テキストデータ作成に当たって  このデータは、『福祉タイムズ』 vol.861 2023年8月号(発行:神奈川県社会福祉協議会)をテキスト化したものです。  二重山カッコは作成者注記です。 P1 福祉タイムズふくしTIMES 2023.8 vol.861 編集・発行社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 特集 生活困窮者の個別支援から地域づくりへの展開~プラットフォーム整備事業の取り組みから~ NEWS&TOPICS P4 「やまゆりの日」開かれる  P5 施行10年を迎えて―障害者優先調達推進法 連載 P8 連携・協働の今―新たなパートナーシップを目指して-⑤ 今月の表紙  高校生ながら防災士の資格を取得し、学生団体「玄海」の共同代表として活動する橋本玄(はるか)さん。  「玄海」では「遊んで学ぶ防災教育」をテーマに、小学生を対象に様々なイベントを開催している。【詳しくは12面へ】撮影:菊池信夫 P2 特集 生活困窮者の個別支援から地域づくりへの展開 プラットフォーム整備事業(シエンジャーネット)の取り組みから  生活困窮者支援体制を構築するためのプラットフォーム整備事業(以下、プラットフォーム整備事業)は、コロナ禍の影響に加えて、物価高騰の影響によって生じる生活困窮者の増加に対応するため、地域の実情に応じた官民連携によるセーフティーネットを構築することを目的に、令和4年度から始まりました。今回は、本会が県より受託したプラットフォーム整備事業(シエンジャーネット)の取り組みから見える個別支援を通じた地域づくりへの展開についてお伝えします。 地域課題に向き合い、新たな取り組みにつなげたい  約3年に渡るコロナ禍を経て、これまで把握されてこなかった地域課題が顕在化してきています。ひきこもりや8050問題、社会的な孤立などの他にも、月の収入がギリギリで生活していた世帯の不安定な状況、相談すること自体が苦手な人の存在、外国籍の居住者の生活実態などから課題が複合的に絡み合っていることも多くあり、生活困窮者自立相談支援機関(本会では、町村部の相談支援事業を受託。以下、ほっとステーション)だけでは相談者やその世帯を支えることは困難です。また、これらの顕在化してきた地域の課題をどこかひとつの機関だけで解決できるものでもありません。多様な機関や団体・地域や人と連携し継続的な関りが必要となっており、その支援体制の構築が喫緊の課題となっています。  本会では、プラットフォーム整備事業を令和4年度より県から受託し、他機関・団体の協力を得ながら町村域での「シエンジャーネット」と呼ばれる会議体を設置しています。シエンジャーネットでは、町の関係機関やほっとステーションが支援しているケースの共有と支援を行う上での課題点の整理や課題に対応した取り組みとして考えられることはないかなどの検討を開始しています。  はじめに、ある町の事例を取り上げながら、プラットフォーム整備事業を通した相談者を中心とする支援体制の構築と、地域づくりについて紹介します。  Aさん(50代)は長年、母(80代)と二人暮らしでしたが、20代の時に離職してから20年以上自宅にひきこもった状態で暮らしていました。昨年末に母が亡くなり、本人が生活保護の相談をしたことで、関係機関を通じてほっとステーションにつながりました。Aさんは「働きたいけど、今世の中にどういう仕事があるのかも、自分に何ができるかも分からない」と話します。面談を重ねる中、Aさんは幼少期の父との思い出を多く話すようになりました。父と盆栽展に通ったこと、農作業をしたことを楽しそうに話し、本人も庭いじりや農作業が好きだと話してくれました。  シエンジャーネット会議では、本ケースについて、行政や社会福祉協議会、民生委員・児童委員、町内の社会福祉法人、保健福祉事務所等の関係者が集まり、地域でどのような社会参加の場をつくることができるかを協議しました。 〈写真〉 複数の関係機関が関わるケースについて協議を重ね、多角的にアプローチの方法を検討していく 〈写真終わり〉  生活困窮者自立支援制度の中には、すぐに就職することが難しい方に対して生活習慣を整えたり、就労に向けたトレーニング等を行ったりする就労準備支援事業があります。この事業の利用も検討されましたが、まずはAさんの意欲や希望、自立の段階に合わせて柔軟に支援を展開できることを第一に話し合われました。その中で、本人の趣味や好きなことに焦点を当て、町のボランティアセンターと連携し、地域のボランティアと一緒に植栽の手入れをするなどといった本人を中心とした支援のかたちについて意見が交わされ、支援の方向性を確認していきました。  