない1435万人で、42年連続して減少した。総人口に占める子どもの割合は11.5%で人数、割合とも過去最低となった。 ●ひきこもり支援初のマニュアル策定へ  厚生労働省は5月9日、ひきこもりの人や家族らの支援に役立てるため、初のマニュアルを策定する方針を固めた。 ●法務省 保護司確保へ検討会を設置  法務省は5月16日、保護司の減少を受け、なり手確保策を議論する検討会を立ち上げると発表した。新任を原則66歳以下に限るとした年齢制限の緩和や、無報酬としている現行制度の見直しを検討する。 ●県「かながわオレンジ大使委嘱式」開催  県は5月9日、認知症について当事者目線で理解を広げるため「かながわオレンジ大使(認知症本人大使)」の委嘱式を開催した。  「かながわオレンジ大使」は県内で暮らす認知症の人が対象となり、講演活動や広報紙への寄稿などを通して同じ悩みを抱える人やその家族を勇気づけ、任期の2年間で認知症への理解を広げる活動を行う。 P7 私のおすすめCHECK! ◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。 自分で食べるものは…  がんになって、食べることを今まで以上に大切にするようになりました。  令和4年9月号と令和5年2月号で、ピアサポートよこはまのサポーターの朝ごはんをお伝えしましたが、今回は、この春、突然、毎日食べる野菜を自分でも育ててみたくなったサポーターの農業体験をお伝えします。  畑を耕し、種をまき、草を取り…  土に触れ、その温もりに大地の命を感じる、新たな楽しみが始まりました。全くの素人、虫が苦手です。うまくできるでしょうか… 今月は→ピアサポートよこはまがお伝えします! がん体験者が、がん患者と家族の相談支援活動をする団体です。県との協働事業からスタートし、その後も自主運営として継続、12年間で約1700件の相談を受けてきました。主に電話相談、面談、サロンなどを行っています(現在はオンライン)。 〈連絡先〉URL:https://peer-support.wixsite.com/yokohama URL:https://ameblo.jp/peer-yokohama/ ◆食べること  私は、平成18年秋に乳がん宣告、平成19年1月に手術を受けました。もともと食べることが大好きです。手術日前日から絶食でしたので、手術後の初めての食事が待ち遠しくガツガツ食べたこと、茹でたえびが乗ったおうどんだったのですが、同室の方はえびの天ぷらが乗っているのを横目で見つつ、「私も天ぷらがよかったなぁ」とつぶやきながら頂いたことをよく覚えています。どこまでも食い意地が張っているのです。 ◆何を食べるかよりも、どう食べるか  がんになったら何を食べればよいの? 多くの方がそう思われるのではないでしょうか? 私もそうでした。  あるとき「楽しく食べることが一番よ!」「美味しいねと食べれば、普通のご飯も美味しいご飯に早変わり!」と教えてくださった方がいました。「確かに!」それまでも感謝して頂いていましたが、それからは、楽しくを心掛け、「美味しいね」とさらに感謝して食べるようになりました。何を食べるかも大切ですが、どう食べるかも大切だと気づきました。食べることは他の命を頂くこと。毎日、「いただきます!」と声に出して、「美味しいね」と感謝して頂いています。 ◆野菜作り  食べることは続きます。  毎日頂く身体に優しくておいしい野菜。これを自分で育ててみたいと思うようになりました。まずは、手近なところで豆苗から。一度刈り取ったら深めのお皿に載せてお水をあげると1週間から10日ほどで、もう一度収穫して食べることができます。「美味しくなぁれ」と水を取り替えるのも楽しみです。  そして、突然、今年の3月下旬、体験農園を借りることにしました。まずは「天地返し」という作業から。土を掘って、下にあった土が上になるよう上下を返すことから「天地返し」と呼ばれるのだそう。そこに堆肥を混ぜ、畝を作ります。畝作りも初めて。溝を掘り60㎝ほどの幅の畝を作るのですが、これが無心になれて実に楽しい! たちまち夢中になりました。