テキストデータ作成に当たって  このデータは、『福祉タイムズ』 vol.863 2023年10月号(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。  二重山カッコは作成者注記です。 P1 福祉タイムズふくしTIMES 2023.10 vol.863 編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 特集 地域で「本人らしい生活」を支える~関係機関・団体との連携による権利擁護支援~ NEWS&TOPICSP4 津久井やまゆり園との福祉教育の取り組み P5 社会福祉活動に統計データのご活用を 連載 P8 ハザマの福祉課題-① 今月の表紙 横浜市を中心に活動する障がい者野球チーム「横浜メイキングス」の練習風景。 年齢や性別、障がいの有無は問わず「愉しむ」ことを目標にしている。【詳しくは12面へ】撮影:菊池信夫 ################################################## 特集 地域で「本人らしい生活」を支える~関係機関・団体との連携による権利擁護支援~  日常生活自立支援事業(以下、日生事業)は、本人の自己決定を尊重しながら、市町村社会福祉協議会において一人ひとりに寄り添ったきめ細かい支援を行っています。  日生事業は対応できる範囲に限りがあることから、地域で本人らしい生活を支えるうえでは関係機関・団体との連携は不可欠ですが、分野や領域を超えたつながり、関係機関・団体の特性や役割等についての相互理解が不十分な部分もあり、スムーズな連携や協働が難しい場合もあります。ここでは、本会や市町村社協における取り組みを紹介しながら、更なる権利擁護の推進に向けて、関係機関・団体との連携による権利擁護支援について考えます。 「地域生活への移行」における利用者像の変化  福祉サービスが「措置制度」から「契約制度」へ変わったことから、認知症や障害等により判断能力が不十分な方は、利用者自身でサービスに関する情報を収集し、その中から選択して利用料を支払うという一連の流れが難しい場合があり、サービス提供者と対等な関係と言い難い場合になることがあります。そこで平成11年に、判断能力が不十分であっても、自らが主体的に福祉サービスを選択し、利用することを支援するサービスとして創設されたのが日生事業です。  日生事業は、市町村社協と利用者との契約により、福祉サービスの利用援助を中心に、日常的な金銭管理や、重要書類等の預かり・保管などの支援を通して、利用者の権利擁護を図ることを目的としており、都道府県・政令指定都市社協を実施主体とするもので、本会では県内30市町村社協(政令指定都市を除く)に事業の一部を委託しています。  利用者の傾向として、以前は認知症高齢者の契約者数が多い傾向にありましたが、近年、精神障害のある方の利用が増えています。平成24年度末時点の契約者件数のうち20%が精神障害者でしたが、令和4年度末時点では33%と割合が高くなっています。  精神障害者の割合が増加した理由として、精神障害のある方が病院や施設等から、地域で安心して自分らしい暮らしを実現する地域生活への移行が進んできたことや、関係機関・団体の日生事業に関する理解が深まり、サービスを必要とする方の利用につながっていることが考えられます。 地域における「本人らしい生活」を支える一人ひとりに寄り添った支援  日生事業は事業名にあるように「自立」を「支援」する事業であり、本人の自己決定を尊重しながら一人ひとりに寄り添ったきめ細かい支援が求められます。  ここでは「金銭管理が難しい」という、実際にあった2つのケースをご紹介します。 〈棒グラフ〉 神奈川県域(政令指定都市除く)利用者状況 〈棒グラフ終わり〉  「金銭管理が難しい」という言葉の裏には「障害により自身で行うことが難しい」という場合と、「これまで自身でお金の管理をした経験がないため難しい」という場合の2つが考えられます。  前者のケースでは、1カ月5万円の生活費でやり繰りしなければならないところ、2週間で使いきってしまい、計画的にお金を使うことが難しい方がいました。この方は、緊急時のために少しでもお金を貯めたいという目標があります。そこで、生活支援員が毎週訪問し、封筒に使途別に小分けにした1週間分のお金を渡し、本人に理解しやすくしたこと、加えて、収支を利用者と確認することにしました。その結果、使いすぎてしまうことは減っていき、少しずつ貯金もできるようになりました。  後者のケースでは、金融機関の手続きに関して、利用者とともに市町村社協が金融機関に同行しながら手続きを見守り、利用者の状況に応じて支援回数を月4回から月1回へと段階的に減らしていきました。そして、最終的にはこの事業を卒業(契約終了)し、自立することができました。  