具体的な支援としては、Aさん本人にとっての身近な生活上の課題をクリアして、自信の回復に向けた支援を継続しています。  現在は、Aさんの母と生前つながりがあった地域住民の方数人が、地域のルールが分からない本人のために声をかけ、ごみ出しを一緒に行う等のかかわりを持っています。Aさんがこれからも地域で暮らし続けることを念頭におき、本人を中心に身近な支援者をさらに増やしていくことを目指し、本人と地域住民との関係性への働きかけといった地域づくりにつなげていきたいと考えています。 P3 相談支援機関同士のつながり  Aさんの支援では、ほっとステーションの相談員が本人と一時的に連絡が取れなくなった時、町社協の職員が自宅を訪問し、体調確認するなど、関係機関と連携して対応を続けています。シエンジャーネットでは、一つの機関で支援が難しい状況・状態となった際などにおいて、各機関でどのように対応が可能であるかなど役割分担についての情報共有をしていきました。シエンジャーネット会議の中では、それぞれの相談機関に、既存の制度やサービスの対象かどうかの受付・案内で対応してしまうと、相談者が抱える真の困りごとに寄り添えないのではないかということに対しての話題が出されています。  また、日々受ける相談は、制度やサービスを利用しただけでは解決できないケースが多くありますが、組織内外で協議をする場が少ないことから、相談員が支援に行き詰まり、孤立しがちであることも課題として挙がりました。支援困難と言われるケースであれば、担当する相談員をサポートする体制があることが不可欠ですが、一つの組織ではマンパワーが不足する現状もあります。今後は多機関、専門職が集まるシエンジャーネットで、ケースを共有・協議することで相談員の心理的負担を減らし、各機関の知見を共有することで、互いのスキルアップと質のよい支援につなげることも期待されるところです。 「支援」から相談につなげるしくみづくり  シエンジャーネットでは個別支援への対応だけでなく、地域の社会資源の充足状況の把握と開発に向けた検討も目的の一つとしています。  令和4年度には、生活困窮者支援の現場からの課題を把握するため、二宮町でフードバンク事業を行っている支援団体から話を伺いました。  二宮町では、4つの団体がフードバンク事業を定期的に実施しており、その中で同じ世帯が複数回にわたりフードバンクを利用したり、他のエリアのフードバンクを併用していたりする状況が把握されています。町のフードバンクでは、緊急時に利用してもらえるようハードルを下げる意味合いで、利用者の個人情報の取得をしていません。そのため、利用者個々の生活状況を把握するには至っておらず、固定化する利用者層を適切な支援につなげていく仕組みが必要であることが明らかになりました。  シエンジャーネット会議の議論の中では、相談の窓口を知っていたとしても自らSOSを発することができない方にどのようなアプローチができるかについても話し合いました。  その対応策の一つとして、支援団体等の協力を得ながらほっとステーションと二宮町社協の連絡先を記載したカードを利用者に渡していくことになりました。令和5年度は、食料支援を行う訪問活動の中で、この案内カードを活用するための準備を進めています。 〈写真〉 地域の住民から寄付された新鮮な野菜が並ぶ町のフードバンク 〈写真終わり〉  この訪問による食料支援では、利用者の方から「訪問してもらうとホッとする」という声も聞かれています。地域の支援者が一人ひとりに寄り添い、信頼関係を築き、少しでも相談のハードルを下げていくことを目的に取り組んでいきます。 シエンジャーネット=包括的支援体制  シエンジャーネットでは、専門機関・団体同士で顔の見える関係ができ、互いの役割を理解しながら多角的に課題分析を行い、支援の幅を広げていくことを目的としています。個別のケースから地域の課題を整理し取り上げ、地域住民やボランティアなどインフォーマルなサポートの担い手を巻き込み、ネットワークを整備していくことが求められています。  これは、令和3年4月から始まった「重層的支援体制整備事業」における包括的相談支援事業の目的と一致していることから、生活困窮者支援においても「包括的支援体制」を意識して進めていく必要があります。新たな会議体を設置するだけでなく、他制度で運営されている既存の会議体を活用していくことも検討し、地域での継続的な相談支援体制を構築していきます。(地域課) P4 NEWS&TOPICS 「やまゆりの日」開かれる  コロナ禍も一段落し、対面方式で「やまゆりの日」が7月21日(金)、かながわ県民センターにて開催されました。  