数日後に筋肉痛になりましたが(笑) そして、にんじんとラディッシュの種をまきました。にんじんの種は細長くて赤く、ラディッシュの種はまん丸です。植物によって種の形も色も違うんですね。感激! 〈写真2点〉 左の列丸い葉がラディッシュ、右の列がにんじん 間引いたラディッシュ 〈写真2点終わり〉  4月の中旬、それぞれが大きく育つように間引きをしました。にんじんの双葉は細くて長い。ラディッシュはまだ小さいけれど、ちゃんと赤くなっていて、すでにラディッシュの形をしているものも。どちらも、間引いた葉っぱはお味噌汁の浮き実にして頂きました。小さな芽なのに、ちゃんとにんじんとラディッシュの味がしました。これまた感激!  翌週には枝豆と里芋を、翌々週にはトマトとキュウリも植えました。トマトのそばにバジルを植えると虫が嫌がるのだそう。植物がどこで生まれたかで、植え方も異なります。水や太陽を好むものは浅く、水の少ない地域が原産のものは土深く根を張るので畝の高さを高くします。「へぇ~~そうなんだ」ということばかり。この号が皆さまのお手元に届く頃には何がどれだけ育っているでしょうか。楽しみです。 P8 ー新たなパートナーシップを目指してー 連携・協働の今  連載 連携・協働の今③ 農福連携で、地域の元気と利用者の豊かな暮らし  農福連携は、障害者等が農業分野で活躍することで、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みです。昨今、急速に着目された背景には、障害者の社会参加に加えて、人口減少社会の中で農業分野の担い手不足や高齢化に対する新たな解決策への期待があります。そして、地域共生社会の実現に向けて、高齢者や生活困窮者、ひきこもりの状態にある方、刑余者の社会参加の一つとしても着目されています。  今回は、法人の重点事業として農福連携に取り組む、社会福祉法人光友会(藤沢市)に取材に伺いました。 ワイン造りをスタート  光友会は、生活介護、障害者支援施設、グループホーム、就労支援事業所、児童発達支援センターなどを運営しています。  光友会の本部がある藤沢市獺郷(おそごう)の周辺は田畑が広がる自然豊かな地域です。法人では10年ほど前に隣地の農地を取得し、利用者サービスの一環として野菜作りを始めました。また、近隣の大規模農園での生花づくり、青果市場内の畑作業の業務委託を受けて、施設外就労の場を作り、複数の事業所で農業分野での活動を行ってきました。  理事長の五十嵐紀子さんは2年ほど前に藤沢由来の新種のワイン用ブドウがあることを知りました。そこで将来、ワイナリーを作ることを目指して、今では二つの圃場で植樹を行っています。  ブドウづくりに向けては、耕作放棄地であった農地の賃貸借契約を行い、法人が農業を実施するための定款変更、農地の土づくり、農業やブドウづくりに知見のある職員配置等、多くの課題を一つずつ解決して取り組みを進めてきました。  就労福祉部統括で農福連携を推進している一杉好一さんは「法人に10年以上の農作業経験があったこと、高齢者の集いの場づくりや法人の行事を通じて地元農家さんともつながりがあり、耕作放棄地の相談を聞いていたことが耕作放棄地解消に向けて動くきっかけにもなりました。それからは農協や、田に水を引くための水利組合への加入など、地域と一緒に活動を進めてきたことが法人としての大きな財産です。また、地域とつながることで、農家をしている職員を採用できるなど人材にも恵まれました」と振り返ります。  さらに関東農政局を通じて、県内のワイナリーの紹介を受けることができました。これから秋の醸造を目指して、ブドウの栽培を進めています。 〈写真〉 ブドウの実りが待ち遠しい 〈写真終わり〉 農福推進室の設置  こうした農福連携を重点事業として位置付け、令和5年度からは法人内に「農福推進室」を設置しました。  一杉さんは「一事業所で推進するのではなく、法人として農福連携を発展させ、利用者の工賃向上と地域活性化をしていきたい思いがありました。