利用者の状況は一人ひとり異なっています。後者のように、これまでの生活の中で金融機関での手続きの経験がないだけの場合もあるので、できないことを前提とするのではなく「利用者の強みやできることはなにか」「どのような部分が難しいと感じているのか」等、利用者のこれまでの人生や現在の置かれている環境に配慮しながら、一人ひとりに寄り添ったきめ細かい支援を行っています。 〈囲み〉 日常生活自立支援事業・成年後見制度については、本会HPからご確認ください https://www.knsyk.jp/service/kenri/jiritu_sien P3 関係機関・団体との連携による支援 【利用者と社協が面会できない場合】  コロナ禍でも利用者の生活は立ち止まることなく続き、市町村社協においても試行錯誤をしながら支援を継続してきました。  本会へ寄せられた相談で特に多かったのは、入院・施設入所中の面会制限により利用者と面会できない場合の対応です。中でも難しい点は、お金の受け渡し方法や、契約継続に関することなど、主に利用者の意思確認の方法に関することでした。日生事業は、利用者と社協の契約によるサービスのため「利用者の意思」が支援の根拠となります。  利用者と直接会い意思を確認できないとき、病院や施設の職員を介したお金の受け渡しや、オンライン会議システムを利用した本人の意思の確認など、契約締結能力が喪失し病院や施設の協力により、コロナ禍という緊急事態においても、本人の意思を確認しながら支援を継続することができました。 【契約継続が難しい場合】  日生事業は契約条件の一つに「契約締結能力を有すること」があり、この契約締結能力は国で定められた「契約締結判定ガイドライン」により市町村社協が判断します。契約後、契約締結能力が喪失し病院や施設利用者の意思確認が困難になった場合は、 契約を継続することができません。  契約締結能力喪失後は成年後見制度の利用を検討することになりますが、日生事業の利用者は身寄りがなかったり、親族がいても頼れない方が多く、成年後見制度の利用にあたっては、市町村行政をはじめとする関係機関・団体との連携・協力が不可欠となります。  一方で、日生事業から成年後見制度への移行がスムーズではないという声もあり、市町村社協においても、弁護士や福祉の専門家による契約締結審査会での助言等により、親族や市町村長申立てに向けた市町村行政等との調整に取り組んでいます。 「自分自身の生き方を自分でみつけていく」過程を地域で支える  日生事業には対応できる範囲があり、日常生活に関する全てに対応できるというわけではありません。同様に、サービスを提供する関係機関・団体も、自機関・団体で対応するだけでは十分な支援ができない場合も少なくないと考えられます。個々の機関・団体だけでは対応できない部分は、利用者にとって何が必要かを共有した上で、支援者間で役割を分担することが求められており、本会では、事例を共有する場(ケースカンファレンス等)に弁護士や社会福祉士等の専門職を派遣し、地域の権利擁護のネットワーク形成を支援しています。  判断能力が不十分な方が自分らしく生きることを、制度やサービスの都合により諦めたり、侵害されたりすることなく、地域で「本人らしい生活」を営み、自分自身の生き方をみつけていくことができるよう、関係機関・団体の皆様にご協力をいただきながら、市町村社協とともに日生事業をはじめとする権利擁護の推進に取り組んでまいります。 (権利擁護推進課) 〈コラム〉 「権利擁護とは?」と聞かれた際に、どのように応えますか。様々な考え方や解釈がありますが、一つご紹介します。  生命や財産を守り、権利が侵害された状態から救うというだけでなく、本人の生き方を尊重し、本人が自分の人生を歩めるようにするという本人の自己実現に向けた取り組みを保障するものでなければならない。本人を保護したり庇護することが権利擁護なのではなく、自分の置かれた環境を自らが変えていく主体者として本人を位置づけることを意味するもの。 『「個と地域の一体的支援のためのケースカンファレンス」ハンドブック』発行:本会、平成26年 〈コラム終わり〉 P4 NEWS&TOPICS 津久井やまゆり園との福祉教育の取り組み-自分の言葉で考えるために  相模原市社会福祉協議会では、「みんないいひと体験講座」という名称で福祉教育事業を推進しています。令和4年度より「共生社会」をテーマに、障害者支援施設津久井やまゆり園とともにプログラムを考案しました。  講師を務めるのは永井清光園長と職員の皆さん。授業の構成は質疑応答を含め約100分。「障がいとは」「福祉施設と地域の関係」「施設で働く職員の思いやエピソード紹介」「夢を実現するための取り組み」「施設紹介/インタビュー動画視聴」「ともに生きる社会かながわ憲章を考える」など、様々な視点が散りばめられています。