「やまゆりの日」は、平成28年7月、障害者支援施設「津久井やまゆり園」にて、19人の利用者の尊い命が奪われた事件を契機に、犠牲者への追悼、このような事件を二度と繰り返さない強い決意と、あらためて地域共生社会の実現に向けて考える場として同年から始まりました。  主催は、(一社)神奈川県知的障害施設団体連合会で、本会と県身体障害施設協会が共催し、実施されています。  当日は追悼式の後、3部構成で行われ、第1部では(福)かながわ共同会理事長の山下康さんにより、津久井やまゆり園再生へ引き続き取り組む固い決意表明、施設長の永井清光さんにより、更なる意思決定支援の推進や利用者の地域生活を目指した取り組み、当事者の思い、考えを反映させた施設での具体的な取り組みの報告がありました。  第2部では、本年4月に「当事者目線の障害福祉推進条例」が施行されたことを契機に、首藤健治県副知事による講演がありました。  講演の中で、条例について知事自らが、障害当事者との対話を重ね、障害者本人の意思を尊重するためには、本人の立場に立たなくてはならない大切さに改めて気づかされたとお話になりました。そして、当事者目線の障がい福祉の推進が「ともに生きる社会かながわ憲章」の実現につながるものと確信し、この条例が制定されたと、条例制定の背景について説明されました。  また、本県でのあおぞら宣言という民間福祉施設関係者による画期的な取り組みが全国に先駆けて実施されていたことに対して高く評価されるとともに、とりわけ障害のある人だけではなく、すべての県民に通じるという姿勢は、今回の条例に通じるものであると、県内知的障害福祉関係者の先見の明とご努力に敬意を表されました。  第3部では、令和4年度(公財)日本知的障害者福祉協会会長賞を受賞された、(福)みなと舎元理事長の飯野雄彦さんにより、医療的ケアが必要な人々の支援にむけた施設整備、支援に関わったご経験から福祉本来のあり方や課題についてのお話がありました。まだ施設整備されていない時代からの取り組み、今の時代でも大切にしなくてはいけないことについてのお話をされました。 〈写真〉 「やまゆりの日」には約100人が集まった 〈写真終わり〉  講演を受けて、県知的障害施設団体連合会会長の出縄守英さんは、次のような感想を述べられました。「私たちが大切にしてきたあおぞら宣言を評価していただき感謝しています。現在施設で支援を受けて暮らしている人も地域で生活できるように、また現在地域で生活している人も高齢化、疾病等で難しくなった場合は施設で再び支援を受けられる等、本人が望み、本人が必要とするサービスを受けられるよう条例の理念に基づいた、『循環型』社会の実現に関係者一同、引き続き努力していきたいと考えています」。 (企画課) 〈囲み〉 あおぞら宣言 第1条 障害者としてではなく一人の人間としてみてほしい 第2条 自分のことは自分で決めます 第3条 好きなところで暮らします 第4条 自分のお金は自分のために使います 第5条 生きがいを持ちます 第6条 共に生きる社会を作ります あおぞらプランは1994年制定。 その後2000年、2019年に改定され、あおぞらプランⅢになっています 当事者目線の障がい福祉を進めるための大切な考え方(基本理念) ・個人として尊重されること ・障がい者が自己決定できるようにすること ・障がい者が、希望する場所で、自分らしく暮らせること ・障がい者の可能性を大切にすること ・障がい者だけでなく、周りの人たちも喜びを感じられること ・すべての県民で地域共生社会を実現すること 神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例リーフレットより 〈囲み終わり〉 P5 NEWS&TOPICS 施行10年を迎えて ―障害者優先調達推進法 本会施設部会社会就労センター協議会 会長 鈴木暢 ●障害者優先調達推進法とは  障害者優先調達推進法は、平成25年4月1日に施行され今年で10年目になりました。  この法律は、国や地方公共団体、独立行政法人等が率先して、印刷、クリーニング、清掃、物品の購入、菓子・パン・弁当等の食品など、就労継続支援事業所等(以下、事業所等)へ発注できるものはできるだけするという法律で、国や地方公共団体、独立行政法人等(以下、自治体)は、優先的に物品・サービスを購入する努力義務が課されています。 ●推進法施行の効果  事業所等は、日常の生産活動を通じて障害者の社会参加に力を注ぎ、工賃の向上、就職の促進に努めています。その活動において仕事の確保はとても重要となるのですが、ここが難しいところになります。  一般的な会社であれば、仕事量にあわせて社員を増やすことになります。ところが事業所等は、はじめに定員があって、そこにあわせて仕事を確保しなければなりません。