職員には、農業に関わる就労支援部門や収益部門事業をマネジメントする力、住民との対話、制度の利活用に向けた行政との調整力などが求められます。推進室が主となって、計画的に進めていきたい」と言います。  法人では「農福連関図」(9面・図参照)をはじめ、10カ年構想とアクションプランを作り、自前の醸造施設やレストランの建設など、障害のある人の就労の場、地域住民が集う場を広げていく予定です。 農作業を通じた喜び  一杉さんは「農業は種まきや収穫だけではなく、野菜、果物の成長を見守ることができます。田んぼの稲刈りでは、利用者の方に車イスで入ってもらい、稲穂の匂いを直に感じ、大自然の中で四季の移り変わりを体験する機会になっています」と話します。お米や野菜づくりを通じて、普段の活動とは違う表情で、喜びを表現してくれる様子が多く見られるそうです。 〈写真〉 稲穂の香りを身体いっぱいに感じる収穫期 〈写真終わり〉  また、地元の方々と畑に出て収穫したり、その作物で一緒に料理を作って食べるなど、交流ができることも喜びの一つのようです。 P9 官民・地域と一体的に推進  県(共生社会推進室)は「農福連携マッチング等支援事業」を実施し、出会いの場づくり、農福連携コーディネーター育成等の事業を行っています。光友会の職員も、県の研修を受講し、農福連携コーディネーターとして活動しています。 〈写真〉 10カ年計画への想いを語る一杉さん 〈写真終わり〉  一杉さんは「単なる労働力ではなく、福祉と農業がそれぞれの持ち味を生かした取り組みが必要で、福祉の立場からは、工賃向上も含め、利用者の生活が豊かになるための『福農連携』であることを常に意識しています。行政には農業分野の支援に留まらず、福祉と農業の連携が進む支援策を期待したい」と言います。  光友会の農福推進室では、行政や農協・農園だけでなく、近隣の大学ともつながり、学生と障害のある人たちとの交流や生産物の販売促進への協力等、さらに連携の輪を広げる予定です。  今回の取材では、それぞれの分野が持つ「課題を解決したい」という思いを基に、計画的に進めることで、行政を含め様々な主体との関係が広がり、深まる様子をうかがい知ることができました。農福連携を通じて、更なる地域づくりが進むことが期待されます。 (企画課) P10 県社協のひろば 寄り添い、支える市民後見人―成年後見制度・市民後見人養成事業から  高齢や障害により、判断能力に課題のある方の生活を支える成年後見制度。制度の利用は年々増加しており、令和4年12月末では全国で24万5087名の方が利用と、10年前の平成24年と比べて約1・4倍となっています(グラフ1)。 〈グラフ1〉. グラフ1 成年後見制度利用者数の推移 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」を基に本会作成 〈グラフ1終わり〉  今後、一人暮らしの高齢者や認知症の高齢者の増加、また障害のある方の地域移行などが進み、成年後見制度のニーズはますます高まると考えられ、その新たな担い手として期待されているのが市民後見人です。  市民後見人として活動を行うためには、社会貢献等への意欲が高い住民の方で、まず市町村等が実施する養成研修を受講し、成年後見人等として必要な知識、技術、姿勢を習得し、家庭裁判所から成年後見人等として選任される必要があります。  本会では県より委託を受けて、市町村と連携を行い、基礎研修を本会が実施、実践研修を市町村から委託を受けた市町村社協が実施し市民後見人の養成を行っています(基礎研修から単独で実施している市町村もあります)。  令和4年9月末現在、県内では、15市社協で300名の市民後見人の登録があり、134名が後見人として選任されています(累計では270名)。  家庭裁判所が親族以外を後見人に選任する件数は、全国的に年々増えており(グラフ2)、市民後見人を選任した件数は、10年前の平成24年12月末は118件でしたが、令和4年12月末には2・3倍の271名が選任されています。 