受講者と双方向の対話の場をつくることで、自ら考えるきっかけを生むことを意識しました。教員を含めた全校生徒で受講した学校もあり、学年を超えて共通のテーマで考え、学びを交換しあうことができました。 〈写真〉 「ともに生きるってどんなことだと思う?」職員が生徒に語りかけながら、言葉を引き出していく 〈写真終わり〉  福祉教育では、障がいの体験セットを用いることにより怖さや不便さを体感し「まちの中で困っている人を見かけたら助けてあげよう」とまとめ「今日学んだことを今後に活かしたい」と感想を述べる、従来から行われていたひとつのフォーマットがありました。しかし、福祉教育は一方的に答えを与えるものではありません。一律の模範解答ではなく、感じたことを自らの言葉で語り考えること。そのスタートラインを設定することを心掛けています。器具を使用することや身体感覚に関するものだけが〝体験〟ではなく、出会い、考えをめぐらせ、言葉を交わすこともまた大切な体験ではないかと考えます。  今回「共生社会」の講座を受講した生徒の感想シートは、枠内に収まらないくらいの言葉で埋め尽くされていました。身近な家族のこと、クラスメイトと交わした言葉、それぞれの日常の経験の意味をあらためてふりかえる時間になったようです。 〈囲み〉 受講生の感想 「みんなの中にある苦手が少し違うだけ。助けたり、助けられたりに障がいは関係ない」 「支援級に通う友達と一緒にかき氷を食べたことや、握手したことを思い出した」 「表に現れない感情や気持ちも感じ取ったうえでコミュニケーションを図ることが大切」 「筆箱を落としたら拾う。ともに支え合うことも同じように当たり前になればいい」 「共生社会に答えはない。一人ひとり考えることが大切」 「知りたいと思えば、私たちにできることはたくさんある。その意思を持ち続けたい」 〈囲み終わり〉 ―永井園長に本講座への思いを話していただきました。  「私は『共にささえあい 生きる社会』という相模原市のキャッチフレーズが好きで、〝ささえあい〟という箇所を大切にしています。子どもたちには、〝助けてあげる〟という一方的な関係性ではなく、支えたり支えられたり、私たちは一緒なんだということを伝えていきたいと考えています。これからの世の中を変えていくのは子どもたちです。その価値観が成長する過程に関わることにやりがいを感じています。子どもたちが自分の考えを聞かせてくれることが嬉しいです。自分が園長を務めている限りは継続し、相模原市全域で話をしてみたいです。そして、受け取った思いをまた誰かに伝えてもらうことで、考える人を増やしていきたいです」。 ◆ ◆ ◆  津久井やまゆり園との取り組みを開始するにあたっては「相模原=事件」のイメージが先行することなく、目に見えない障がいについて考えることに重きを置きました。受講者にどのような言葉や表現で伝えていくことができるか、「障がいのある人」というカテゴライズによる理解ではなく、いかにエピソードを盛り込むことができるか。社協と地域の福祉施設がアイデアを出し合い、ともに考える場としても福祉教育は機能していきます。  相模原市社協は令和5年度より緑区・中央区・南区各区に福祉教育担当者を配置し、さらに地域性のあるプログラムづくりを目指しています。「共生社会」をテーマに新たな福祉施設との協同実践も始まっています。今後は福祉教育に携わる者同士の検討の場(プラットフォーム)が広がっていくように働きかけながら、福祉教育が地域の皆さんにとっての参加の場になるように取り組んでいきたいです。(相模原市社協) P5 NEWS&TOPICS 社会福祉活動に統計データのご活用を-10月18日は統計の日です  近年、国では「骨太方針2023」で「EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング、証拠に基づく政策立案)を通じた、成果につながる賢い財政支出の徹底」を掲げる等、EBPMを推進しています。  県でも、限られた予算・資源のもとで政策効果を最大限発揮させるため、EBPMの考え方を導入しています。  とは言っても「データ分析はハードルが高そうだな…」と思われる方も多いのではないでしょうか。そこで、来る「統計の日」や、社会福祉活動と統計データの関係についてお話します。 統計の日  「統計の日」は、統計の重要性に対する国民の関心と理解を深め、調査へのご協力の推進を目的に定められました。国や地方自治体では「統計グラフ全国コンクール」等、多様な取り組みを行っています。 〈写真〉 令和5年度統計の日ポスター 〈写真終わり〉  皆様には、日頃から国勢調査など様々な統計調査にご協力いただき、あらためて感謝申し上げます。 統計データから読み取れること  では、統計データから社会の姿がどのように読み取れるのか、その一部をご紹介します。 ●本県も人口減少社会へ  県では「神奈川県人口統計調査」により、毎月1日現在の人口と世帯を公表していますが、令和3年10月1日現在の人口総数(約923万6千人)が、調査開始以来初めて前年同月比で減少となってから、減少傾向が続いています。  また、令和5年1月1日現在の「年齢別人口統計調査」結果を見ると、年少人口(0~14歳、約104万7千人)、生産年齢人口(15~64歳、約564万人)、老年人口(65歳以上、約232万6千人)は、調査開始時(昭和51年)からそれぞれ59万3千人の減、120万2千人の増、198万5千人の増となり、少子高齢化の傾向となっています。  さらに、世帯の状況について「令和2年国勢調査」結果を見ると、総世帯数は約422万4千世帯と過去最多となったのに対し、1世帯当たり人員数は2・19人と過去最少となっており、核家族や単身世帯の増加が見られます。 ●物価高で家計は逼迫  「家計調査報告(令和5年7月、全国値)」によると、物価変動による影響を考慮し修正した実質所得から税金や社会保険料等を除いた可処分所得(2人以上の勤労者世帯の計、約51万3千円)は、前年同月比6・4%減と、10カ月連続の減少です。昨今の物価上昇による実質的な所得減で、家計が使えるお金はこの1年で縮小しているといえます。 ●介護・看護離職の増加  「令和4年就業構造基本調査」によると、育児をしながら働ける環境整備が一定程度進んだ等の理由で、働く女性は約3035万人(全国値)と過去最多になった一方、家族の介護や看護を理由に過去1年間に離職した人は男女合わせて約10万6千人(全国値)で、5年前調査から約7千人増加しました。 ●増加する空き家問題  「平成30年住宅・土地統計調査」によると、本県の空き家は約48万5千戸と、調査以来初めて減少しました。  一方、空き家の内訳をみると、売却用や賃貸用を除いた空き家が、前回調査(平成25年)から約1万5千戸増となっており、管理されない空き家の増加が懸念されます。 おわりに  県統計センターでは、これらに加え様々な統計データを県HPにて公表しています。HPには「本県は通勤・通学時間が全国1位(平均1時間41分!)」等をまとめた「ランキングかながわ」等も公表しています。ぜひご覧いただき、統計に親しんでいただければ幸いです。(県統計センター) 〈囲み〉 県統計センターHP https://www.pref.kanagawa.jp/docs/x6z/index.html 〈囲み終わり〉 P6 福祉のうごき 2023年8月26日~2023年9月25日※新聞等掲載時点 ●精神障害 労災認定見直し  厚生労働省は9月1日「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正した。この基準は、仕事が原因でうつ病など精神障害を発症した場合における労災認定の基準であり、12年ぶりに改正された。認定のハードルが高いとされた「症状の悪化」時の基準が緩和され、救済される範囲が広がる。これまでは、悪化時の認定は約6カ月以内に「極度」の心理的負荷や長時間労働が必要とされていたが、加えて通常の精神障害を引き起こす程度の負荷で労災を認めるケースがあることを明記した。 ●社会福祉協議会の訪問介護220カ所休廃止  社会福祉協議会で運営する訪問介護事業所が過去5年間に少なくとも約220カ所、休止や廃止されたことが9月2日、共同通信の調査で分かった。5年間で約13%減り、現在は約1,300か所。都市部で民間事業者との競合で撤退するケースもあるが、多くはヘルパーの高齢化や人手不足、事業の収支悪化などが影響している。 ●厚労省「使用者による障害者虐待の状況等」公表  厚生労働省は9月8日「令和4年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表した。障害者を雇用する事業主や職場の上司など、いわゆる「使用者」による虐待が認められた障害者数は、前年度と比べ30.7%増加し、656人となった。 ●全社協 虐待根絶の取組紹介サイト開設  全国社会福祉協議会の社会福祉施設協議会連絡会は9月15日、福祉施設による虐待や権利侵害を根絶するため、福祉現場の取り組みを発信する「虐待・権利侵害根絶取組事例紹介サイト」を開設した。今ある問題に向き合い、取り組みを共有して学びを深めることで、よりよい福祉の実現を⽬指している。 ################################################## P7 私のおすすめCHECK! ◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。 私の本棚  実りの秋、スポーツの秋、そして、読書の秋。  皆さまの本棚には、どんな本が並んでいますか?  今回は、ピアサポートよこはまのサポーターの本棚に並んでいる本についてご紹介します。 