更に利用者支援と営業活動との同時進行ですから仕事を得るのに大変な苦労を要するわけです。  障害者優先調達推進法の施行により、事業所等への発注が施策として推進されるようになり、少なからず変化がでてきました。  自治体では、年度ごとに推進方針を作成しHPで公開することになりましたし、実績を公開するところも増えてきました。 ●最大の課題はマッチング  現状で事業所等からの調達は努力義務となっており、それぞれの自治体においては、発注事務の際に担当者によっては必ずしも事業所等を調達先として意識していない場合もあるようです。  また、自治体は事業所等がどのような仕事をできるのかわからない、事業所等は自治体がどのような仕事を発注したいのかわからないといった、マッチングの課題は否めませんが、自治体からの発注を機に新規の事業(生産活動)を開始する事業所等も多々あるので、共同受注窓口を有効に活用いただければありがたいと思っています。 〈写真〉 事業所の作業の様子 〈写真終わり〉 ●横浜市の画期的な取り組み  一方、横浜市では、毎年目標額を区役所も含め設定し、前年度を上回るように努力しています。HPでは市役所としての総額だけではなく各部所、各区別の前年度発注額を公表しています。  部所によっては物品調達等事業実施の際に障害者優先調達推進法の適用ができるのか検討するようにしているとのことで、私たちにとっては非常に心強い行政のバックアップと感じています。  横浜市のように自治体が一層力を入れ、私たちを視野に入れて取り組んでいただきたい、県内全体に普及してほしいと強く願っています。 ●障害者が仕事をするということ  私たちは当たり前のように仕事をしていますが、障害者にとってはかけがえのない、社会参加の場です。自分が関わった製品が社会の役に立っていること、また、街を歩いているときにその製品を目にしたときの喜びは私たちの想像を超える喜びとなり、地域で生活する励みとなっています。  当事者目線に立った共に生きる社会づくりを目指して、皆様の格別なご理解、ご協力をお願いします。 〈図〉 障害者就労施設等への発注例 「障害者優先調達推進法啓発パンフレット」(厚労省)より抜粋 〈図終わり〉 P6 福祉のうごき 2023年6月26日~2023年7月25日※新聞等掲載時点 ●精神障害の労災最多、4年連続パワハラ目立つ  厚生労働省は6月30日、仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症し、2022年度に労災認定を受けた件数は710件と公表した(「過労死等の労災補償状況」より)。4年連続で過去最多を更新した。  業種別の支給決定件数は「医療福祉」(164件)、「製造業」(104件)、「卸売業、小売業」(100件)の順に多い。原因別では「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が最多だった。 ●「みんかな」被災者支援で岡山の団体と連携  県内で災害時の被災者支援を後押しする民間組織「災害復興くらし応援・みんなのネットワークかながわ(みんかな)」は6月29日、岡山県の支援団体「災害支援ネットワークおかやま(災害ネットおかやま)」と連携協定を結んだ。災害時にボランティアや支援団体の果たす役割が増す中、互いの事例や経験を学び、効果的な支援の実現を目指す。災害ネットおかやまは、平成30年7月の西日本豪雨で被災者支援に幅広く取り組んだ実績がある。 ●「あすなろサポートステーション」海老名に新拠点  県は7月1日、児童養護施設などの退所者を支援する新たな拠点「あすなろ県央ブランチ」を海老名市内に開設した。藤沢市にある「あすなろサポートステーション」のサテライト施設として、相談機能のほかに住居スペースを併設する。海老名市に開設することで、県央地域の利便性の向上や地域の児童養護施設などとの連携推進を図る。 ●川崎市社協とNEC、パートナーシップ協定を締結  川崎市社会福祉協議会と日本電気株式会社(NEC)は、7月3日、地域共生社会の実現とSDGs達成への貢献に向けてパートナーシップ協定を締結した。川崎市社協がパートナーシップ協定を締結するのは初となる。今後、プロボノ・地域共創活動を通じた地域共生社会の実現やDXによる新たな住民サービス創出のための調査研究・実証等に取り組む。 P7 私のおすすめCHECK! ◎このコーナーでは、子育てや障害、認知症・介護当事者等の目線から、普段の暮らしに役立つ「おすすめ」なものを紹介します。 親子で防災公園について知り、災害に備えよう  1923年に神奈川県西部(相模トラフ)を震源地として起きた関東大震災から今年は100年。防災意識を高めようと発生日の9月1日が防災の日に定められました。  