〈グラフ2〉 グラフ2 親族後見人と親族以外の後見人の選任割合の推移 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」「成年後見人等と本人の関係」を基に本会作成 〈グラフ2終わり〉  市民後見人の活動としては、本人の意思を尊重しつつ、本人の生活状況に変化がないか、定期的に訪問等を行う、本人に必要な生活費等の入出金を行う、福祉サービスの利用契約・更新等を行うなど身上保護を中心に活動をしています。  市民後見人の活動スタイルとしては、単独選任型(市民後見人が単独で受任する)、複数選任型(市町村社協の法人後見等と複数で受任する)、また専門職や社協の法人後見から受け継いで受任するリレー型などがあります。  なお、養成研修を修了したからといってすぐに市民後見人として活動できるとは限りません。市民後見人として受任を待機している期間には、市町村社協が行っている日常生活自立支援事業の生活支援員として活動をしたり、法人後見の受任案件の支援員として活動をしたりするなど、養成研修で得た知識が後退しないよう、多様な形態の活動の場を用意し、モチベーションの維持に努めています。  また受任後も、養成研修を行った市町村社協等が後見人活動に関する相談に応じバックアップを行っています。  判断能力に不安があっても、住み慣れた地域で生活していくためには、日ごろからの見守り、サービスの利用、金銭管理など多岐にわたる支援が切れ目なく行われる必要があります。  専門職や親族とは異なり、同じ地域に暮らす住民として、成年後見制度の利用を必要とされる方と同じ目線に立ち、寄り添い、支える市民後見人に期待される役割はますます大きくなるといえます。 (権利擁護推進課) ※お住まいの地域により、市民後見人の養成を行っていない場合があります。 P11 Information 役員会の動き ◇監事監査=5月18日(木)①令和4年度事業報告並びに決算報告(案)②任期満了に伴う監事候補者の推薦 ◇理事会=5月31日(水)①正会員の入会申込み②理事候補の推薦③監事候補者の推薦④評議員候補者の推薦⑤各種委員会委員の選任⑥評議員選任・解任委員会委員の選任⑦令和4年度事業報告並びに決算報告(案)⑧令和4年度一般会計他決算補正予算⑨職員給与規程の一部を改正する規程(案)⑩評議員会の招集 ◇評議員選任・解任委員会=5月31日(水)評議員の選任 新会員紹介 【経営者部会】(福)多心会 本会主催の催し 協働モデル事業 多文化高齢社会ネットかながわ  「小さな交流会 あなたの隣の多文化な人々に出会いましょう!話しましょう!」(全7回) ◇日時=第1回令和5年6月29日(木)19時30分~21時 第2回令和5年7月21日(金)18時30分~20時 ◇開催方法=オンライン ◇申込方法=Googleフォームもしくはメールで申込み URL:https://forms.gle/bdwwWYcJnw4xxYsg6 交流会の詳細はHPで確認 HP:http://knsyk.jp/s/shiru/tknk_top.html 関係機関・団体主催の催し 第28回神奈川県弁護士会 人権賞候補者募集  神奈川県内を活動拠点として、すぐれた人権活動を行っている団体・個人を、候補者としてぜひご推薦ください。 ◇受付期間=令和5年6月1日(木)~7月31日(月) ◇推薦方法=候補者推薦書及び関係資料を郵送または持参 詳細はHPで確認 HP:https://www.kanaben.or.jp/news/event/2023/-28.html ◇問合せ=神奈川県弁護士会 業務課「人権賞」係 TEL  045-211-7705 寄附金品ありがとうございました 【交通遺児等援護基金】(一社)神奈川県指定自動車教習所協会 【子ども福祉基金】脇隆志 【ともしび基金】古積英太郎  (匿名含め、合計9件981,321円) 【寄附物品】(公財)報知社会福祉事業団 【ライフサポート事業】 〈寄附物品〉(N)セカンド・ハーベストジャパン (いずれも順不同、敬称略) みんなのいいね 読者投稿コーナー 読者の皆様からの街や職場などで見つけた“ほっとするもの”の写真投稿を募集します。 