『言葉はいのちを救えるか?:生と死、ケアの現場から』岩永直子著・晶文社 『大ピンチずかん』鈴木のりたけ著・小学館 『スリー:3ぼんあしのしあわせなイヌのおはなし』スティーヴン・マイケル・キング著 神野三鈴訳・イマジネイション・プラス 今月は→ピアサポートよこはまがお伝えします! がん体験者が、がん患者と家族の相談支援活動をする団体です。県との協働事業からスタートし、その後も自主運営として継続、13年間で約1,800件の相談を受けてきました。主に電話相談、面談、サロンなどを行っています(現在はオンライン)。 〈連絡先〉URL:https://peer-support.wixsite.com/yokohama URL:https://ameblo.jp/peer-yokohama/ ◆私の本棚1『言葉はいのちを救えるか?』  ピアサポートよこはまが事業を始めて1年目、「KADOBEYA」と呼ばれていた頃に読売新聞からの取材を受けた。記者はこの本の著者の岩永さん。ピアサポートという言葉もあまり知られていない、病院以外の場所で行うなど大変珍しかった。記事には個人情報満載、写真も必要だという。お断りを重ねたが、7月の猛暑の中、彼女は私たちの活動を道を隔てた所から見守り、サポートが終了すると再度取材を申し込まれた。その熱意と明確な視点の取材に応えながら記事にしていただいた。  掲載後、全国から電話が鳴り響いた。「この記事を切り抜き仏壇に貼っておきます。再発したらよろしくお願いいたします」という方まで現れた。たった一つの記事でなぜ私たちをこんなにも信頼していただけたのかずっと不思議だった。  この本を読み岩永さんの医療記者としての言葉による救済の表現は温かく、的確であることに感動した。彼女の立ち位置はいつも患者、障害者等の傍らにいる。仲間として共に悩んでいる。  ピアサポートも言葉でしかコミュニケーションが取れない。電話の向こう、zoomの画面越しに相手の言葉をどこまで聴きとり、自分の言葉をどこまで届けることができるのか。そのやり取りの繰り返しの13年間であった。  震災、コロナがあってもピアサポートよこはまが継続できているのはきっと最初の記事の書き手の魂が私たちの活動に吹き込まれたからなのかもしれない。「言葉はいのちを救える」と信じて。 ◆私の本棚2『大ピンチずかん』『スリー』  私は、大人になってからも絵本が大好きです。紙とインクの匂い、ページの手触り、読みやすい文字の配置、綺麗な色の挿絵、などなど。手にしたとたん一瞬で絵本の世界に引き込まれてしまいます。  最近読んだお気に入りの絵本を二冊ご紹介します。  一冊は、『大ピンチずかん』。絵本の賞を多数受賞されています。子どもにとって一大事、どうしよう?そんなピンチがユーモラスに描かれているのですが、実はどれも大人にもよくあること。表紙にもなっている牛乳をこぼすシーンなどは、「ある!ある!!」と思わず膝をたたいて笑ってしまいました。子どもよりも、むしろ大人に(それも、私のようなちょっと年かさの)「よくありがちよね、そう!そう!」と大いに共感、苦笑いしつつ読み進みました。ピンチの「なりやすさ」が星の数で、「大ピンチレベル」は数字で表されていて、これも深く共感できます。  気楽に短時間で読めて、何度読み返しても面白い。ちょっと気分転換したいときにピッタリの1冊です。  もう一冊は、『スリー』3本脚の犬のお話です。  がんになって失ったものばかりを数えていた私に、スリーは、たくさんのことを教えてくれました。私もスリーのように、今ある幸せを大切にして生きていきたいなぁと思います。  わかりやすい優しい表現だからこそ、心に響くものがあります。絵本には「明日もがんばろう!」と思わせてくれる言葉の力がつまっているように思います。 P8 連載 ハザマの福祉課題 【第1回】更生保護と福祉の連携を、一人ひとりの生き方に寄り添って―更生施設甲突寮・更生保護施設横浜力行舎の実践(横浜市磯子区)  生活課題に対応する制度やサービスが広がる中で、一人ひとりのニーズに対応ができない狭間の課題が生まれる状況があります。今号からの新たな連載「ハザマの福祉課題」では、法制度や支援の狭間となっている福祉課題と、それに向き合う実践活動を取り上げます。  今回は、生活困窮者支援や更生保護活動を行う更生施設甲突寮と更生保護施設横浜力行舎の施設長の中村和之さんにお話を伺いました。 ※事例は一部加工しています  社会福祉法人幼年保護会にて更生施設甲突寮(以下、甲突寮)を、更生保護法人横浜力行舎にて更生保護施設横浜力行舎(以下、力行舎)を運営しています。両法人は姉妹法人で、両施設は同一敷地内にて隣接しており、利用者同士の交流を図りながら支援が行われています。  両法人は、有馬四郎助氏による小田原市内での更生保護活動(明治39年)が始まりです。