そこで今回は、いつもは人々の憩いの場である公園が災害時には避難や防災の拠点となる「防災公園」に注目。県内にある2ヶ所の防災公園をピックアップし、どのような設備があるのかを紹介します。 今月は→NPO法人 ままとんきっずがお伝えします!  今年で子育て支援活動30年目。お母さんたちが主体となって、親子が集うサロン、グループ保育、一時保育、各種講座、産後サポート、子育て支援センター、小学校での寺子屋事業、中学校での赤ちゃんふれあい体験事業などを運営。情報誌・単行本の発行物は45冊を超え、一部は海外でも翻訳出版。乳幼児から小中学生まで幅広い子育て支援により、地域の活性化を目指し、活動の場を広げている。 〈連絡先〉〒214-0011 川崎市多摩区布田24-26 TEL044-945-8662 FAX 044-944-3009 URL:http://www.mamaton.jpn.org/ ◆展望広場がヘリポートに、ベンチがトイレに  厚木市「ぼうさいの丘公園」  面積9.4ha(東京ドーム約2個分)。厚木市の広域避難場所に指定され、約2万人の避難が可能な公園です。大型複合遊具やローラー滑り台、芝生広場、小動物園などがあり、災害時には丹沢の山々が眺められる展望広場がヘリポートに、水遊びができる池や野鳥の観察ができる池の水が生活用水や防火用水に使われます。  公園の管理事務所が入っているセンター施設は、現地対策本部や医務室になり、備蓄倉庫には食料や簡易トイレ、発電機、毛布などが保管されています。地下には耐震性貯水槽が設けられ、約3万3千人の3日分の飲料水が供給できるそうです。園内にはベンチの座板を外し、便座とテントを設置すると汲み取り式トイレになるトイレ式ベンチが32基、配置されています。 〈写真3点〉 水遊びができる池 備蓄倉庫 トイレ式ベンチは、ベンチの脚の部分が2つのトイレになる。大きいテントでは車いすのまま利用可能※ぼうさいの丘公園にあるものとは若干異なります 〈写真3点終わり〉 ◆遊具を利用して張ったテントが着替え場所に  大和市「やまと防災パーク」  面積1.2ha。複合遊具や健康遊具、防球ネットに囲まれたボール遊びエリアがある公園です。住宅街に位置しているため、園外の火災が園内に広がらないように土手や防火樹で囲まれ、消火栓とホースをつなげて放水できる消火設備が配置されています。  2階建て耐火建築物の防災備蓄倉庫に入っているのは食料、携帯トイレ、毛布、発電機など。複合遊具やあずまやを利用して張るテントは着替え場所などに使うことが想定されているそうです。園内には座板を外すと炊き出し用のかまどになるベンチ、マンホールの蓋をあけて便座とテントを設置すると汲み取り式のトイレになるマンホールトイレが5基、整備されています。 〈写真4点〉 複合遊具やあずまやを利用して張ったテント かまどベンチ マンホールトイレ 〈写真4点終わり〉  いざという時に心強い設備がそろう防災公園。皆さんも自分が住んでいる地域の防災設備について把握し、まずは各家庭で必要な食料や水、トイレなどの備蓄品を見直してみませんか。また、親子で災害時にどう行動するかを話し合うなど、災害への備えを万全にしておきたいですね。 〈囲み〉 厚木市「ぼうさいの丘公園」 〒243-0033 厚木市温水783-1 TEL046-225-2410 FAX 046-225-3027(厚木市公園緑地課) 大和市「やまと防災パーク」 〒242-0006 大和市南林間6-16 TEL046-263-9221 FAX 046-263-6514(大和市みどり公園課) 〈囲み終わり〉 P8 ー新たなパートナーシップを目指してー 連携・協働の今  連載 連携・協働の今⑤ 孤立している人を地域につなぐ―逗子市社会福祉協議会の取り組み  現代社会の貧困は、ひきこもり、ごみ屋敷・孤独死などに象徴されますが、初めのうちは、支援が必要というより、困りごとのある人、課題のある世帯といった形で認識されることがあります。  今回は、孤立している人を、連携・協働の力で地域社会につなぎ、地域との関係作りを支える、逗子市社協の生活困窮者自立相談支援事業の取り組みを取材しました。※事例は一部加工しています  逗子市社協が受託している生活困窮者自立相談支援事業では、令和4年度の新規相談件数が65件、加えて、継続した相談が104件、合計169件となっています。相談の中では、負債等の経済的な問題をはじめ、複合的な課題を抱える世帯が多くあります。 ひきこもりの人への支援  事務局長の木村さんは言います。「困窮の相談では、世帯への支援も多いです。ある事例では、70代の本人から『お金がない。貸してほしい』と連絡がありました。