お写真とともに、一言メッセージ(50字程度)をお寄せください。  採用された方には、ささやかですが、図書カードをお送りいたします。 投稿は①写真②一言メッセージとタイトル③氏名④住所⑤連絡先を記載して、以下の宛先までお送りください。皆様の投稿をお待ちしております。 【投稿先】 フォーム:https://forms.gle/ewcHVoPHN44ocUPDA 郵送:〒221-0825横浜市神奈川区反町3丁目17-2神奈川県社会福祉センター7階 タイムズ読者投稿係 〈写真〉 I ☆ YOKOHAMA 横浜DeNAベイスターズ25年ぶりの日本一に向けて応援します!(UTさん・横浜市) 〈写真終わり〉 P12 かながわほっと情報 サポートする人もされる人も、みんな一緒に楽しむサーフィン (一社)サーファーズケアコミュニティNami-nications  認知症になってもサーフィンをしたい、障害があるけど一度でいいからサーフィンをしてみたい。そんな人たちと一緒に海に入り、サーフィンを楽しむ活動をサポートしているのが(一社)サーファーズケアコミュニティNami-nicationsです。  代表理事の柴田さんにお話をお聞きしました。  「もともとは、医療や福祉に従事するサーフィン好きが7~8人集まって作った、ナミニケーションズというサークルでした」。そんな仲間が毎月集まってサーフィンを楽しんでいたところ、認知症当事者の川名賢次さんと出会いました。川名さんは大会に出るほどサーフィンが好きでしたが、若年性認知症になってからはサーフィンはやめていたそうです。そんな話を川名さんの奥様の裕美さんから聞いた柴田さんたちは、川名さんをサーフィンに誘いました。  発足当時からのメンバーで理事の嘉山さんは「ここからナミニケーションズは第2章に入りました」と言います。川名さんのサーフィンを、医療や福祉の専門家でもあるサーファーの仲間がサポートしながら、皆で楽しむサーフィンが始まったのです。裕美さんも「まさか主人がもう一度サーフィンができるとは思っていませんでした。でも、ここなら安心して任せられます」と嬉しそうに言います。  それからは、さまざまな障害のある方々やその仲間が集まるようになり、今では会員が100名を超える団体へと成長しました。神奈川周辺だけではなく、京都や群馬からも毎月集まって来る会員もいます。メンバーの熊谷さんは「ナミニケーションズの強みである医療従事者のサポートを訴求して、これからも活動を広げたい」と言います。  さらに、デザイナーとして活躍している熊谷さんが編集長となり、社会にとって、よりよい取り組み、ヒト、モノを発掘し特集するお洒落なフリーペーパー「Nami+(ナミプラス)」を湘南エリアを中心に発行するようになりました。ダイバーシティ&インクルージョンなお店や、障害があってもサーフィンを楽しんでいる人やその家族が紹介されています。海のつながりを、街の中に広げて共生社会の実現を目指しています。  最後に活動の魅力について柴田さんにお聞きしました。「海にいることの気持ちよさ、波に乗ることの楽しさ。それは、障害の有無に関係ありません。みんな同じ仲間として一緒にサーフィンを楽しんでいるだけです」。ここには、沢山の笑顔が集まるサーフィンの新しい楽しみ方がありました。(企画課) 〈写真〉 後列左から、嘉山さん、熊谷さん、柴田さん、前列左から川名賢次さん、裕美さん(撮影:菊地信夫) 〈写真終わり〉 「福祉タイムズ」は、赤い羽根共同募金の配分を受けて発行しています バックナンバーはHPから ご意見・ご感想をお待ちしています!→https://form.gle/74aewHkEfzQ9ybJQ8 【発行日】2023(令和5)年6月15日(毎月1回15日発行) 【編集発行人】新井隆 【発行所】社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 〒221-0825 横浜市神奈川区反町3丁目17-2 TEL 045-534-3866 FAX 045-312-6302 【印刷所】株式会社神奈川機関紙印刷所