力行舎の前身に当たる更生保護施設は明治43年に設立され、そのアフターケア施設として、昭和39年に甲突寮が設立されました。設立当初から、更生保護と福祉との連携が長く行われています。 ●甲突寮、横浜力行舎の特徴  甲突寮は、生活保護法に基づいた更生施設で、身体障害や精神障害、依存症等を背景に、生活上の不安がある人が利用する入所施設です(定員50名・男性のみ)。それぞれにあった生活訓練や毎月のレクリエーションが行われる他、利用者の方によっては、依存症回復のための当事者会活動への参加がプログラムになっています。  力行舎は、刑務所を出所した人が、地域での自立生活を目指して利用する法務省管轄の施設です(定員19名・男性のみ)。入所期間は6カ月と定められ、自立に向けた生活訓練や就労支援を行う施設となります。  刑務所出所後に帰住先がなく、支援が必要な障害のある人や高齢者を受け入れている力行舎は、全国からの利用があります。入所期間の定めがありますが、その期間を超えて支援が必要な場合、甲突寮を利用して福祉的支援を行うケースがあるそうです。  中村さんは「昨今、刑務所出所者に対する司法と福祉の連携が注目されていますが、私たちが長く取り組んできた実践に、時代が追いついた感じがします。生活に困窮したり犯罪につながってしまうご本人の背景を理解し、『地域で生活することの困難さ』に着目し、福祉や医療との連携がますます重要になっています」と言います。 ●個別支援での課題  甲突寮では、個別支援計画に基づいた支援を行います。退所後に向けた就労支援と併せて、福祉サービスの利用につなげる支援が多くなっているそうです。支援の中で、療育手帳の取得を試みますが、その人の過去の経緯をたどることが難しく、取得に至らない状況もあります。  力行舎は75歳を超える人が利用するなど、高齢者への支援が求められることが出てきています。しかし、介護職員が配置されているわけではなく日常生活上の支援が難しくなっています。また、福祉サービスの利用調整を職員が担うことになります。 〈写真〉 施設長の中村さん。保護司でもあり、地域への橋渡し役として、地区保護司会のHPを担当し、更生保護の理解啓発にも尽力している 〈写真終わり〉  中村さんは「家族の支援が得られにくいため、健康保険証の発行や年金給付の確認など、職員には福祉制度や医療制度の知識が多く求められます」と言います。  力行舎での支援上の課題で特徴的なものとして、刑務所出所後の医療受診の継続が挙げられます。出所時に処方される薬は数日から1週間分。精神疾患がある場合、服薬が途切れることで生活面への影響がありますが、職権で住民票が削除されているため保険証がすぐに入手することができないことや、新たに精神科病院を探したりと、課題は山積します。  退所後に向けて、入所の時と同じ病院に通院できるよう、病院の近くの住まいを探すなど、ご本人の状況に合わせた支援を行うことにより、その後の生活の安心感につながっています。  法人としては「地域とのつながり、本人の居場所となる場を確保する」ため、令和2年度から障害者グループホームを運営するなど、活動を広げています。 P9 ●支援の狭間とは何か  中村さんは「長年支援を続けてきた中で、本人に必要な福祉や医療的な支援が要件に当てはまらず利用できない時だけでなく、本人が置かれた状況によって、制度につながらない場合も支援の狭間の課題として存在するのではないか」と言います。  「生活を支える制度は多岐に渡り、市民はどのような支援があるか分かりません。また、知的障害や精神障害などがあり、ご自身が行政などの相談機関に出向き、適切にニーズを伝えることは難しく、制度利用につながらない方が大勢います。 〈写真〉 毎月行われるレクリエーション(夏祭り)の様子 〈写真終わり〉  また、甲突寮のAさんと力行舎のBさんは、過去に同じ刑務所に入っていました。お互い刑務所を出所し10年が経ち、施設で偶然の再会となりました。 Aさんは出所後から福祉や医療とつながり、精神科病院から地域移行を目指して甲突寮に入所してきました。Bさんにも精神疾患がありましたが、出所後から支援を受けることなく、お金や住まいがなくなると、無銭飲食やお店の軒下で夜を過ごすなど、再犯となり、力行舎に入所してきました。  出所後の環境が違えば、送る人生が変わる、というのを改めて教えられた事例です。Bさんは世間や社会を信じきれなくなっていました。支援を通じて、失敗しても受け止める支援があることを体感してもらい、Bさんがもう一度、社会を信じ、これからの人生を送るための土台ができたらと思っています」と中村さんは語ります。 ◆ ◆ ◆  本会が毎年行う政策提言に向けた課題把握調査では、出所者支援における更生保護(司法)と福祉が連携した事例を積み上げる必要性が挙げられています。そこからは、社会的孤立の状態が、生活困窮や犯罪へとつながっている状況がうかがえます。