『出向くことができない』と言うので、気になって自宅を訪問したところ、敷地には木が生い茂り、本当に人が住んでいるのか、という状態でした。本人はごみの中に布団を敷くような形で寝ていました。この方は裸でコンビニに行ったりするので、元々地域からは知られる人でした。ずっと単身だと思っていたのですが、訪問してみると、2階に甥が住んでいて、地域との接点は殆どなく、本人の年金を頼りにひきこもった生活をしていたようです。甥は少し攻撃的な態度もあり一見怖そうな雰囲気でした。しかし、関わるうち、根は優しい人だというのも分かってきました」。  甥に対しては「本人はあなただけが頼り。困ったら社協に連絡して」と繰り返し伝えて、関係性を維持できるよう努めました。 関係者の力をつなぐ〝糊代〟  一方、本人は認知症が進み、足が壊死している状態でしたが、ある日、熱中症で救急搬送され入院します。甥は、医療同意や支払いの手続きにおいてコミュニケーションが難しく、支援が必要でした。そのため、本人の成年後見人の申立てを支援しましたが、退院を目前に急逝されました。  この経過の中で、社協は直葬の手配やその費用の支払調整、遺骨の移送など、甥に意向を確認し、伴走しながら支援を行いました。本人の資産も少ない中では、日ごろから関係のあった権利擁護に強い弁護士、顔が見える関係のMSW、活動に理解を示す地元葬儀会社、関連する行政の各部署等の協力がありました。  一つの事例を通じて関係者との顔が見える関係ができ、次の事例に対応することによってその関係性はさらに広がっていきます。このように連携を進める上で、木村さんは「つながりのための〝糊代(のりしろ)〟が大事」と言います。糊代とは、人や組織が自らの領域を少し越えて手を取り合える部分を増やすことを意味しますが、連携する上ではお互いに柔軟な対応が大事、ということが逗子市社協の取り組みからも伝わってきます。 地域の不安感からの本人理解  甥には生活保護の手続きを支援していましたが、ある日、携帯会社の通信障害があった際、電話が通じないことで混乱した甥が自治会館に駆け込み、携帯電話を2つに折るちょっとした騒動がありました。この様子を目の当たりにした地域住民は、甥を「怖い人」と受け止めるようになりました。その状況を逗子市社協の地域担当者がキャッチし、木村さんは地域の人たちの誤解を解こうと、自治会の方と話し合いをしました。 〈図〉 認知症高齢者と50歳代のひきこもりの方の事例 逗子市社協の資料を基に本会作成 〈図終わり〉 P9 地域の底力・お互いさまの活動  逗子市社協では、地域で見守り活動を行う「お互いさまサポーター」を組織化しています。  本人が住むエリアにもお互いさまサポーターがいて、ずっと本人の世帯を気にかけ関わりを持ってくれていました。そのサポーターの後押しもあって、自治会の話し合いでは「今は排除ではなく共生の時代。ひきこもりの人でも地域で安心して暮らせるよう、困窮する人に寄り添う活動につなげてはどうか」という意見が出ました。さらに、甥だけでなく地域には様々な人が生活しており、そのような方々をより理解するため、勉強会をしようという声も上がりました。その後、自治会では「地域支え合い学習会」という形で学びの機会を持つことができました。 〈写真〉 地域支え合い学習会において、大学より講師を招き、理解を深めた 〈写真終わり〉  甥にも変化がありました。「ごみ置き場の掃除当番の順番が回ってくる際、自分にできるかどうかドキドキしている」と相談が入りました。そこでは「一緒に、地域の皆さんの役に立てる所を見せていきましょう」と声かけて励まし、 甥は無事に掃除当番の役割を果たすことができました。 そのことをきっかけに、甥は他にも地域に貢献できることはないかと、地域の活動に関心が向く様子が見られるようになりました。  木村さんは言います。「住民の皆さんが困っている人をキャッチしてくれるだけでなく、見守って支えてくれているのは、これまでのお互いさまの活動によって、共に支え合う経験が作られてきたからだと思います」。 地域生活課題の解決に向けて  孤立している人とは、時間をかけて信頼関係を作ります。本人の意向を踏まえることが大前提ですが、暮らしを広げ支えてくれる地域の住民や関係機関、法律家や企業などにつなげ、生活の幅を広げていくことが必要です。そこでは、社協がこれまでの事業を通じて培ってきたネットワークを生かせる場面が多くあります。  生活困窮者自立相談支援事業では、住まいや就労、地域社会からの孤立など、福祉や介護分野に留まらない地域生活課題への対応が求められています。  逗子市社協では、連携・協働を多様な形で広げられるよう、柔軟に対応しながら地域でのソーシャルワークの活動に取り組んでいます。