制度や支援の狭間に対してご本人の状況に応じて、どのような支援を活用できるのか、柔軟な運用ができるのか、ご本人が住みやすい地域で、司法・福祉・医療などによる連携が広がることが期待されています。 (企画課) P10 県社協のひろば 社会福祉従事者としての共通基盤を学ぶ入り口に―新任・中堅 福祉・介護施設等職員合同交流・研修会  仕事をしている中では、壁に当たってしまった時などに「この仕事が向いていないのでは」と感じる事もあるでしょう。そのような気持ちになった時、受けた研修が悩みを解決する糸口になり、仕事に対して前向きにさせてくれることがあります。  福祉研修センターでは、社会福祉従事者として共通基盤となる価値・知識・専門性を各階層に応じて学ぶ「基幹研修」、組織内でそれぞれの役目に対応した「階層別課題研修」、専門職としてのスキルアップを目指す「職務別研修」、介護支援専門員、サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者向けの法定研修など、様々な研修を開催しています。(「研修マップ」の構成(概略)参照) 〈写真〉 中堅職員合同交流・研修会では、中堅職員が担う役割等を考える 〈写真終わり〉  基幹研修では全社協のキャリアパス対応生涯研修過程のカリキュラムに加え、新任・中堅職員が、日々の仕事を振り返り、これからの自分の姿を考えることを目的とした「新任福祉・介護施設等職員合同交流・研修会」「中堅職員合同交流・研修会」(以下、合同交流研修会)を県から委託を受けて実施しています。今回は合同交流研修会を中心にご紹介します。 実務経験が近いから共感できる  合同交流研修会は、社会福祉従事者としての共通基盤を学ぶきっかけとなっています。ここからキャリアパス対応生涯研修課程や、組織の中での役割を担うための研修、専門性を高めるための研修等を受講し、一緒に参加した受講生と意見を交わし、考えることで、社会福祉従事者として力をつけ、仕事の良さを再確認でき、今後の仕事への取り組みも変わってくると思います。  受講生個々の業務や状況が違っていても、実務経験期間が近い事から「自分も同じような事があった」「自分だけなく他の人も同じような事で悩んでいる」と抱えていた悩みが共感でき、受講者からは「解決する糸口を見出せて、仕事に対するモチベーションが上がった」という感想がありました。  合同交流研修会は、受講料は無料で、参加者、送り出す施設側両方に負担の少ない日数・時間、開催会場も横浜だけでなく、今年度は、湘南、県央、西湘地区等で開催しており、高齢・障害・児童等の分野・職種・勤務地を超えて、経験年数が近い受講者が受講しています。  ◆ ◆ ◆  福祉研修センターでは、県域の研修実施機関として、これからも各階層に応じて受講生同士が学びあい、自らの仕事に、改めて誇りや魅力を感じられる研修を開催してまいります。(福祉研修センター) 〈図〉 「研修マップ」の構成(概略) キャリアパス対応生涯研修 初任→中堅→チームリーダー→管理者 階層別 キャリアパス研修に付随して階層に応じ必要な行動やマネジメント力を磨く研修 職務別 相談技術、介護技術、会計簿記等、職種に応じ必要なスキル、専門性を磨く研修 ↑ 職員が定着する職場づくりやマネジメントの支援+一人一人が福祉のプロフェッショナルとして成長するための支援 価値と倫理を根底とした実践 〈図終わり〉 〈囲み〉 福祉研修センター研修マップの詳細はこちら 〈囲み終わり〉 〈囲み〉 最新の研修情報は、ホームページをご覧ください 〈囲み終わり〉 P11 Information 本会主催の催し 協働モデル事業 多文化高齢社会ネットかながわ 「多文化高齢社会ネットかながわ 小さな交流会 あなたの隣の多文化な人々に出会いましょう!話しましょう!」(全7回) ◇日時=第5回 令和5年11月7日(火)19時30分~21時 ◇開催方法=オンライン ◇申込方法=Googleフォームもしくはメールにて申込み URL:https://forms.gle/bdwwWYcJnw4xxYsg6 講座の詳細はHPで確認 HP:https://ja.padlet.com/tknkyukka2021/tknk-bh4hgxgs4jo6gjb6 福祉のしごと 地域就職相談会in横須賀 ①福祉のしごと就職支援ガイダンス ②福祉施設就職相談会 ◇日時=令和5年11月21日(火)12時30分~16時 ◇会場=横須賀商工会議所 ◇参加費=無料 詳細はHPで確認 HP:https://www.kfjc.jp/event/detail.asp?id=20899 ◇問合せ=かながわ福祉人材センター TEL 045-312-4816 寄附金品ありがとうございました 【県社協への寄附】古積英太郎 【子ども福祉基金】脇隆志、(株)ラングランズ 【ともしび基金】(福)日本医療伝道会総合病院衣笠病院、そうてつローゼン港南台店 (合計5件234,879円) 【寄附物品】アイエムシー音楽出版 【ライフサポート事業】〈寄附物品〉  (N)セカンド・ハーベストジャパン、(福)みなと舎 (いずれも順不同、敬称略) 〈写真〉 プロ野球、サーカスの招待券を寄贈いただき、令和5年9月29日、(公財)報知社会福祉事業団 要浩一郎事務局長(左)に感謝状を贈呈 〈写真終わり〉 〈囲み〉 今月号の「みんなのいいね」はお休みいたします。