(企画課) P10 県社協のひろば ケアラー・ヤングケアラーを地域で支えるために―ケアラー支援専門員設置事業の取り組み  本会では「ケアラー支援専門員設置事業」を県から受託し、ケアラー・ヤングケアラー(以下、ケアラー等)とその家族に関わる支援者を支える取り組みを行っています。 ●ケアラー支援専門員設置事業の柱  事業は、次の3つを具体的な取り組みの柱としています。 ①意識啓発・情報発信  民生委員・児童委員やボランティア、福祉・教育・医療等の専門職まで、幅広い対象に対するケアラー等の課題共有及び理解普及のための研修や情報発信を行います。 ②相談・コーディネート機能  市町村や各種相談窓口からの二次相談に対応し、支援ネットワークのコーディネートを行います。 ③市町村域・保健福祉圏域  支援ネットワーク構築  地域等の相談支援機関や関係者による情報共有・事例検討を通した支援ネットワークの構築と、支援策の蓄積を図ります。 ●ケアラー等に気付くために  県内の相談窓口、子どもや家族に関わる機関・施設等へのアウトリーチを行い、状況の把握と共に広報啓発活動を行っています。  ケアラー等に気付くためには、子どもや家族に関わる可能性の高い多くの支援者に、ケアラー等の現状や実態を伝えていくことが重要であると捉えています。その活動の一環として、ケアラー支援専門員を講師として派遣しています。併せて、研修プログラムの企画相談にも応じており、当事者の講演を取り入れたコーディネートも行っています。  これまでにも、高校スクールソーシャルワーカー、養護教諭や教員のための研修会や民生委員・児童委員、保護司等との勉強会、青少年問題を協議する会、地域包括支援センター職員向け研修会等で、ケアラー等の実態についてお伝えしてきました。  本事業では、支援機関等を対象とした研修会の実施も予定しています。これらの情報はホームページでご案内するほか、電話でも各種ご相談に応じております。  ケアラー等とその家族を地域で支えるために、ケアラー支援専門員をご活用いただき、共に考える取り組みを進めていきます。 (地域課) 〈コラム〉 「ケアラー・ヤングケアラー」について 法令上の定義はありませんが、日本ケアラー連盟の定義では「心やからだに不調のある人の『介護』『看病』『療育』『世話』『気づかい』など、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人のこと」を「ケアラー」と言います。そして「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面等のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども」を「ヤングケアラー」と呼びます。子ども自身がヤングケアラーと認識することは難しいと言われており、見守りや気にかけてくれる関係性を身近な地域で作ることが重要です。 〈コラム終わり〉 〈囲み〉 【ケアラー支援専門員のご案内】 ケアラー・ヤングケアラーの支援者・相談機関からの相談窓口:本会地域福祉部地域課内 TEL045-312-4815 〈囲み終わり〉 〈囲み〉 【かながわケアラー支援ポータルサイトのご案内】 ケアラー・ヤングケアラーご本人やご家族、ご友人、近隣の方からの相談窓口を掲載しています 〈囲み終わり〉 P11 Information 本会主催の催し 児童福祉施設のしごと就職支援セミナー・合同就職相談会  児童福祉施設の現場職員から働き方・やりがいなどの話を聞くチャンスです。  就職相談会では県内の児童福祉施設職員があなたの疑問や不安に応えます。 ◇日時=令和5年9月16日(土)  就職支援セミナー 12時50分~13時45分  合同就職相談会 14時~16時 ◇会場=MEETING SPACE AP横浜 ◇申込方法=Googleフォームにて申込み URL:https://forms.gle/5GowtA8KXiQNhQg16  講座の詳細はHPで確認 URL:https://www.kfjc.jp/event/detail.asp?id=20874 寄附金品ありがとうございました 【県社協への寄附】古積英太郎 【交通遺児等援護基金】(株)エスホケン 【子ども福祉基金】神奈川職友クラブ、(株)エスホケン、脇隆志 【ともしび基金】(福)日本医療伝道会総合病院衣笠病院、住宅営繕事務所 (合計7件244,374円) 【寄附物品】(公財)報知社会福祉事業団、住宅営繕事務所、(一社)日本塗装工業会神奈川県支部、神奈川昭和会 【ライフサポート事業】<寄附物品>(N)セカンド・ハーベストジャパン (いずれも順不同、敬称略) 〈写真2点〉 ともしび基金に寄附いただき、令和5年7月11日、県ボウリング協会 大石和弘会長(左)へ感謝状を贈呈 白十字会林間学校における塗装ボランティアに対し、令和5年7月13日、(一社)日本塗装工業会神奈川県支部、神奈川昭和会へ感謝状を贈呈 〈写真2点終わり〉 〈囲み〉 事業外部評価結果の公表  本会では、事業の効果的・効率的な展開と、次期活動推進計画策定に反映すること目的に、次の取り組みについて、事業外部評価委員会(委員長:村元良悦氏)による評価を実施し、その結果が7月25日にまとまりましたので公表します。  