引き続き投稿を募集しています! 〈囲み終わり〉 〈囲み〉 訃報 本会元副会長である鈴木立也様(横須賀市社会福祉協議会元会長・享年86歳)が9月13日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。 〈囲み終わり〉 〈囲み〉 ホームページリニューアルのお知らせ 神奈川県社協ホームページをリニューアル、かながわボランティアセンターホームページを新たに開設しました。新しくなったホームページをぜひご覧ください! ホームページは、赤い羽根協同募金の配分を受けて作成しました。寄附者の皆様にお礼申し上げます。 県社協HP https://www.knsyk.jp ボランティアセンターHP https://knvc.jp/ P12 かながわほっと情報 さあ、仲間が待っている!誰でも一緒に 障がい者野球チーム 横浜メイキングス(横浜市金沢区)  「横浜メイキングス」は、横浜市を活動拠点とする障がい者野球チームです。代表理事の小原雅己さんにお話を伺いました。  小原さんは高校まで野球をやっていましたが、大学生の時、心臓に異常が見つかり、後に人工弁の手術をし、障害認定を受けました。  その後「野球をやりたい」という障がいのある小学1年生の男の子との出会いをきっかけに、その子とお母さん、他に障がいのある大人と小原さん、合計6人で「横浜メイキングス」を結成。障がいのある本人が考えて立ち上げ、自らで運営をしてきました。 〈写真〉 練習日ごとに練習キャプテンを決め、声出しを行う 〈写真終わり〉  その横浜メイキングスは、現在選手63名、総数125名と、大きなチームとなりました。その理由を小原さんは言います。「ここは、身体や知的、発達障がいと、さまざまな障がいのある人を受け入れています。性別、年代も、障がいの有無も問いません。〝やってみたいをやってみよう〟をチームのモットーに、目標は〝愉しむこと〟だからではないでしょうか」。  このような活動が評価され「令和3年第15回かながわ・子育て支援奨励賞」を受賞しました。この賞は、県が子ども・子育て支援活動のモデルになる活動を表彰しているものです。その後、小原さんはより一層チームを成長させていきたいとの思いから、会社を早期退職して(一社)アナザーフィールドを設立し、代表理事としてチームの運営を行うようになりました。  グラウンドで見学をしていた保護者の方にお話を伺いました。「ここは、子どもも保護者も居心地がいい」「進学や子育て相談などの情報交換ができる」「子どもが明るくなった」「ありのままで受け入れてもらえる」等の声が聞かれました。  グラウンドでは小原さんによるノックが始まりました。杖を持って守備をする人、不自由な足で全力でボールを追う子、片手で受けて、受けた手でボールを投げる子、「いいよ、いいよ!」「元気出して行こう!」グラウンドのあちこちで大きな声が飛び交い、みんなが輝いている様子が見られます。  とても楽しそうですね、と言うと「楽しい」と「愉しい」の違いを小原さんは教えてくれました。「『愉しい』は、困難を受け入れて全力を尽くして得られる喜びだと捉えています。メンバーの子たちは十分厳しい思いをしているのです。ここでは愉しんでいいんです」と、小原さんは優しい眼差しでグラウンドを見ていました。  「今後は障がいの内容や性別に関わらず、誰もが参加できる新しい野球の大会を、全国で開催したい」と語ってくれました。(企画課) 〈写真〉 代表理事の小原さん 〈写真終わり〉 〈囲み〉 (一社)アナザーフィールド 横浜メイキングス https://anotherfield.yokohama/ 〈囲み終わり〉 「福祉タイムズ」は、赤い羽根共同募金の配分を受けて発行しています バックナンバーはHPから ご意見・ご感想をお待ちしています!→https://form.gle/74aewHkEfzQ9ybJQ8 【発行日】2023(令和5)年10月15日(毎月1回15日発行) 【編集発行人】新井隆 【発行所】社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 〒221-0825 横浜市神奈川区反町3丁目17-2 TEL 045-534-3866 FAX 045-312-6302 【印刷所】株式会社神奈川機関紙印刷所