委員会による評価内容については、本会ホームページにてご覧ください。 ≪対象とした取り組み≫ ①地域福祉活動支援事業・協働モデル助成について ②機関紙・ホームページを中心とした情報発信について http://www.knsyk.jp/s/global_syakyou/hyouka_top.html 〈囲み終わり〉 みんなのいいね 読者投稿コーナー  読者の皆様からの街や職場等で見つけた“ほっとするもの”の写真投稿を募集します。  お写真とともに、一言メッセージ(50字程度)をお寄せください。  採用された方には、ささやかですが、図書カードをお送りいたします。 皆様の投稿をお待ちしております。 【投稿先】 https://forms.gle/ewcHVoPHN44ocUPDA 〈写真〉 今夏もラムネ 今年もやって来ました、この季節♪こどもに混じって、『大人もシュワワ~』(SYさん・葉山町) 〈写真終わり〉 P12 かながわほっと情報 防災活動を通した100人が輝ける地域づくり 防災普及学生団体 玄海 代表・防災士 橋本 玄さん(鎌倉市)  毎年9月1日は「防災の日」です。この日を含む一週間は「防災週間」(今年度は8月30日~9月5日)とされています。  今回は、高校生ながら鎌倉の学生防災団体「玄海」の共同代表で、防災士として活動する橋本玄さんにお話を伺いました。  橋本さんは、お父様に連れられて小学生の頃から東日本大震災の復興支援を手伝うようになりました。そのような中で、橋本さんが自ら防災活動をしようと強く思ったのは、中学校での防災訓練でした。鎌倉は地震、津波、がけ崩れと災害が起こりうる地域であるにも関わらず訓練はどこか他人事で、復興支援の現場を見て来た橋本さんは、歯がゆい思いをしていたそうです。 〈写真〉 「宝さがし」の様子 〈写真終わり〉  そして中学三年生の頃、2歳年上の中里海人さんと「大船地区危険個所動画」を二人で撮影し発信したことをきっかけに「玄海」の活動がスタートしました。現在「玄海」は30名の学生が活動をしています。橋本さんは「好き×防災」をモットーに仲間集めを行いました。メンバーそれぞれが得意とする、WEB技術やデザイン、子どもとのふれあい等を「玄海」の中で実践して欲しい、と橋本さんは言います。  また、自らは防災士の資格を取得。資格を取ることで周りから信頼を得ることができ、自信に繋がり、防災士のコミュニティにも参加するようになりました。 〈写真〉 「防災運動会」の様子 〈写真終わり〉  「玄海」の活動では、学生らしい柔軟な発想を活かして「遊んで学ぶ」ことに重点を置き、小学生を対象に「防災運動会」「宝さがし(町中の危険箇所探し)」「キャンプ」等を行ったり、各地区の自治会と協力して、地域の危険箇所の確認をしています。また、岩手県釜石市の高校生と連携し、震災の教訓を発信しています。橋本さんは「あなたの大切な人を守るためにも、ぜひ防災について学んでほしい。そして、自分にとっての防災が何かを常に考え『私にとっての防災はこれ』というのを心に持っていてほしい」と言います。そして、防災活動を通した100人が輝ける地域づくりとして、防災をきっかけとした地域コミュニティにつながっていくことを目指しています。  橋本さんの将来の夢は、起業して防災に取り組むことです。それは、災害が発生したとき「生きていてほしい」という強い思いがあるからです。  清々しく優しい笑顔の橋本さんでしたが、防災に対する力強い決意を感じた取材でした。 (企画課) 「福祉タイムズ」は、赤い羽根共同募金の配分を受けて発行しています バックナンバーはHPから ご意見・ご感想をお待ちしています!→https://form.gle/74aewHkEfzQ9ybJQ8 【発行日】2023(令和5)年8月15日(毎月1回15日発行) 【編集発行人】新井隆 【発行所】社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会 〒221-0825 横浜市神奈川区反町3丁目17-2 TEL 045-534-3866 FAX  045-312-6302 【印刷所】株式会社神奈川機関紙印刷所